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フォリアのレース文様の和装


当工房では、1999年頃からアンティークレースを「染の文様として和装に取り入れる試み」をしております。

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(上写真・三越ちりめん着物「羽のレース」)

2012年頃からは「フォリアのレース着物・帯」ということで和装業界に浸透し、その頃からコピーが沢山出回っています。

着物や帯だけでなく、鼻緒や和装バックなどにも使っていただき好評を得ております。(フォリアは生地提供のみ)

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(上写真・レース文様の鼻緒/下写真・レース文様のクラッチバック。フォリア・甲斐凡子 作 和小物さくら さん製。)

とはいえ、今までも和装の世界にレースを使ったものはありました。

しかし、多くは実際に機械織りのレースを貼り付けたもの、西陣の織りで表したレース調のもの、あるいは染のプリント、その他の手法で「微妙に外れた感じを楽しむ」「ゴスロリ調」「大正ロマン調」の、強いて言えばB級感をあえて楽しむためのものだったように思います。

そこで私は「和装のスタンダードとして扱えるレース文様」ということを考えました。

「新しい和文様としてアンティークレースを捉え直す」ということでもあります。

それには、図案を起こす際に「アンティークレースの特徴を失わないようにしながら、しっかり和様に文様を起こす」ことが必要です。

それを、糸目友禅と、ろうけつ染で「まるで着物や帯にレースを貼り付けたかのようなニュアンス」を出します。実際に「どうやって貼り付けているの?」と良く聴かれました・・・

使うのは、全く伝統的な技法のみです。その使い方・解釈が違えば仕上がりが全く変わる、ということです。それが伝統技法の懐の深さですね。

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上のレース帯の写真は

1)一番上の本のアンティークレースを参照に
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 
2)一番下の帯の図案に描き起こし
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 
3)真ん中の名古屋帯を制作

したものです。

全て手作業で、糸目友禅(ゴム糊)とロウによる仕事です。

アンティークレースの実物には、凄まじいまでの技術と精緻さ、そして高度な創作性があります。現物をギャラリースコープで拡大して見ると、人間業とは思えないほどに超絶的です。それはまるで無限に広がる宇宙のようです。

この超絶的なものを、そのまま手描きの糸目友禅では再現出来ませんし、文様としても和装に取り込むのには密度が高過ぎます。また、文様の草花や動物、その他の形が西洋のものなので主張が強く、そのまま和装と合わせると、今までの和装での使われ方「違和感を楽しむ」を超えることはありません。

それだと日本文化の特徴のひとつである「取り合わせによる調和や増幅」までには至りません。

それを、図案の段階で和装に合うように、日本人が好む密度や形に変えて行きます。

当工房のレース文様の仕事は細かい描き込みをするので、技術の部分を驚かれることが多いですが、しかし「図案」が最も大変なところです。

文様染は、図案紙に描く段階でデザインだけではなく、どのような技法で、どのように進行させて制作するかを、ほぼ決めます。

(*フォリアの技法解説=図案について)

図案紙に描かれた図案は、ただ線で描いてあるだけですが、その線にいろいろな計算が含まれています。(+言葉によるメモや、図解など)

制作手順もその図案を描いた段階で8割は出来ています。

絵画と違い、染は1度染めてしまうとやり直し出来ません。

なので基本的には「設計図」通りに制作を進めます。「設計図=図案」ということになります。

その「設計図=図案」をつくる事が、文様染の仕事の比重の8割を占めます。最も時間のかかる部分です。

当工房では、染の仕事をほぼ自工房で行います。(通常の文様染は外注を多く使いますが、ウチでは殆どの工程を自工房でやる)それは大変ですし、体力は削られますが、技術をキチンと身に着けた上で、最後まで手抜き無くやれば終わるものですから「設計図機能を持った図案の制作」ほど大変ではありません。

例えば上のレース文様の名古屋帯の仕事では、参照したアンティークレースの写真の蜂の巣状の網目部分は、遠目でそれと分かる程度に荒くします。2.5倍ぐらいに大きくしてあります。

全体的に、アンティークレースの現物よりも密度を緩めます。糸目糊で、上写真の名古屋帯の現物よりも文様全体をもう少し細かく描くことは可能ですが、それだと「着用時に文様が弱くなってしまう」のです。文様染は細かければ良い、技術的に高度、というわけではないのです。用途によっても変わります。

・着用時にはある程度の距離をもって見ることになる
・着用時には立体になる
・着用時にはシワが入る
・着用時には帯揚げや帯締め、その他の要素が入る


などなど、「文様以外のその他の情報」が沢山、しかも強く加わるので、繰り返しになりますが、布を平面で見て良いと感じる密度で細かく描いてしまうと「着用時にレース文様の良さが失われてしまう」のです。

形式や見た目を単純に現物のアンティークレースに近づけようとするほど、質は違うものになってしまうのですね。

なので「文様染に向くように、情報を整理し、かつ力を集約する」必要があります。

着物や帯の図案は(もちろん着物や帯そのものも)

「本仕立をして、実際に着用した際に最大の力を持つものにしなければならない」

のです。

また、現代の着物は、着る人の引き立て役になるように制作するべきと私は考えます。着る人が一番でなければならないのです。

その他、図案を描く際に、アンティークレースの花や葉っぱの形は、参照したものがどうあれ、あまり角を立てたり、大きな動きをつけ過ぎずに微妙に丸っこい感じにし、しっとりとさせます。

そうすると、西洋のものでありながら、和装として使えるものになります。

私はそれを

「シャム猫を三毛猫にする」

と説明します。

しかし大切なのは「猫である事を変えてはならない」ということです。

アンティークレースを題材にするなら、あくまでもメインテーマはアンティークレースなので、観た瞬間にアンティークレースと同様の波長を持っていなければなりません。

それを失わせずに、和装化するということです。

和様にはしますが「似て非なるもの」に陥らないようにしなければなりません。

どんなにそれらしくても「シャム猫に似た犬」になってはいけないわけです。

これが意外にむづかしいのです。

実際に、アンティークレースを和装用の文様にするには、感覚的には現物の密度の5〜3分の1ぐらいに全体の密度を緩めます。

それは上で説明したように

1)日本人の好みの間にするため
2)実際に着用した際に文様が弱くならないように

という理由があります。

しかし、奥行きが無くなってはいけません。

それをフォリアでは「ロウ」を使って出します。

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フォリアでは文様染でロウを多用しますが、それは「いわゆるローケツ染」という作風を得るためではなく「生地の質感を可視化するため」に使います。

例えば

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こちらは紬の着物で題名は「老木」です。

実際には柔らかい絹の紬生地ですが、まるで樹皮のようなニュアンスが出ています。

「白生地の時には観えなかった生地の特性をロウで暴き出す」ことによって、このようなニュアンスが出せるのです。

この着物の仕事では、全体に「白ロウ」(ハクロウ)という防染力が弱めのロウを使い、上から濃い染料を擦り込んだり拭き取ったりすることによって「生地に塗ったロウの上から布に色をかけた」状態にします。

そうすると、上のようなガサガサした感じのムラのニュアンスになります。

この技法によって「生地の質感を可視化」します。

この技法は、使う生地によって、現れる表情がかなり変わります。

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こちらは、古い志野焼の肌合いと文様を染めで出そうと試みた名古屋帯で、題名は「志野の皿」です。

上の着物「老木」に使った生地よりも太い糸で、荒い織り目の生地の「赤城紬」を使い、ロウでニュアンスを出しています。

上の着物よりも、生地が荒い分、ガサつき感が激しく出ています。

このように「ロウで生地の風合いをより強調して可視化する技法」をフォリアでは良く使います。

それを、レース文様の仕事でも応用します。

上の着物や帯では、生地全面にロウを使って大胆にムラをつくっていますが、レースの場合は、細かい文様の一つ一つにこのニュアンスを与えます。

下のレース文様の帯で使っている「梨地」という生地は、細かくザラついたニュアンスのある生地なので、ロウによるムラのニュアンスが繊細に出ます。このレース帯では、白い部分を大きな面にしてロウでムラをつけているので、生地の特性が視覚的に分かりやすいですね。

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本物のアンティークレースは、面の部分が極細の麻の糸を編んであることが多いですが(仕事の種類によって違いますが)

もしそれを、糸目友禅で限界まで細くこまかくその網目を描いたら、遠目で観ると「ただの白い塊」にしか観えなくなってしまいます。

そこで、本物のレースでは編んであるところを、ロウによって生地の風合いを可視化し、生地の織り目に置き換えることにより、遠目で観ると本当に編んであるかのように見せるわけです。生地の力を借りるのです。

本物のレースは立体でもありますから、それは色を挿し分けて色の濃淡によって表します。

さらに、ロウや糊で文様部分を伏せる際には、輪郭線と面の境界をキッチリ埋めないようにして、輪郭線と面の間にわずかな隙間を空けます。そうすると、そこに濃い色が入り、コントラストが産まれ立体的になります。

一般的な糸目友禅のように、文様全体をべったりと糊で伏せてしまうと、このニュアンスは出せません。文様の一つ一つを、ロウや糊で伏せ分けることによってこのニュアンスが出ます。非常に手間がかかりますが・・・

さらにさらに、仕上げで銀線や金線を筒で引き、ハイライトをつくると、よりリアルになります。

全く通常の糸目友禅と、ロウを使った伝統的な文様染の仕事で、今まで無かったニュアンスを出すわけです。

このようにして、フォリアのレース文様の仕事は出来上がります。

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作り始めて15年ぐらいは「レース文様なんて使いにくいでしょう?」というご意見が多く一部の方以外からはなかなか理解されませんでしたが、2012年ぐらいからむしろ「着物を選ばず、何にでも合わせやすい!」「エレガントで古典文様と同列に使える」と好評です。

ある意味「色の無い更紗(古い時代の)」と言えなくもないですから、現実的には使いやすいのは当然とも言えます。

(*実際に、インド更紗とアンティークレースは、デザイン上のやりとりがあったようです)

レース文様の仕事では色をほぼ使わず、モノトーンで仕上げることが多いので、帯なら着物を選ばず、何にでも合わせられる便利な帯になります。それと、小物で色を効かせたり、光沢のあるものを合わせたりと、小物遊びがしやすい面でも好評です。

その解釈はいろいろなところでコピーされ、和装のレース文様は「フォリア以前・フォリア以降」となるぐらいに変わりました。

途中から、地色が明るい通称「白レース」も加わり、バリエーションが増えました。

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「白レース」の仕事は、地色が濃いものと同じ加工を一度した後、さらに細かい文様の一つ一つを、微妙に隙間を空けてロウや糊で伏せてから文様の部分だけに丁寧に染料を刷り込んだり拭き取ったりして仕上げた大変手間のかかる仕事です。

レースはやっぱり白いものが欲しい、という方々からのご要望が多く、制作するようになりました。

だいたい、濃色地色のレース文様の倍ぐらいの手間がかかるので「白レース」の方が価格が高くなります。

なので、フォリアの濃色地色のレースと白レースは通称「黒トリュフと白トリュフ」と呼ばれております。白の方が珍しくて高いということで・・・

フォリアのレース文様の始まりは、私がアンティークレースを知り、その美しさ、技術的な超絶さに打たれ、これをどうにか和装に取り入れることが出来ないか?と思ったことからです。

更紗は、300〜400年前に日本に到来し、驚きをもって人々の間に浸透し、早い段階で日本の古典文様化しました。

私は、アンティークレースでも、そのようなことを起こしたいと思ったのです。

それぐらいに、アンティークレースの実物は衝撃的に美しく、技巧も信じられない程のものでした。

レース作家さんたちから「レースの特徴を良く捉えていて嬉しい」と評価されていることは大変うれしく思います。そしてレース作家さんからご注文をいただくことも多く、アンティークレースの美しさに打たれた者としては光栄です。

フォリアのアンティークレースの解釈が呉服業界でコピーされていることに関しては、私はアンティークレースの美しさを和装の古典文様化するのが望みですので、むしろ喜んでおります。

今後もいろいろなレース文様の着物・帯を制作して行く所存です。


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