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スゴイ人が沢山いるのを知るのが嬉しい

当工房では、仕事中に、アマゾンオーディブルで小説を、アップルミュージックで音楽を聴くのですが、それは大変有意義かつ楽しい事です。

古今東西の創作品を一同に並べて大量に浴びる事が出来るのは本当に素晴らしい事ですが、自分が品評される側と考えると怖いな、とも感じます。あらゆる角度から、何度も比較されてしまうのですから。

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小説や音楽で、一度読んだり、聴いたりして、ああいいなあ、と思っても繰り返し読んだり聴いたりしない作品があれば、

読んだり聴いたりしている途中で止めてしまう作品もあり、

何度体験しても、また味わいたいと思い、自分の成長の度に新しい発見がある作品もある・・・(それは非常に少ないですが)

それは受け止める人によっても違うだろうし、何が正しいともいえないものですが、しかしやはり、長年残っているものは強いですね。それらは「時代の移り変わりに影響されないレベルに到達している」わけです。それらは伝統の本質部分に吸収され、後世の人々に影響を与え続けます。

逆に、その作品が流行った時代には斬新でこれ以上のものは出ないのではないか?とすら思われるものであっても、少し時代が過ぎれば恥ずかしさすら覚えるものになってしまう事もあります。

私のいろいろな制作物も、そうやって人目に晒されて批判されたり、人を不快にさせたり、あるいは喜ばれたりしているわけで、それが残るのか消えていくのか知りませんが、とにかく、人生うたかたの世に漂うごとしであるのを実感します。

沢山の創作物に触れると、分野を問わず創作家の作品が、作者が死んでからもその作品がずっと取り上げられ続け、民衆がそれを楽しんだり、そこから学んだりし続ける事は実は非常に稀な事なのだと思い知ります。

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アマゾンオーディブルで、当工房のお気に入りは沢山ありますが、日本の作家では特に夏目漱石。これは登場人物を現代人に替えても新鮮に感じる面白さと明快さと深さがあって、漱石せんせい、本当にすげえなあ、と思います。もちろん書かれた時代的に、ストーリーや設定が古い部分もありますが、しかしそれは問題ではなく、その奥にある普遍性が本当に凄いです。朗読者を変えて何度も聴いています。

それと、漱石の文章は、眼で読んでも、音で聴いても映像が頭に浮かび、それに滞りが無いのも凄いですね。個人的には「草枕」だけは、文章の美しさが圧倒的なので、文字で読まないと真価が出ないかな、と感じますが・・・口語体の日本語黎明期にこの凄まじいレベルかあ・・・と感心しきりです。(文学に詳しい方々の漱石への評価はいろいろあるようですが)

あと、池井戸潤氏の小説は、面白く楽しく、ウチは池井戸先生の大ファンであります。

最近良く聴くのは、カズオ・イシグロ。小説の内容的にはかなり闇が深い事を変にショッキングにもせず淡々と精密な描写を続ける筆力、構成力・・・人間のどうしようもないエゲツナサと、人間の愛らしさと、両方を極端に偏らず書き切る懐の広さみたいなものに感心します。重要な事を直接言わず、説明せず、状況だけで進めて行き、どこかでサラッと事実を明かすまでの間、飽きさせないのもスゴいですし。時折、あまりストーリーと関係無いような脇道にいつまでも行きっぱなしだったり、場面の転換が急過ぎたり、布石が回収されていなかったりもあるのですが、私はそれ程気になりません。

何にしても、オーディブルで沢山小説や文章を浴びると、また、アップルミュージックなどで古今東西の音楽を沢山浴びると、世の中にはスゴい人が沢山いるなあ・・・と感心します。(短時間に多くの才能が大量消費されてしまう点は、創作家にとっては物凄く厳しいのですが・・・)

世の中にはスゴい人が沢山いる。

それを実感するのは嬉しい事です。

そのようなスゴい人たちに共通しているのは「その人は、自分自身を生きた」という事かと思います。それは作品の巧拙を超えて、作品の深部に宿るものです。

技術的にはそれほど巧く無いものでも、ずっと人々の心を打ち、愛される作品があります。それは、素直にその人らしさが出ているからだと私は思っています。「私という個性は作れません」から。

自分自身を見出す事に妥協せず形にしたものは強い。人間は社会的動物ですから、人間社会の事では妥協があるのは当然ですが、しかし、自分自身を見出す事に妥協をせず、自らの創作には異様なまでに純真かつ真っ直ぐに向かい、美に献身した人たちで、幸運にも作品が世に残った人々のものは強い。(良いものが残るとは限らないですからね)

社会の動きから導き出し人工的に作り上げた「個性のようなもの」は「時間という破壊者」に滅ぼされてしまうと個人的には思っています。しかしその「個性のようなもの」の方が、一般社会では正に個性的なものと捉えられる事が多い気がします・・・

(懐古や郷愁の味わいは、どんなものにもあり、それを心から楽しみ味わう事は楽しいですが、それは創作的普遍性とは別の話です)

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