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「俺さ、実は探偵なんやわ・・」と言う親友 〜2000字のドラマ

#2000字のドラマ

この話は私の中学生時代の話でノンフェクションです。登場する人物は仮称にしております。

僕はいま中学2年生。部活はバスケットをやっている。
勉強はできないことはないけど、あんまり時間がないから成績はそこそこ。
今年の夏休みも勉強はほとんど手付かずで部活の練習ばかりになっている。
夏休みになると練習がきつくなるのはなんでだろうって思う。

「ほんま、今日も疲れたわ。はよ帰ってゲームしよ」

部活が終わって家への帰り道、自転車のハンドルに組んだ腕をのっけ、さらにその上に顎を乗せてフラフラと蛇行運転。

「そんな運転したらあぶないで〜」

後ろからくる親友の西岡の声が聞こえる。

西岡は少しデブでモテないキャラ。
仲良くなってから、なぜか僕の命令はなんでもきく家来みたいな存在だ。
だからいつも連れ歩いていて、部活も同じだからだいたいの時間は一緒にいることになる。

「うちついたら、この前のゲーム(ロープレ)のレベル上げやっといてよ」
「おけー」
「いつもの通り、レベル上げるだけやで。進んだらあかんでな」
「わかった。アイテムはつかってええの?」
「あかん、アイテム禁止。でも魔法で回復とかしたらええやん。アイテム使うとまたストック買わなあかんやろ」

だいたい、僕のゲームのレベル上げは西岡の仕事になっている。
西岡が十分にレベルを上げたキャラで、難しいダンジョンを楽々と進めるのがいつもの王道パターンになっていた。


ジュースとお菓子を準備して、いつもの部屋で定位置に着く。
西岡はゲームでロープレのレベル上げを開始、僕は西岡から借りているマンガを読みだした。部活でクタクタになった後の2時間くらいのこの時間は至福の時間だ。

「あ〜つかれたな。ほんま眠たいわ」
「俺もめっちゃ眠いで、というか昨日寝てへんし・・笑」

西岡が負けじと眠いアピールをしてきた。
僕は少しイラッとして質問した。

「なんで、寝てへんの?漫画でも読んどったんか」
「ちょっとな、お前にもいえへんことなんやわ〜」
「なんやそれ、教えろよ」

西岡は、秘密やぞ!的な言い方をするちょっとめんどくさいクセがある。

「ほんで、なんで寝てへんかったん?はよ言えよ」

秘密と言っておきながら、やっぱり言いたかったことだったのか西岡はあっさり話し出した。

「自転車で松阪までいっとったんやわ」
「え?夜中に?片道30分以上かかるやん」
「朝までお金ひろっとったんさ」
「えええ、なにそれ」
「おれんち貧乏やん。お金拾って警察届けとるんやわ。しばらくするとそれがもらえるんやわ」
「なんやそれ、そんなうそばっかいうなよ」

また意味不明なことを言い出した西岡。僕も少しイラッとしながら睨みつけた。そんなことにも気づかずに黙ってピコピコとゲームのレベル上げをする西岡。

「ほんまやで。昨日は5000円くらい拾ったわ」
「ごせんえん!そんなに儲かんの?なんで警察に届けるん?どこにお金が落ちとんの?」

思わず食い気味に質問してしまった僕。
中学生としては5000円はお小遣い3ヶ月分に相当する大金だ。
本当にそんな大金が落ちているというのだろうか・・謎が深まる。

「自動販売機の下とかに結構あるでー。あとは秘密やな笑」

またイラッとくる言い方をする西岡。

「ほんまなら、証拠見せてみー!」

よくよく考えてみると、そんな都合のいい話はウソに決まっていると僕は思った。

「ほれ、見てみーや」

西岡はおもむろにぼろぼろの財布を出す。
そこから警察の落とし物届けのような紙切れが10枚ほど出てきた。

「ほんまやろ?これが落とし物届けの紙で、お金になるんやで〜」
「ほんまや・・・」

僕は唖然とした(こいつ、まじでめっちゃ拾ってるやん!)

立て続けに西岡は話し出す。

「これ絶対人に言わんといて欲しいんやけどさ〜」
「な、なんや・・・」

またまた勿体ぶって話し出す西岡。

「俺さ、実は探偵なんやわ・・・正確に言うとまだ見習いやけどな」
「た、、たんてい!?!」

なぜ中学生が探偵なのか?探偵はお金を拾うのか?意味不明な話に僕はさらに唖然となった。
”探偵”のイメージは、その頃本で読んでいた名探偵シャーロックホームズくらいしか頭に浮かんでこなかった。

「まあ、探偵のボスがおってな。その人の手伝いをしとんのよ」
「ほんまに?誰やそのボスって」
「昨日は金拾ってから森にいって拳銃の使い方も教えてもろたわ」
「え・・・けんじゅう?!?!」
「そやで。すっごい重いんやよな〜。森の中やで撃ってもばれやんだけど、ほんますごい反動やわ〜まだ手がビリビリしとるしな・・(以下省略)」

ここまでくると、どこまでが本当でどこからがウソかはわからない。
間違いなくボスと呼ぶひとは探偵でなく怪しい人だ。
そして、調子に乗って話続ける西岡がやっぱり少しイラッときた。

でも”落とし物届けの紙”がたくさんあったことは事実だし。半分は本当なんだろう。


あれから35年。西岡は探偵にはなっておらず、地元でピザ屋の店長をしている。

(おしまい)

©️Mahalopine


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