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桜の妖精 9完

うっ・・・ぐっ・・桜花ぁ」
読み終えると、堪えていた涙が溢れだした。
手紙を抱きしめて人目も憚らず、泣いた。
そして、彼女が笑顔の裏で抱えていた気持ちに気づけなかった自分を責めた。
(逢いたいよ、君に。もう一度桜花に逢いたい)
 
身体中の水分が全て無くなってしまうのではないか、と思うほど、泣いた。
どんなに泣いたって、桜花はもう現れないのに。
 
ひとしきり泣いて、泣き腫らした不細工な僕は、ふらふらと桜並木を歩き出した。
こんなにも悲しいのに、桜は一瞬の輝きのために咲き誇っている。
儚くて美しい。
僕の心の中を駆け抜けていった桜花に似ている。
まるで妖精のような。
 
しばらく歩くと、根元に花が添えてある桜を見つけた。
(桜花だ!)
僕は幹に抱きつき、何度も何度も君の名を呼んだ。
そこに君がいるような気がして。
はらはらと舞い落ちる花びらが、まるで返事をしてくれているように感じた。
 
(君と過ごした時間は、とても短かったけれど、君が与えてくれたものは、計り知れないほど大きいんだ。
今はまだ、どうしたらいいのかわからない。
けれども今の僕が出来ることは、君が「生きたい!」と願ったこの世界で、後悔のないように生き抜くこと。
桜花の分まで、懸命に生きていくよ。
そしたら君は、喜んでくれるかな?
君からもらったシール、携帯の裏に貼っておく。
僕を見ていてね、桜花。
そして僕が僕を生きられるようになったら、またここに、君に逢いに来る)
 
風にのって踊る花びらが、僕を包むように舞った。
 
(完)


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