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就活、相性、自律性、人事

新卒採用や就活が、「自己実現」にとってどのような意味を持つか、ポイントを整理しておく。

1. 新卒でどのような会社に入社するかによって、その個人が承認欲求等を満たせるかが変わる。

  • 当然、その個人の価値観や志向性、性格などにあった会社の方が、自己実現に近づける可能性は高いだろう。

  • ただし、採用や就活でのマッチングだけでは不十分。そもそも相性うんぬんを言う前に、人の個性を引き出せる組織か、成長させられる組織化どうかが問題となる。例えば、パワハラが横行しているような組織では、どんな新卒社員であれ、十分には自己実現に近づけないだろう。

2. 就活と言う過程そのものが、自己実現に必要な「自律性」「決める力」などを育てる場となる可能性がある。あるいは、「何のために生きるか」ということを見つめる、自我を強化していく機会となる可能性がある。

  • 多くの大学生にとって、本格的に「社会」(これまで接してこなった”大人の社会”と言う意味での」に接する初めての機会となる。例えば、さまざまな企業について知ったりOBOG訪問などで大人と接することで。

  • 最終的に何らかの企業を選ばなければいけないから、自分自身を見つめることを強制される機会である。


家庭環境 → 教育 → 仕事 →  経済格差 → 家庭環境・・・という固定化されたループを、リセットさせうる機会が就活であるとも言える。ただし、有名企業には有名大学の入社が圧倒的に多い、という意味では、そこまでシャッフルされないといえるかもしれない。しかし、必ずしも有名大学ではない大学出身の学生が起業して成功しているように、あるいはベンチャー企業への入社が徐々に増えてきているように、どんな会社に入るかどうかは、必ずしもその後の経済的成功や幸福を意味しない。入社した先の会社で欲求を満たされながら、自分の個性を磨き込むことで他者に貢献する力を高められれば、あるいは人間的な成長を遂げることができれば、上記の負のスパイラルを断ち切る機会になる可能性が、人の一生を通して見た時に相対的に高いのが就活のタイミングであると言えるだろう。


では、就活には上記のようなポテンシャルがあるとしたうえで、それを現実に発揮させるうえではどうすればいいか。逆にいうと、そのポテンシャルを阻んでいる要因は何か?

第一に、相性うんぬんの前に、最低限個性を発揮させられるような組織状態を満たしていない企業がかなり多いのではないか。統計的なデータを持ち合わせている訳ではないが、例えば、心理的安全性が低い組織がかなり多いのではないか?それでは、仮に相性のあう企業に入社したとしても、安全への欲求や承認欲求が損なわれ、自己実現を阻害する方向へ向かってしまう。

第二に、仕事における「相性」を十分定義する技術が世の中に存在していない。現在の経済的格差は、現状のビジネスの尺度の中で、いわゆる「生産性の高い人とそうでない人」によって大きな差が生まれがちである。しかし、いわゆる「生産性の高い人」だからといって、例えば良き介護者か、良き学校の先生かというとそうではない。いわゆる「生産性」そのものの定義を豊かにし、能力を多尺度にしていくことから「相性」そのものを定義できるようになっていく可能性がある。多彩な「相性」が定義できることで、さまざまな人の個性を発揮させるマッチングが可能になっていく。

第三に、「自律性」「決める力」「自我を確立する機会」として現状の就活は機能しきっていない。むしろ、約1年間という限られた機会の中で結論を出さねばならないという切迫感の中で、むしろ「就活ノウハウ」や「企業ブランド」のようなものにすがってしまう傾向にある。これは現在の1年間で一気に就活をやる、と言うあり方そのものを変えていく必要があるだろう。大学3年になる前から、もう少し社会の接点を増やし(できれば中学校、高校から)、ゆとりを持って自分の将来を見つめていくこと、およびそうした就活生に相対する企業が、特に人事が、もう少しゆとりをもって学生に接し、学生の考え方や行動そのものに正の影響を与えられるようにしていていくことが求められているように思う。

なお、人事の皆さんは、さまざまな要因により、とても時間的に切迫した働き方となってしまっており、学生個人に向き合い良い影響を与えられるかどうかは、かなりの部分が個人の能力に委ねられているのが実情である。もちろん、人事の仕事は「採用すること」であり、学生にいい影響を与えることを求められているわけではないが、そうしたいと思っている人事が多いのも、また事実である。


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