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講師のアドリブ力を科学する


こんにちは、富山県で人材育成の仕事をいています平井と申します。

私の所属している会社では、企業研修と学校でのキャリア教育を事業にしております。これらの事業は、キャリアコンサルタントの考えがベースにしており、これまで様々な企業の研修設計や学校での講義をおこなっています。


私が、この仕事をはじめた頃、先輩方や代表の研修・講義をひたすらオブザーブ(見学)していました。弊社の特長は、一方的に講師が話す講義形式ではなく、対話やグループワークといったコミュニケーションを重視することです。

そのため、講師は受講者からでた感想や気づきに対して、対話をおこないますし、グループワークの様子をみながら、より適切なフィードバックをするために、同じテーマの研修でも話す内容を繊細に変化させていました。この相互のかかわりには、講師の即興力が必要不可欠です。

インタラクティブ.001

別のnote(【15分で学ぶ】キャリアカウンセリングを応用した企業研修の全体像)でも話していますが、事前に用意したものより、受講者のタイミングに合わせて応えられた方が、研修効果が高まったり、受講者の納得度が上がります。


仕事をはじめたての頃、「えっ…これ難しすぎないか!?」と思っていました笑 いくら台本やタイムテーブルを準備しても、準備していない事象が発生し、都度それ合わせて即興で対応するわけですからね。

ただ、これができないと、双方向のコミュニケーションをとるのは難しいです。また、適切なフィードバックができなくなってしまいます。


そこで、今回のnoteでは、講師の即興力を分解してお伝えします。慣れやセンス(感覚)に頼るだけでなく、なるべく言語化してまとめたので、最後まで読んでいただけると幸いですm(_ _)m


・即興の種類

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講師に即興が求められる場面は、大きく分けて3つです。

・質問する時
・フィードバックする時
・受講者のアウトプットに応じて、話を展開する時

質問とは、講師から受講者へ質問を投げかけることで、テーマについて深く考えさせたり、内省を深める時に用います。

一方で、フィードバックとは、受講者のできたこと/できなかったこと/もっと良くなるためにできることを、客観的な立場から伝えることで、受講者の成長を促すために用います。

いづれも、魔法のフレーズなどはなく、目の前の受講者に合わせて、言葉を選んでいく必要があるため、講師の即興力が求められます。


※質問とフィードバックは、別noteでまとめている最中なので、
今回は"受講者のアウトプットに応じた話"に焦点を当てていきます。


受講者のアウトプットに応じてというのは、受講者の様子をはじめ感想や気づき、質問に応える形で話を展開することを指します。

咄嗟に受講者からトリガーが出てくるので、準備していたプログラムではカバーしきれない領域です。当然、講師が即興で対応しなければいけません。



・話の種類

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では、受講者のアウトプットに応じて展開する話には、どのような種類があるのでしょうか。これも、大きくわけて3つあります。

・たとえ話
・成功事例
・失敗談

3つの話.001


-たとえ話-

これは、自分の主張や理論を補強するためのたとえ話です。理論の補強とは、研修や講義でご紹介する理論の理解を深めるために、自身の経験談や受講者の身近な事例、たとえ話をすることを指します。

特に、理論は抽象度の高いので、具体的に落とし込むことによって、理解度を上げる狙いです。そのため、話が抽象から具体に展開していきます。


例えば、学生に「心理的安全性」を説明するとします。

・心理的安全性:他者からの反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことができる状態のことです。Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことで、注目された心理学用語です。

「実は、その場を信頼して発言できることで、生産性が高まると言われています。場を信頼して、自然体の自分でいれる状態を"心理的安全性"と呼びます。」

「学生の頃、私は居酒屋でアルバイトをしていました。そのお店では、社員とアルバイトの人が集まって、会議をすることがありました。そこでは、怖い店長が意見を求めた時よりも、店長が不在の時の方が会議でいい意見が出るうえにまとまっていきました。怖い店長がいる方が、みんな頑張って意見を出そうとしていたので、当時は不思議でした。」

「ただ、いま振り返ってみると、店長がいる時は心理的安全性がなかったからだと思います。みんなが委縮してしまったり、店長の顔色をみながら意見を出していたので、よりよい会議にならなかったみたいですね。」


たとえ話のポイントは、理論の補強しやすさだけでなく、受講者の属性に合わせることです。

・学生⇒アルバイト、部活、学校の勉強
・30,40代⇒仕事、子育て

年齢層や属性にあわせて、どんな例を用いるか事前に考えておくと、受講者の理解度が上がりやすくなります。




-成功事例-

一方で、成功事例の共有は、具体的な事例の要因を抽出し、抽象化して共有することで、多くの人に応用できるように落とし込みます。理論やたとえ話とは抽象度のいききが反対になります。

また、成功要因の中でも外部要因(環境)と内部要因(自分自身)を整理して伝えることで、自分にできることに焦点を当てることができます。

ポイントは、偶然や運がよかった、登場人物の才能があったから上手くいったと思わせないことです。

自分にはできないと思わせてしまうと、その時点で共有できなくなってしまいます。そのため、登場人物が聴き手と同じもしくは不利だったという前提情報を事前に伝えた方がいいです。また、能力が高いではなく、発想の転換や行動量など自分にもできそうと思ってもらえる部分を抽出しましょう。




-失敗談-

最後は、失敗談からの教訓です。受講者の共感を得ながら、失敗するときの3つの要因を潰すことができます。


その要因とは、①情報不足②油断③思い込みです。


盲点がなく、必要な情報が揃った状態で徹底した準備をおこなえば、失敗確率を劇的に下げることができるでしょう。

また講師のしくじった経験を題材にすれば、当時のリアルな状況が受講者に伝わり、より真剣に話を聞いてくれる可能性が高まります。

私自身、受験・就職活動・失恋などを赤裸々に話してきましたが、失敗談は受講者の関心を強烈に惹きつけられると感じています。(※もちろん、話したい欲や自己満ではなく、研修や講義のテーマに沿っていて、かつ受講者の教訓になることが大前提です)


講師の即興力を上げていくためには、3つの要素が必要になってきます。

・受講者の様子をよくみるために、余裕をもつ
別note(人前で話すのが苦手なあなたへ)で解説しています。
・即興の事前準備
・登壇の経験値


ここでいう事前準備とは、話の構造化のことです。咄嗟に話す時でも、ある程度端的で分かりやすく話すために、構成を決めて当て込んでいく準備ができます。



・教訓を伝えるストーリー構成

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自分の経験や勉強した他者の事例について、形を整えてしまっておくイメージです。

出来事を、時系列に整理するだけでも話しやすくなりますが、伝えたいメッセージまで到達する前に、余計な情報が多くなってしまいます。


そこで、ストーリーの型に当て込むのをオススメします。

ストーリーの型(たとえ話の一例)
【理論】理論の概要

【たとえ話:状況説明】例えば、(設定)な状況だったとします。

【理論の効果】この状況では、説明した理論の通り、こんな作用が働きます。これが結果にも影響を与えます。

【教訓】ここから言える教訓、講師が伝えたいメッセージ


ストーリーの型(成功事例の一例)
【場面設定】どういう状況下にして、何が起きたのか

【自分の変化】最初はA(葛藤や他責、停滞)だった。
でも、こんなきっかけ(もしくは自発的な変化)が起きたことで
考え方がAからB(統合や当事者意識、発想の転換)に変わった。

【結果】その結果、状況にも変化が生じた。

【教訓】この経験から言える教訓、講師が伝えたいメッセージ


ストーリーの型(失敗談の一例)
【場面設定】どういう環境・状況下だったか。

【昔の自分】当時は、A(油断や準備不足、思い込み)と考えていた。
でも、Aのまま過ごした結果、上手くいかなったか。

【失敗の原因分析】当時のことを振り返ると、〇〇が失敗の原因だった。

【メッセージ/対策】この経験からA(油断や準備不足、思い込み)に気をつけて、〇〇を防ぐためにXX(予防策もしくは解決策)しましょう。

こういった自分の経験談を伝えると、以下のメリットがあります。

・理論よりも具体的で分かりやすい。
・Aの考えをもった人は、共感しながら話を聞いてくれる。

こういった経験談の引き出しをいくつか持っておくことで、その場に合わせた話を即興で展開することができます。


留意点は、人ごとのように客観的に説明してしまうことです。

これでは、受講者の心までは届きません。渦中の感情や葛藤について腹を割って話すことで、受講者の心に訴えながら信頼関係を築くことができます。



・即興力に関連する2つの経験値

もう1つが経験値ですが、これらは受講者とテーマに分けることができます。

2つの経験値.001


-受講者-

当たり前ですが、同じ受講者が対象であれば、講師をしていて傾向を掴みやすいです。ただ、それ以外にも受講者の属性を経験しておくことで、その属性ならではの傾向を掴むことができます。

【例】
・就活を意識しはじめた大学3年生
・これからプレイングマネージャーになる新任管理職


-テーマ-

これは、研修や講義で扱うテーマです。ビジネスマナーや問題解決、キャリアデザインといったものです。

ただし、同じテーマであっても、受講者によって重視するポイントや受講者のニーズが変わってくることを前提に登壇する必要があります。

【例 キャリアデザイン】
・20代:変化の激しい時代に、受け身ではなく自律的にキャリアを築く。
・30,40代:キャリアの閉塞感を打破し、仕事へ意味づけをおこなう。
・50代:これまでを振り返り、自分と向き合う。今後、後悔のない職業人生を歩むためには、求められる役割認識を深めていく。

受講者の発言や反応をトリガーとして、話す内容をある程度決めておくと、迷いなく話すことができます。



・最後に

なんだかんだ言いましたが、即興力をつけるのに一番手取り早いのは、実践経験を積むことです。(身も蓋もない結論ですみません…汗)

講義形式はまだしも、双方向のコミュニケーションは、どれだけ現場をみてきたか、どれだけ講師を経験してきたかが非常に重要な要素です。ただ、経験が浅い状態でも、登壇する以上は受講者や聴き手にとって有意義な時間にしなければいけません。

そんな時に、台本やタイムスケジュールの作成、事前のシミュレーションも大事ですが、即興で双方向のコミュニケーションがとれるような、事前準備も意識してみてください!


最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。



・参考書籍



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