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【短編小説】アジャイル卒業式 第一話「今、できること」

東京の繁華街にある小さなオフィスビルの一角で、佐藤美咲は日々の業務に追われていました。彼女のデスクは、整然とした書類とコンピューター画面に囲まれ、外の喧騒とは無縁の静けさが漂っていました。

ある金曜日の午後、美咲のスマートフォンが突然鳴り響きました。画面に映し出されたのは、高校時代の友人、麻衣からの着信でした。

「美咲!久しぶり!私、あなたの高校の友達、麻衣よ。」

「麻衣?本当に久しぶりね!どうしたの?」

「実はね、私たちの母校が創立50周年を迎えるの。その記念の卒業式の企画委員に、あなたを推薦したの。」

「えっ、私が企画委員?」美咲は驚きとともに、不安を感じました。彼女は高校時代、目立つことを避け、影で支える役割を選んでいました。自分が中心となって何かを行うことには慣れていなかったのです。

「でも、私にそんなことができるのかしら...」美咲は自問自答しました。彼女は、自分の能力に疑問を持ち、この新しい挑戦を受け入れるべきか迷いました。

その夜、美咲は自宅で高校時代の卒業アルバムを開き、過去を振り返りました。彼女は、自分がいつも背景にいたこと、もっと積極的に行動すればよかったという後悔を感じました。

「もし今、違う選択をするチャンスがあるとしたら...」美咲は深く考え込みました。彼女は、この機会が自分を変えるチャンスなのではないかと思い立ち、新しい自分を試す勇気を持つことに決めました。

翌日、美咲は高校時代のもう一人の友人、由紀に相談しました。由紀はいつも美咲のことを応援してくれる人でした。

「美咲、これはあなたにとって素晴らしいチャンスよ。あなたならきっと素敵な卒業式を創り上げられる。」由紀の励ましの言葉に、美咲は勇気づけられました。

「私、やってみるわ。」美咲は麻衣に返事をしました。これはただの企画委員ではなく、自分自身に新たな挑戦をする機会だと感じていました。

◻︎◻︎◻︎

美咲はその週末、自宅の静かなリビングで再び高校の卒業アルバムをゆっくりと開きました。彼女の指がページをめくるたび、過去の記憶が色鮮やかに甦ってきました。学園祭の賑わい、友達との笑顔、そして卒業式の日の緊張感。それぞれの写真が、彼女の心に様々な感情を呼び起こしました。

「やっぱり伝統的な式がいいよね。」と高校時代の友達が言った言葉が、彼女の記憶から蘇ります。

「うん、でもちょっと何か新しいこともしたいな。」と別の友達が付け加えた言葉も。

美咲はアルバムを閉じ、深く息を吐きました。

「今、私にできることは...?」

彼女は、自分たちの卒業式が伝統に縛られていたことを思い出しました。新しいことに挑戦したいという願望があったにも関わらず、実現できなかったのです。時を超え今、彼女にはその機会がありました。

美咲は、自分の部屋の窓から外を見つめながら、過去と現在を比較しました。かつては自分に自信がなく、新しいことに挑戦する勇気もありませんでした。しかし、今は違いました。彼女は、確かに自分の中に新しい可能性を感じていました。

彼女は、高校時代の自分に手紙を書くように、心の中で語りかけました。

「あの頃の私へ、あなたはもっと自分を信じても良かったのよ。今、私があなたの分まで新しい挑戦をするわ。」

「もしかしたら、私にも何かできるかもしれない。」美咲はそうつぶやき、新しい挑戦に向けての一歩を踏み出す決意を固めました。彼女は、自分の過去を受け入れ、新しい未来への扉を開く準備を始めたのです。

翌日、美咲は母校を訪れ、かつての教室や校庭を歩きました。彼女は、学生時代の思い出に浸りながら、自分がどれだけ成長したかを実感しました。そして、卒業式の企画委員としての役割に対する自信を新たにしました。


第二話へ続く。

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