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軽井沢の室生犀星記念館に行きました
先日、ずっと行きたかった詩人・小説家の室生犀星の軽井沢の別荘だった「室生犀星記念館」に妻と行って来ました。(下リンク)
旅行というものを計画する能力が完全に欠落して私ですので、妻に計画を立ててもらいました。笑
私は文学青年でも何でもない人間でしたが、嵐山光三郎さんの本の「文人暴食」という本に取り上げられていた事で室生犀星を知り、興味を持って著作を読むようになりました。三十代半ばでやっと知ったのです。
ちなみにこの「文人暴食」は「文人悪食」という本の続編で、日本の有名文士たちは何を食っていたのかという事をテーマにその人物や創作を語る本で、とても面白くオススメです。
それはともかく、室生犀星は当時の私に色々な気づきを与えてくれました。そのなかでも「詩が理解出来るようになった事」は大きな成果でした。
私は室生犀星の詩を知った事で「詩」というものを初めて理解出来るようになったのです。
その前まで私は詩というものを「小説のように読んでいた」のですが、室生犀星の詩によって「詩は文章を読むのではなく、言葉と言葉が起こす化学反応を受け取る事、そして言葉が私の精神に働きかけ起こす反応を観る事なのだ」と理解したのです。他の方は詩をどう読むのか分かりませんが、私はそれを発見した事で、詩全般を自分なりに受け止められるようになりました。
もちろん犀星の小説も好きです。
犀星の文章そのものは、個人的にはあまり上手いとは感じられません(あえてそうしているのかも知れませんが)時に変な言い回しがありますし・・・例えば志賀直哉や芥川龍之介のような文章として整い整理された透明なものではなく、良い意味での粗削り感とノイズがあるというか・・・しかし俯瞰的に観ると実に上手い。犀星の表現したい事はそれでしか表現出来ない感じです。なんというか、老獪さを感じます。
また、依頼されたページ数を埋めるためなのかな?と感じてしまうような、変に冗長に書き埋めていると感じる箇所が時折あって、それも個人的には面白く感じます。しかし、それで退屈させない所が流石です。もちろんこれは想像なのですが・・・
父と同じく文筆家であった娘の室生朝子のエッセイに「私が依頼されたページ数より少なく書き終わってしまったと父に言ったら『(原稿料が少なくなってもったいないから)依頼されたページ数を埋めた方が良い』と言われた」という意味の事が書いてあったので、あながち間違いでもない気がします。
また、個人的には犀星の作品から少し野暮ったさを感じます。それは詩も小説もです。そして、しぶとさ、したたかさ、ふてぶてしさ、生活人としての計算高さを感じます。そして同時に、それと相反するかのような極端な繊細さと極めて深度のある抒情的な精神も感じます。そしてその両者に分離が無いのです。その叙情はガラス細工のような透明で壊れやすい叙情性ではなく、生きている人間の身体と精神から抽出された血の流れるようなものと感じます。
その感覚的で抒情的な描写は、微に入り細を穿った犀星ならではのもので、正に犀星の世界。それは犀星の真骨頂で、小説であっても詩人の魂が煌めいているかのようです。
私は、その「生き生きとした少しの野暮ったさ」にしばらく触れると変に学問の自負を感じるものや、変に洗練されたものや、西洋かぶれしている文学が気恥ずかしく感じたりもします。
なんだか褒めているのか落としているのか分からないような事を書き連ねておりますが、私にとって犀星の魅力は「極めて世俗的な部分と極めて清浄で抒情的な部分の同居」その全体から感じるものです。それは男ならではの感受性というか・・・しぶとく無骨でありながら時に女性以上に繊細。時に女々しいぐらいに・・・「ああ、それ分かるなあ・・・」という男同士の共感みたいなものを感じてしまいます。
詩と小説の両方を評価されている犀星ですが、個人的には犀星の根本は詩人だと思います。
おっと、いつもの悪いクセで、犀星についての個人的なラブをダラダラ書いてしまいました。それはまたいつかしっかり書ければ・・・と思います。
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犀星は、普請道楽と庭道楽と骨董道楽を持つ人で、日常生活では西洋かぶれに陥らず純日本志向である事は存じておりましたが、実際に軽井沢の旧室生犀星邸の庭に足を踏み入れた瞬間に感じたのは「ここまで徹底していたとは!」という驚きです。娘である室生朝子のエッセイで、犀星の日常の美的生活の様子が書かれていますが、そこから想像していたものを遥かに超えていました。
東京都新宿区にある 旧林芙美子邸 も純日本建築と日本庭園で、そちらも管理が良く非常に美しいのですが(敷地内にある画家であった夫のアトリエは洋風ですが)犀星邸はそれとは違う感じで・・・私はそれを、まるで庭と家屋が一体になった生き物のようだと感じました。庭と家屋にかける犀星の異様な情熱がまだ残っているかのようでした。
最初に、庭の苔の美しさに圧倒されました。そしてそれを維持している現管理者に感動を覚えました。恐らく、犀星が使っていた時と同じレベルで維持されているであろう事が見て取れたからです。
説明して下さった方のお話では、この別荘は犀星が亡くなり、その後しばらくは家族が使っていたそうですが、家族も使わなくなると借地に建てていたため土地所有者が室生一家が使っていたそのままで一時期法律事務所に貸し、その法律事務所も殆どいじらずそのまま使い、それから県の所有になったそうです。
準日本建築ですから、痛みやすいところは相当に傷んでいたので、修復もかなりしてあり、建物自体は外見で分かる範囲でも三〜四割は直した感じがあります。しかし元の建物と室内の雰囲気は失われず充分に残っており、それ程違和感を感じません。
台所と風呂場は、最初は薪で炊く昔ながらのものだったものを、犀星没後に当時の団地などで使われていたような便利なものに変えたそうで、それも古くなって使えなくなった事から、そのエリアは記念館の事務所にしているのだそうです。
建物の中には入れませんが、玄関までは入れます。そこから見える室内の見え方のどこを切り取っても気が利いているというか計算してある感じです。もちろん室内から見える庭も同じくです。
解説して下さった方が、色々と犀星のエピソードを語って下さるのですが、それが犀星のエッセイや友人や後輩などの文章にあるものだと、例えば「ああ、あの話はこの部屋の事だったんだ」と分かり、ファンの私としては感動しきりです。
とにかく「犀星の庭は犀星の作品」と言えるようなものです。それぐらい良く考え練られたもので完成度が高く美しい。増築を重ねたという家屋、庭木、飛び石、苔、全てを自分の要求の通りに仕上げたそうで、どの位置から見ても絵になります。決して広くはない敷地、借景、この地の自然の特徴、全てを使って、計算し設計した感じです。足元の様子、目の高さの様子、見上げた時の空と木々の様子、視線のどの位置で見ても破綻が無い。かといってそれは息苦しいものではなく、美しく心地良いものです。
そして、私達が行った時期が良かったのか、ウグイスが頻繁に鳴き、葉擦れの音がし、それらが耳にも美しい。
やっぱり犀星、只者じゃねえな・・・と本当に感心してしまいました。
庭の苔は6月の梅雨時期に雨が降った直後に晴れた状態だと最高だそうですが、そんなタイミングの良い時に当たるかは別として、また6月に訪れてみたいと思います。
iPhoneで写真を撮りましたが、私の腕ではデジタル一眼を持って来ていたとしても、写真ではその美しさを到底捉えられません。それはそれとしていくつか写真を・・・(画像クリックで拡大します)
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今回、軽井沢の室生犀星記念館を訪ねたわけですが、犀星の日常的美的生活への姿勢に痛く感心しました。見習いたいですね。
それと記念館の係の人たちの犀星への尊敬、敬愛も大変なもので、それにも心打たれました。庭や家屋の管理は大変だと思いますが、犀星の庭と家屋を極力良いコンディションで皆さんにお伝えしたいという情熱と責任感を感じました。冬は閉じるそうですが、冬は雪かきで、秋は落ち葉の掃除で苔を傷めないようにするのが大変そうでした。
近所の高齢の方々が「犀星先生がねー」と色々エピソードを語って下さるのにも心打たれました。
近所の方はもちろん、遠方の犀星ファンの方が常連のようにいらして庭の変化を楽しんでいるようです。上のハートの苔石を「今年のハート石ゲットだぜ!」と撮影して行った人もいらっしゃいました。
室生犀星は、現代では夏目漱石や芥川龍之介のように一般の方々にも知られている存在ではありませんが、ファンは今も沢山おり、ずっと人々に愛されているんだなあと嬉しくなりました。
沢山感心した、室生犀星記念館訪問でした。
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