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茶碗をめぐる文化と時代の「美しさ」

日本の国宝に「曜変天目」という茶碗がある。

窯の中で起きる突然変異から生まれる宇宙のように美しい茶碗で、1000年以上前の中国、宋の時代の代物だ。

でもその茶碗をつくった中国には1つも現存していないし、その存在すら知らない人も多い。

なぜかというと「曜変」=「窯変」、つまり窯の中で起こる突然変異のせいだ。古代中国の人々にとってこれは大変不吉なもので、曜変天目茶碗は世間や朝廷に見つかる前に壊されてしまう運命にあった。

もともと古代の中国には天命思想というものがある。

人間は天から与えられた運命、すなわち天命を知り、天の教えに従って生きるという考えだ。最高権力者の皇帝ですら天に従い、天の加護がなければ地上の王国をまとめることができなかった。

皇帝が天の意志に背くとき、天は皇帝に警告する。その警告の一つの表れが「窯変」から生まれた、天の「異変」。「曜変天目茶碗」だった。

いま、その「曜変天目茶碗」は3点すべて日本にある。

ということは、古代中国で不吉とされ、
ひた隠しにされてきたこの「曜変天目茶碗」を、中国にいた誰かは美しいと感じ、価値のあるものだと感じた。いや、不吉なほど、恐ろしいほど美しかったというのが正しいのかもしれない。世間や朝廷に見つかれば殺されかねないなかで、命をかけて守り、誰かに託したのだ。

そして商人の手から手へ。最終的に海を渡り、日本で貴重な唐物として扱われ、なぜか日本の国宝となる。

きっと「曜変天目茶碗」の美しさを見出した人は当時、相当な変わり者だっただろう。でもそのおかげで茶碗は今もここ日本にある。

まぁ実際はこんな美しい話ではないだろうけど、この茶碗をめぐるストーリーが好きで、日本と中国の価値観の違い、茶碗とこの本のことをたまに思い出したりしている。

美しさの基準の大半は時代や文化がつくるとしても、時折こうやって軽々と枠を越えていく人がいる。そういう人たちがわたしたちの美しさの基準を少しずつ変えていってくれるのかもしれない。


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