見出し画像

【15分で学ぶ】キャリアカウンセリングを応用した企業研修の全体像


こんにちは、富山県で人材育成にかかわる仕事をしている平井と申します。


私の所属している会社では、企業研修と学校でのキャリア教育を事業にしております。これらの事業は、キャリアコンサルタントの考えがベースにしており、これまで様々な企業の研修設計や学校での講義をおこなってまいりました。

今回は、キャリアカウンセリングのエッセンスを、どのように研修設計や講師業に応用しているのか、少しだけご紹介したいと思います。


・キャリアカウンセリングとは

画像11

キャリアコンサルタントの勉強をされた方は、キャリアカウンセリングという言葉に馴染みがあると思います。一方で、知らない方にとっては

「カウンセリングって、心の病気を治療する時に用いるのでは?」

「よく知らないけど、相手の話を優しく聞いてあげるのかな?」

と思う方も多いでしょう。


◼️キャリアカウンセング:
相談者にとって望ましい職業選択やキャリア開発を支援するプロセス。焦点を当てるのは、相談者の「自分で自分の事をどのように考えるか」についてです。相談者の問題や悩みを傾聴し、自問自答を促しながら自分なりの意味を考え、経験から成長の糧を見出します。


相談者のもつ真の問題は一体何なのか。

相談者の心の中で何を経験しているのかを表層化させることで、本人が問題に気付き、解決の方向性をつかむことができます。この状態を成立させるために、カウンセラーに求められる態度や技法が存在します。


これらの態度や技法は、研修の設計から講師として受講者と対話する時にも活かせるエッセンスが詰まっています。



・設計前のヒアリング

画像15

研修を設計する際、必ず必要になってくるのが、ヒアリングです。

どんな問題に照準を合わせて設計するかどうかで、研修効果が変わってきます。

通常は、1対1の個人カウンセリングをおこないますが、これらのスタイルやカウンセリング技法は、研修を設計するにあたってご担当者様とお話する際にも、重要な効果を発揮します。ここで、どれだけ話を掘り下げれるかは、その後の研修設計に大きな影響を及ぼします。

まず、クライアントから研修を依頼される時、まず何かしらの職場の問題やご要望をお話されます。それをそのまま受け止める前に、丁寧に傾聴と質問を繰り返すことで、クライアントを通して会社が抱えている問題を掘りさげることができます。

キャリアカウンセリング研修.001

当初は、漠然とした要望(こんな教育を受けさせたいなあ)だったものが、話を進める内に、具体化(こんな施策をおこないたい・研修を実施したい)していきます。


職場で、実際に起きた出来事

それをご担当者様は、どう捉えているのか

会社の理想像と現状

理想と現実のギャップを埋める場合、障害になりそうなもの…等


これらを丁寧にヒアリングすることで、徐々に真の問題へ近づいていきます。

キャリアカウンセリング研修.004

その後、情報整理をおこない、会社の現状と在りたい姿・それらをクライアントご自身はどう捉えているかを明確にしていきます。


私たちは、このギャップを埋めるために効果的な研修を設計します。

キャリアカウンセリング研修.005


ここから研修プログラムを設計していきます。(ご要望に応じて、教育体系から見直すことも多いですが、今回は割愛します。)


・プログラム設計の大まかな流れ

画像16

研修プログラムをどのように作成していくのか、ざっくりとした流れをご紹介したいと思います。

在りたい姿へ近づくために、目的を定める

目的を果たすために、目標を設定する

研修目標を達成するために、有効なセッションの洗い出す

研修日数や時間に合わせて、セッションを絞り込む

効果的な伝え方の順番や話の展開がスムーズになるように並び替える

クライアントと認識のすり合わせをおこない、最終調整をおこなう


キャリアカウンセリング研修.006

在りたい姿に近づくために、目的→目標→各セッションと徐々に具体的なプログラムに落とし込んでいきます。


また、各セッションごとの順番と繋がりも重要です。話の展開がスムーズな方が、受講者の理解を深めやすくなりますし、腹落ちする度合いが変わってくるためです。これらをチームでディスカッションしながら詰めてプログラムを完成させていきます。


私個人として、この部分は3つの考え方を参考にしています。それは①PREP法 ②カスタマー・ジャーニーマップの感情曲線 ③EATの研修デザインです。


-PREP法-

※PREP法:「P(結論)→R(理由)→E(具体例)→P(結論)」の順番に文章を組み立てるフレームです。この順番で組み立てることによって、要点をまとめながら、伝わりやすい文章構成にできるのが特長です。

画像12


研修中にお伝えする内容を、PREP法を活用して話すこともあります。

更に、研修設計する際もこのフレームに当てはめて考えることが多いです。


画像13

このような構成図を作成した後、「どのセッションをおこなえば研修で伝えたいメッセージが届くのか?」吟味しながら絞り込んでいきます。


-カスタマージャーニーマップ-

※カスタマージャーニーマップ:ユーザーが商品・サービスとのかかわりの中でたどる一連のプロセスを視覚化したもので、マーケティングで使用されるフレームの一種です。


このマップの考え方を一部応用し、研修プログラムが進む際、受講者が研修に興味関心を示し続けられるように工夫しています。

カスタマージャーニー風.001


例えば、グループディスカッションを複数回続く場合、途中でグループの構成メンバーを変えることで、様々な視点の意見に触れながら、集中力を途切れさせないように変化を加えます。また、レクチャー・個人ワーク・グループワーク・全体共有などセッションの形式を細かく変えて、研修に動きをつけることで、受講者全体の集中力低下を防ぎます。

特に、1日研修の場合だと午後から徐々に集中力が低下してくるため、講師のかかわり以外に、外側からのアプローチで工夫していきます。


-EATの研修デザイン-

これは、経験→気づき→理論の順番で研修を構成することです。

・E(Experience)経験
・A(Awareness)気づき
・T(Theory)理論

ここでの経験は、ワークやロールプレイング、ケース研究を指します。実際に経験した後、気づきを促して理論を解説することで、次のような効果があります。

・受講者自身で経験した後、解説を聞くので、理解度や納得度が高まる。

・最初に体験したことや課題に対して、気づきや解説するので、受講者が主体的になったり、情報を関連づけて整理することができる。


PREP法を用いて必要なセッションを絞り込んだ後、受講者の感情の動きをみながら、EATの流れに沿ってプログラムを進めることで、受講者の主体性と学びを伸ばしていきます!


以上が、研修プログラムの大まかな作成手順と3つのポイントでした。



・研修のはじまり

画像17

研修プログラムは、最初から最後まで全て重要ですが、あえて私が1つに絞るならば、冒頭が非常に重要だと思います。

その理由は、最初に話を聞くスイッチが入るかどうか、主体的に受講する姿勢が準備ができるかどうかで、研修効果がガラリと変わるからです。

一方的に話を聞くのではなく、主体的に考えていただくために冒頭に入れておくべき要素が2つあります。それが「アイスブレイク」「問い」です。


-アイスブレイク-

朝や午後一に研修がはじまることがほとんどなので、まずは受講者同士で話し合う時間をもうけます。普段、コミュニケーションをとる機会が少ない場合、コミュニケーション自体が交流の機会として価値があります。さらに、研修への受講態度が受け身ではなく、自分で考えて話すリズムを作ることができます。


-問い-

研修中、何度も「問い」を投げかけますが、冒頭で投げかける問いは「(研修テーマの核となる言葉)とは?」です。

【例】
・ キャリアとは?
・ マネジメントとは?
・ 問題とは?

普段、何気なく使っている言葉の意味を改めて考えることで、本質的な理解を促しながら、受講者の皆さんに主体的に考えていただくためです。


問いは、思考の出発点です。

問いによって脳を回転させはじめ、受講者同士で話し合うことで、徐々に加速させます。

問いは思考の出発点.001


以上が、研修設計の流れとポイントでした。ここから先は、研修の重要な要素である講師のかかわりについて解説していきます。



・講師としてのかかわり

画像18

研修設計の時ではなく、もう1つキャリアカウンセリングの大事なエッセンスが求められる場面があります。


それが、研修講師として受講者の皆様と対話する時です。


その理由は、キャリアカウンセリングで求められるラポール形成や質問力が、研修効果を高める上でかなり重要な要素だからです。もう少し細かく言えば、受講者が主体的に研修へ参加してもらうことを促すためです。

受講者が主体的かどうかは、研修の学びを左右する重要な部分になります。

加えて、打ち合わせで教育担当者の方とよくお話しますが、受講者に期待していることとして「主体性」を挙げる方も非常に多いです。


学生や新入社員など特に若い方々は、学校の授業中は先生の話をよく聞き、ひたすらノートをとることが求められました。学生は、元々受け身だったわけではなく、設計上受け身になる方が自然だと思います。更に、会社や部活の上下関係がある組織の中では、指示を受けて動きます。指示をされて動くことが習慣化されていき、いつの間にか受け身の指示まち状態になってしまいます。

この状態から、いきなり「主体性を発揮しなさい!」と言われても困ってしまいますよね。


そこで、受講者のみなさんに「気づき」を促し、自分たちで考えて動くきっかけをサポートします。自分たちで考えて動いて試行錯誤していくうちに、徐々に主体的なスタンスへ変化していきます。

数式的思考.001


研修の内容に、受講者の気づきを促す仕掛けを散りばめ、講師がかかわる時に、対話や質問を通して学びを加速させるのです。


キャリアカウンセリング研修.003


もう少し具体的なアプローチを説明すると、体験学習型プロセスの順番をベースに研修を進めていきます。

体験学習型プロセスとは、受講しているメンバーに体験を通して生まれた気づきを知識にまで高めようとする学習プロセスです。


-体験学習型プロセス-

①体験:体験させ、何をしたか、その時何を考えてどう感じたかを内省させる
②同定:自分で気づいたことを人に話して、分かち合う。どこが同じでどこが違っていたかを知る
③解釈:なぜ、そのように感じたか・自分にとって、どんな意味があったかを分析する
④一般化:自分の気づきや学びを"知識"として一般化させる
⑤応用:一般化した知識を、今後どのような場面で応用できるか、次の課題や行動目標を考える
⑥実行:行動目標に沿って、実際に行動をおこす

体験は研修設計時に、実行は受講者自身に託します。


講師として登壇する人は、受講者の内省を促し、得られた体験を気づきや学びに変換させ、応用できる知識に昇華させていきましょう。



・研修効果に影響を与える4つの要因


なお、私がいままで研修をみてきた中で、研修効果に影響を及ぼす要因は大きくわけて4つありました。(研修設計・講師側のかかわりに限定しています)今回のnoteでは、補足情報としてご紹介します。


それが、3W1Hです。

画像10


Who(誰が?):講師と受講者の関係性
When(いつ?):タイミング
How(どうやって?):伝え方、話の組み立て方
What(何を?):話す内容


更に、これらは同じ影響度合いではなく、Whoから順番に強い影響を及ぼすと考えています。

画像10


-Who(誰)-

Whoは、講師と受講者の関係性をさします。もっと厳密にいえば「受講者から講師はどう見られているのか」です。これは、嫌われてはいけないという意味ではありません。


最も重要なのは"ラポール形成"です。

ラポール形成:親密な関係で、相手を信頼して打ち解けた状態です。

つまり、受講者が講師を信頼している状態です。


たまに、先生の言うことを聞きなさい!というお偉いさんタイプがいらっしゃいますが、あれは受け身の状態を助長してしまいます。無理やり言うことを聞かせた場合、その場は成立しますが、気づきや学びを促すのは非常に難しいです。


そのような上からの指示ではなく、まずは信頼関係の構築に力を注ぎます。ラポール形成ができると、受講者が自然と主体的に参加してくれたり、投げかけに対して真剣に考えてくれます。

自分がどれだけ真剣に話しているか、いま話している内容が受講者にとっていかに重要なことか、どれだけ受講者の話に耳を傾けられるか。

向き合うことで、受講者が自然と研修に参加してくれる姿を何度もみたので、関係性が最も影響度の強い要素だと確信しています。



-When(いつ)-

次に、影響を及ぼす要素は「When」です。これはタイミングを指します。


みなさんは、こんな経験ないでしょうか?

普段は、少々重たくて共感できない失恋ソングを、いざ自分が失恋した時に聴くと、非常に共感して突き刺さる。フレーズや曲調は一切変わっていませんが、聴いている当人の心情に変化したため、胸を揺さぶります。

このように、人には突き刺さるタイミングがあります。

教育もタイミングが非常に重要です。受講者がふと興味を示した時にコンテンツを提供するのが自然ですが、そこまで個別対応するのは現実的ではありません。


研修でよく用いられる手法は"実践させ、失敗を経験させる"です。


座学で情報に触れると、なんとなく分かった気になります。ところが、いざ実践してみると、思い通りにならない。「まずい、失敗した!」「あれ? 上手くできない…」この経験から、失敗した要因は何か、次回実践する上で改善すべきことは何かを自分ごとに考えることができます。

このように、学びが促進させるタイミングを研修で組み込むことで、気づきを促すころができます。


どのタイミングで、誰に、どんな言葉を投げかけるか。


ここは、講師の力量によって、受講者の気づきや学びが大きく左右される部分です。本人の経験値はもちろんのこと、熟練した講師をオブザーブすることで醸成することができます。



-How(どのように)-

伝え方や話の組み立て方です。

具体例を示す、結論から話したり全体像から話すといった「内容の伝わりやすさ」も重要ですし、声の大きさや抑揚を使って「どこを聞いてほしいか」どんな言葉選びをすれば惹きつけられるかを含みます。

お笑い芸人さんは、日常の話を面白おかしく話せるように、講師は、受講者の興味を惹きながら分かりやすく伝えることが求められます。



-What(何を)-

研修プログラムの内容そのものです。

別に、内容が重要でないわけではありません。そもそも内容に矛盾が生じていたり、受講者のことを考えずにセッションを当て込むと、途端に研修効果が薄くなってしまいます。

だからこそ、目的とすべてのセッションが繋がっているかどうか、複数人で精査する必要があります。



以上が、研修効果に影響を及ぼす3W1Hです。

それぞれの要因には、講師の力量と研修プログラムの品質が密接にかかわってきます。

数式的思考.001

みなさんお忙しいとは思いますが、社内研修をおこなう際は、是非講師の選定と育成に力を注いでいただければ幸いです。研修効果がより一層高まるでしょう。


・留意点

画像20

よくありがちですが、研修プログラムファーストです。

研修ファーストとは、事前に組み立てた研修プログラムと各セッションに設けた時間を忠実に守ってしまうことです。それ自体は、悪いことではありませんが、そもそも研修は受講者の気づきや学びを促すためのものです。用意した研修プログラムを時間通りに進める場ではありません。


受講者の様子をみながら、その場で「どのセッションに力を注ぐべきか」「どこを削れば時間内に目的を果たした状態で、研修を終えられるか」を考えていきます。受講者ファーストです。

受講者ファーストで進行すれば、同じ研修プログラムを受講者の属性に左右されることなく、高い研修効果を発揮することができます。

常に、受講者を中心に意識しながら、必要に応じてセッションや理論を添えるだけで十分なのです。

受講者ファースト.001



また、講師からひたすらフィードバックするのも留意しましょう。

「あれができていない」

「これができていない」

「もっと○○した方がいい」

フィードバックの量が多くなると、意識が分散して、徐々に効果が薄まっていきます。

講師が伝えられることには限界があると認識した上で、受講者同士で刺激しあうことが重要です。オススメは、受講者の話やワークしている様子を全体共有することです。


以前、学生のみなさんに就活ガイダンスで面接対策をしていた時です。「笑顔が大事!」と口で伝えましたが、いまいち本人たちに腹落ちしていない様子でした。そこで、模擬面接中もっとも笑顔がステキだった人に、もう一度実践していただき、ほかの受講者に面接官役の席からみていただきました。

すると、「○○さんの笑顔がステキだった!!」「自分も笑顔を意識しなきゃいけない…と強く感じた」という発言が飛び交い、驚くほど本人たちの意識に変化を促すことができました。

また、別のケースで履歴書に自己PRを記載していただく機会がありました。その際、講師である私があれこれレクチャーせず、よく書けていた受講者に発表していただき、どこが良かったかを解説しました。

すると、「○○さんの自己PR文がすごく良くて、自分もあんな風に書きたいと思った!」とコメントをいただき、刺激をうけた受講者が能動的に改善をしていました。


「講師である自分が、受講者のためにあれもこれも伝えなければ…!!」と抱える必要はありません。

それよりも、受講者の気づきや学びのために、リソースをどう活用するか?という視点で、部屋を見渡してみてください。きっと、受講者の気づきや学びを促すリソースがたくさん眠っていると思います。



・最後に


いかがでしたでしょうか。

キャリアカウンセリングのエッセンスは、個人のカウンセリングそのものだけでなく、研修設計から講師としてのかかわりまで幅広く応用することができます。


講師としての技術は、登壇回数と熟練した講師のオブザーブによって、少しずつ成長していきます。

しかし、常に受講者ファーストの意識で登壇するのは非常に難しいです。どうしても、意識が自分に向いてしまったり、用意した研修プログラムの進行に向いてしまいます。また、積極的な受講態度でない方をみると、心が乱れてしまうでしょう。

そんな時は、カール・ロジャーズの中核三条件「受容・共感・自己一致」を思い出してください。実際に登壇してみて、講師としての態度もこの3つが極めて重要だなと実感しました。最初は研修に関心がなく、受講態度が後ろ向きだった受講者も、信じてかかわり続けることで、講師の予想を超えて変化していく場面を何度もみてきました。


キャリアコンサルタントの資格を所有している、もしくは勉強している方で、講師をおこなう機会がございましたら、是非参考にしてみてください。



最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。



※発信内容は、個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではございません。

※本noteが、コンテンツとして提供する全ての情報は細心の注意を払っておりますが、内容の合法性・正確性・最新性等を保証するものではありません。また、本noteのご利用によって生じたいかなるトラブル・損害に対して、一切の責任を負わないものとします。予めご了承ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?