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【短編小説】アジャイル卒業式 第三話「時を越えて」

会議室に入ると、様々な世代の委員たちがすでに集まっていました。美咲は深呼吸をして、自分の提案を始めました。

「私はアジャイルな卒業式を提案します。柔軟性と効率性を重視する現代にあった考え方を卒業式にも取り入れることで、もっと生徒や保護者の声を反映させることができます。」

委員たちからはさまざまな反応がありました。

「でも、伝統的な式典の方がいいと思うんだけど。」

「新しい試みもいいけど、リスクは避けたいね。」

美咲は、自分の考えを堅持しました。

「私たちには、新しいことに挑戦するチャンスがあるんです。過去の卒業式は素晴らしかった。でも、時代は変わりました。私たちの時代にはできなかったことを、今の生徒たちには経験させてあげたいんです。彼らには、私たちが持っていなかった新しい視点があるんです。それを生かさない手はないと思います。」

会議室には一瞬の沈黙が訪れました。美咲の熱意に、委員たちは少しずつ心を動かされ始めました。彼女の提案は、卒業式の伝統的な枠組みを再考させ、新しい可能性を開くものだという納得感が確かに広がり始めました。

「私たちの卒業式も、時代と共に進化するべきです。」

美咲は続けました。彼女の言葉には、過去を大切にしつつも、未来に目を向ける決意が込められていました。会議が進むにつれ、美咲の提案はさらに具体的な内容に迫っていきます。

「例えば、卒業式のプログラムを生徒たちがデザインするワークショップを開催することで、彼らの創造性を引き出し、式をよりパーソナライズできます。また、式の進行をアプリを通じてリアルタイムで調整できるようにすることで、参加者の声をダイレクトに反映させることができます。」

彼女はさらに続けました。

「私たちは、伝統的な卒業証書授与に加えて、生徒たちが自分たちの成長や学びを表現するための"タイムカプセル"セッションを設けることも考えています。これにより、卒業式は単なる儀式ではなく、彼らの学びの旅を祝福する場となります。」

委員たちの間には驚きの声が上がりました。伝統的な枠組みを超えた美咲の提案は、新しい卒業式の形を具体的に示していました。

「これは、生徒たちにとって忘れられない卒業式になるでしょう。彼ら自身が創り上げることで、より意味深いものになります。」

美咲は自信を持って語りました。
一部の委員は依然として最後まで懐疑的でしたが、美咲の提案には新しい時代のニーズに応える力があると感じ始めていました。彼女は、伝統と革新のバランスを見つけることの重要性を強調し、委員たちを説得し続けました。

「私たちの卒業式は、過去を尊重しつつも、未来を見据えるべきです。生徒たちの声を反映させることで、彼らにとっても、私たちにとっても、意義深いものになります。」

◻︎◻︎◻︎

第一回目の企画会議が終わり、美咲の進める卒業式の企画が具体的な形を取り始める中、彼女は新しいアイデアを実現するために奮闘していました。

卒業式の準備が本格化する中、美咲は生徒たちと共に学校の体育館で準備作業に取り組んでいました。彼女の周りには、ポスター、装飾品、そして生徒たちが作成したアート作品が散りばめられていました。

「美咲さん、このポスターはどこに掲げたらいいですか?」

一人の生徒が美咲に尋ねました。
美咲は微笑みながら答えました。

「そこにあるステージの横がいいわね。皆の目につきやすいし、卒業式の雰囲気も出るわ。」

生徒たちは、それぞれが考えたアイデアを実現するために一生懸命働いていました。彼らは、自分たちの声が卒業式に反映されることに興奮し、準備作業に熱心に取り組んでいました。
美咲は、生徒たちが自分たちのアイデアを形にする様子を見て、感動しました。

「これこそが、私が望んでいた卒業式の姿。生徒たち自身が創り上げる、生き生きとした式になるわ。」

彼女は生徒たちに助言をしながら、彼らの創造性を最大限に引き出すよう努めました。美咲の提案したアジャイルなアプローチは、生徒たちにとって新しい経験となり、彼らの卒業式に対する期待を高めていました。

「ミサッキーが私たちに意見を求めてくれてとっても嬉しいです。そうだ。私たちみんなが思っていることを出し合うワークショップはできないでしょうか。」

ある生徒が美咲に提案しました。美咲は、彼女が企画会議で出したものと同じ提案が生徒の口から発せられたことに感動しました。
そして彼女は、生徒たちとのワークショップを計画し、彼らの創造性を引き出す方法を熱心に考えました。

◻︎◻︎◻︎

「生徒たちには、自分たちの卒業式についてのビジョンを描いてもらい、それを共有する場を設けたいんです。」

第二回目の企画会議で美咲は、委員たちにこのアイデアを説明しました。
彼女は、生徒たちが自分たちのアイデアをビジュアルアートや短いスピーチで表現するワークショップを提案しました。このワークショップは、生徒たちが自分たちの声を直接卒業式の企画に反映させるものでした。

また、美咲は、卒業式当日に生徒たちが自分たちの作品を展示し、それを通じて自分たちの学びや成長を祝う「成長のギャラリー」を提案しました。これにより、卒業式は単なる儀式ではなく、生徒たちの成長を祝福するイベントになると彼女は考えました。

「私たちの卒業式は、生徒たちの成長と学びの旅を祝う場になるべきです。」

美咲は、委員たちに自分のビジョンを熱心に語りました。
この新しいアプローチは、委員たちの間で賛否両論を呼びましたが、美咲の熱意と、前回の企画会議にも増してより詳細に具体化された彼女の計画により、徐々に支持を集め始めました。

彼女の提案は、卒業式を生徒たち自身が創り上げる記念行事として再解釈することを目指していました。



第四話へ続く。

▼第二話「変わるもの変わらないもの」

▼第一話「今、できること」

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