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経営戦略と広報:事業を強化するための目標設計と組織づくりをどう進めるか?

テックタッチ株式会社のHead of PR/ Marketing の中釜由起子です。(@YukikoNakagama、入社エントリーはこちら)テックタッチは、昨年末、デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)領域で3年連続国内シェアNo.1を獲得しました。

私たちのようなスタートアップかつ新領域のサービスは、認知の獲得がとても重要です。経営戦略において、広報はとても重要かつインパクトがあるにもかかわらず、体系立てて書かれたものが少ないです。最近他社の方にKPIの立て方やPDCAの回し方など、どのように強化すべきか聞かれることが多いので、まだまだ認知を広げていく途中ではありますが、私の経験をまとめてみます。

まずは自己紹介を。2023年4月にHead of PRとして入社しました。新聞社でWebメディアを立ち上げて編集長を務めた後、IT企業でマーケティング・広報(ブランディング)・営業・事業開発などの責任者を経験しました。そのうえで、テックタッチには経営に資する広報として働きたいという想いで入社しているので、広報だけに携わってきたわけではありません。ただ、長くメディア側にいて、企業の広報の方とコミュニケーションをする機会が多かったので、「企業の広報担当者がメディアとどのように関係構築をすべきか」「経営目線で広報をいかに強化すべきか」の両方に勘所があるかなとは思うので、今回は特に後者にフォーカスして掘り下げたいと思います。(今年度の成果としては、前期で前年度露出200%達成、ターゲットメディア掲載数7倍)

広報にはコーポレート広報、危機管理広報、採用広報などがありますが、今回は、事業広報をいかに強化するかについて、下記の構成に沿って重要なポイントを掘り下げていきます。


1. 広報を強化するならまずやるべきこと

・経営と握る

まず、これはすごく大事でかつ難しいことだと思います。
そもそも会社の経営陣が何を求めているのかをすり合わせた上で目標を定義しないと始まらないので、とても重要ですが、他社の広報の方や経営の方とお話をした際に、ここができている会社は3割くらいです。
なぜこれが実現できないのかというと、経営者の方が「そもそも広報活動によって実現できることと期待できること」への理解が曖昧で、「自社の広報に何を求めるか」を明確に言語化できていない方が多いからではないでしょうか。

・そもそも広報は何ができるのか

一口に広報といっても、広報が担える業務は、プレスリリース、メディアリレーション(メディアとの関係構築)、コンテンツマーケティング、広報を通じたブランディング、危機管理など多岐に渡ります。戦略的な広報活動のプロセスと、得られる成果を理解してこそ、経営戦略に沿った組織体制の構築と目標設定ができるはずなので、以下でそれぞれの業務と具体的な内容の定義を確認してみることをオススメします。

プレスリリースは出しておしまい?

広報の施策と聞いて真っ先に頭に浮かぶのがプレスリリースの方は多いと思いますが、広報の仕事は、プレスリリースを作ることだけではありません。原稿を書いてからがスタートで、それぞれいかに経営戦略に基づいて発信し、適切なメディアに、取り上げられやすいように情報提供するか、事業でいかに活用できるかを逆算してリリースを扱うのが広報です。

記者さんと仲良くなれば事業の認知が高まる?

メディアリレーションについても、「記者と知り合いになり、話す」ことだけが仕事ではありません。各メディアの意図や注力テーマを把握し、読者属性に応じて表現も変え、自社の立ち位置と強みを明確にした上で「そのまま記事にできる」くらいの企画書をつくる。その情報を適切なタイミングで提示できて初めて、「記者との信頼関係」を構築でき、ターゲットメディアでの記事化と経営戦略に沿ったパブリシティ(※1)が可能になります。

※1 パブリシティ:広報活動の一形態で、メディアを通じて広く一般の人々に情報や注意を引くこと。メディアとの協力が鍵となり、質の高い情報提供とクリエイティブなアプローチが肝となる

このように、広報は、事業や経営に対して大きなインパクトを生むことができる職種ですが、広くその重要性と難しさが理解されていないと感じることも多いので、ぜひ奥深さとポテンシャルを知っていただきたいなと思います。(私がこの記事で一番言いたいことはこれで、これ以降は手法の問題なので、詳しく知りたい方は必要に応じて知りたいテーマをお読みください)

上記のような広報でできることを踏まえて、「経営者が広報に求めること」は下記の3つです。

1. 成果の測定方法と効果の評価
経営者は、広報活動の成果を具体的かつ定量的に測定したがっている
→広報の活動が企業の目標達成にどれだけ寄与しているか、またその効果をどう評価するか、投資対効果についての明確な指標や手法を理解したい

2. 競合他社との比較と市場動向の把握
自社の広報戦略が競合他社と比較してどれほど有効かについて知りたがっている
→市場動向やトレンドに敏感に対応できているかどうか、そして競合他社との差別化ができているかが気になる

3. 広報戦略の柔軟性と変化への適応性
 市場の変化に、広報戦略が柔軟かつ迅速に適応できるかについて気にしている
→必要に応じて変更が行えるプロセスが設計されていてほしい

・自社の組織状況を把握した上で指標を段階的に設定する

経営者にとっては当たり前の指標設定とモニタリングが、広報担当者にとってはハードルが高いことが多いです。他社の広報の方と話すと、「広報は全て数値化できないし、成果の説明が難しいですよね」という話題が必ず出ます。リソースが限られるスタートアップ企業の場合、広報職に以下のような人材がアサインされる傾向があります。
①記事化の専門人材
②未経験者および若手 
この人材だけに広報のハンドリングを任せると、経営と握ることに課題が生じる要素が増えることになります。具体的には、①に特化している方は経営指標と発信を接続させる経験が少ないですし、②の場合は、そもそも業務内容自体に知見がないので、プレスリリースの書き方や経営方針の理解をすることからスタートし、経営戦略に基づいた指標を設定するハードルが高いからです。
②には、自社への愛着と柔軟性が高い人材を配置できると言う意味ではメリットがありますが、戦略設計やメトリクスの設定、早期の効果創出には時間がかかることがあります。この場合に、戦略広報的な動きを求める場合は、専門人材に業務委託などでフォローしてもらうか、経営の方が一時期現場と一緒に動いた方が良いと思います。まずは事故なく正しく情報発信をするフェーズだと割り切って、段階を経て強化するべきだと思います。

追う指標として実際に広報の方が採用することが多いのは
・広告換算値
・メディア掲載数(メディアリレーションの結果数値)
・公開記事本数(自社作成)
・メディアアタック数

辺りなので、あまり指標を増やしすぎずに、まずはこの数値をモニタリングすると良いのではないかと思います。

指標自体は定義されていて納得感がない場合は、広報業務を理解したうえで、経営者の方から「こういう情報がみたい、他にもこの指標はどうか」というすり合わせができるといいのかなと思います。

2. 広報の分析方法と指標設定の進め方

ここからは、テックタッチを例に、実際にどのようにして経営戦略において広報を位置付けたかについて説明します。
実際に、私が2023年4月に入社するまで、テックタッチの場合は、広報担当は1人。他に、外部からアドバイザーとしてサポートに入ってもらっていました。

私の場合は専門人材として入社したので、まず上記を全てクリアにして指標まで合意形成することに尽力しました。「経営者と握る」とは、上記の3つの疑問点を解消すると言う意味で、広報として発信すべきメッセージや広報単体で重要視する指標を定義するだけでは十分でなく、経営指標との接続して指標を設計し、言語化して腹落ちしてもらうことがとても重要でした。

このプロセスは、メディアリレーション(露出を増やすためのメディアとのコミニュケーション)でも、大いに活かせると思っていて、メディアとの個人的なつながりだけで継続的に記事化してもらえることは稀で、「相手が求める情報を適切に提示する」ための最初のトレーニングとして位置付ければいいと思います。

テックタッチの場合は、「事業広報」にフォーカスしていて、部署名を「PRチーム」としています。組織名を広報部としているか、PRとしているかでその会社での位置付けも伝わるなと思っているので少しだけ解説すると、そもそもPRとはプロモーションではなく、「パブリックリレーションズ(Public Relations)」の略で、Public(公衆)との良い関係作りを意味しています。「広報」という言葉だと、「情報発信をする」と言う意味合いが強いですが、PRは、広報活動だけでなく広告、イベント、コミュニケーション戦略、社会貢献活動などが含まれるので、テックタッチではこのPRという言葉がピッタリだと思っています。(今回は、まずは「広報」にフォーカスしているのでこのまま書き進めます)

ちなみに、テックタッチのCEO・井無田は、プレスリリースを書いたりメディアリレーションをした経験があるため、広報業務の重要度・難易度に対して理解度が高いです。そのため経営戦略の中でも重要な施策として広報が位置付けられており、広報の重要性についての合意形成という点で説明がしやすかったので、経営者が広報について知識を持っていることは重要だと思います。

分析のポイント

まずは、現状把握のための競合分析を行いました。各競合他社の広報が重視しているメッセージやブランド戦略、想起キーワードなどの定性分析に加えて、プレスリリースの作成本数や内容・事例作成・SNS戦略・パブリシティ、加えて、他社サイトSEO、PVや流入クエリなどの定量分析を行ったうえで、自社で強化すべき指標や決めるべき内容を整理しました。
同時に、前年度の総括を行いました。

上記の構成に沿って、目標設計、過去のデータ分析、計画(アクションと今年度の数値目標)を進めました。競合が強い場合はまた構成が変わると思いますが、テックタッチの場合は既に業界においては1位を取れている状態なので、それよりも「DAPという新カテゴリでいかにシェアを不動にするか」という観点で、目標と計画を立てるための付属材料という位置付けにしています。

指標案やアクションKPIが何回も、何種類も検討されたものの、これを定期的に振り返ってPDCAを回せるところまでは至っていなかったので、今後の指標候補になりそうな数字にフォーカスして分析しました。

広報専任1名ならば、この結果もそんなに悪くはありません。1人で、毎月5本以上のプレスリリースを発信するだけでもかなり大変で、毎日遅くまで仕事をして、必死にこなしていたそうです。この定常業務に追われている状態の解消のために、仕組み化を進めました。(ここは3.の仕組み化とPDCAのパートで詳しく説明します)

ただ、「メディアリレーションが重要だよね」という共通認識と実際の認知獲得には、まだ乖離がありました。広報担当、経営陣ともにこの露出を獲得するために注力メディア、見るべき指標などが整理されていなかったため、一旦「メディアに取り上げてもらった記事(パブリシティ)」の中でも、取材の有無で本数を分けて換算しました。その結果、メディアリレーションのうち、企画編集記事(インタビューやメディアからの取材が含まれており、自社のメッセージをコントロールして伝えられている記事)が少なかったため、ここを課題としてフォーカスした方が良いという気づきがありました。

注力テーマの設定

続いて、広報活動を効果的に進めるための注力すべきテーマを設定しました。これは企業の強みや特徴に基づいたものであり、経営層との合意を形成します。CEOの井無田らにヒアリングを行い、感じている課題や実現したいこと、伝えたいメッセージの理解に努めました。その上で来期の方針が示されている年間計画と照らし合わせて、今期注力するセグメント(テックタッチには大きく3ドメインがあるため)を定義していきました。
広報の機能を強化するメリットとして、経営陣が対外的に逐一発信する時間とリソースを節約し、メディアやターゲットのオーディエンスに対して、効果的なメッセージを発信できることが挙げられます。これを早期に担うためにも、経営目線での会社の発信について解像度を上げることは重要だと考え、過去の社内の資料や記事などに目を通し、経営陣の代弁ができるようにメッセージングをブラッシュアップしました。

指標の決め方(アウトカム指標、KPI)

この現状を踏まえて、どうやってパブリシティを増やしていくか戦略・戦術・追うべき指標を整理しました。
続いて、アウトカム指標(結果を示す)とKPI(広報のパフォーマンスを測るための中間指標)のいずれも設定しました。KGIとしては、定性でPR目標、定量でNPSスコア(※2)を設定していますが、年に1回しか測定できず、PDCAが回しにくいため、広報業務の成果としてのアウトカム指標を設定することで、モニタリングがしやすくなります。

※2 NPSスコア:Net Promoter Scoreの略称。企業や製品、サービスの顧客満足度を測るための指標の一つで、認知度とNPSに直接的な因果関係はありませんが、テックタッチの場合は事業広報にフォーカスしており、良好な顧客体験が企業や製品の認知度向上に寄与すると考え、KGIに設定しています。
経営目標から逆算したPR目標(定性)の設定と、指標の整理、重要テーマの言語化をまとめたのが下記です。

アクション指標、アウトプット指標、アウトカム指標について詳しく知りたい方はこちら(https://x.gd/xCeXY)をご覧ください

年間計画の策定

定常業務(プレスリリース発信、メディアリレーション)などだけではなく、長期的な視点で広報活動を展開するために、プロジェクト化して時間をかけて進める施策なども含めてロードマップを策定しました。キャンペーンや重点テーマを組み込んだ計画は、一貫性を持ったメッセージを発信する手助けとなるのと、社内でも協力が得やすくなるので、全社に説明する機会をつくりました。

モニタリング環境整備

広報が人力でインターネット上の自社の全ての発信を把握し、それを管理するのは手間が相当かかります。掲載本数の把握、リーチ数、トレンド、競合分析、SNS分析などを効率的に行う必要があるためです。本来時間を割くべきメディアとの関係構築やトレンドを自社の情報に紐付けた企画作り、プロジェクトの推進などに時間をかけられるようPRツール(弊社の場合はMeltwater)を導入しました。

3. 徹底的に仕組み化し、PDCAを回す体制を作る(質と量の維持)

ここは現場寄りの話で地味に見えますが、とても重要です。戦略や計画策定の前提となるため、着任と同時に私が最初に着手したことなので、ポイントだけ記載しておきます。

情報管理・整理

メディアリレーションにひもづく情報の管理

  • ターゲットメディアリスト

  • 記者リスト&アタック状況の管理

  • 過去のプレスリリースの構造化と整理

  • 企画書

  • 他社への取材協力

  • 経営陣の最新プロフィール・写真管理

上記のような情報は、特に広報が一人体制の場合は属人的になりがちです。構造的に整理されていないことが多いですが、業務を効率化し、本来割くべき広報業務に専念するためにはとても重要だと思います。テックタッチも、まずは過去の情報整理と仕分けから始めました。(肌感覚ですが、3割くらいはこれで業務時間が捻出できます)

これらの情報を全て一元管理する「広報管理表」を作り、施策ごとのステータスが一目でわかるようにしています。

会議設定

テックタッチの場合は、週に1回経営者とのMTG(30分)を設定しています。今注力しているテーマやプロジェクトの進捗を共有しつつ、方向性の整理やアウトプットの整理も行っています。ちなみに、テックタッチはインターンなども含めて5人が広報業務に関わっていますが、日々のタスクはマニュアル化して管理表で内容と期限を可視化しているため、業務確認のための全体会議は行いません。

テンプレート化

プレスリリース、メディアブック(メディア向けの汎用的な提案資料)、企画書(ターゲットメディアへの詳細な企画書)、定常のSNS発信、アワードへの応募などは全てテンプレート化しました。プレスリリースや企画書は、事業部の方の力を借りて作ることも多いので、記載して欲しい場所だけ色分けし、穴埋め形式で記載してもらうことで、打ち合わせや手戻りが減り、量と質の担保をすることができます。

組織体制強化

情報管理とテンプレート化が完成することによって、アウトソーシングできる業務が増えていきます。これらは、マニュアル化を含めてインターンやアルバイトの方にお願いすることで、広報担当者は戦略的な広報活動に専念できるように仕組み化しました。現在、テックタッチではアルバイトとインターン1名に、月に100時間以上、定常業務を担ってもらっています。

4. 最後に

実際に広報として働いてみて、新たな領域を作る広報の難しさと楽しさを日々実感しています。2023年10月からはマーケティングのHeadも兼務しているため、テックタッチが強みとするエンタープライズ向けの事業において、マーケティングを強化していく予定です。まだまだ、PRもエンプラマーケも挑戦中で、私自身ももっと学んでいきたいので、興味のある方はぜひX(Twitter)などでご連絡いただけるとありがたいです。

テックタッチの採用情報はこちら

今回の3年連続シェアNo.1を機に、私だけでなく、他の経営陣によるnoteも順次公開しています。よろしければご覧ください。


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