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粉雪が降り積もる季節を想像しながら/アランニット制作日記 9月後編

 YUKI FUJISAWAがアランニットの個人オーダー会を開催するのは、これが2度目のことだ。最初に開催したのは2年前の冬にさかのぼる。

「ブランドを始めたときはまだ学生で、しばらくは実家の一室で制作していました。それだとお客さまどころか仕事関係者も呼びづらかったんです。そのうち台東デザイナーズビレッジという共同アトリエを借りて、外のギャラリーで展示会も開催していた頃、『お店のための展示会ではなくお客さまに向けた個人オーダー会にチャレンジしてみたい』という気持ちが芽生えて。今年の会は、2017年の12月に個人オーダー会を開催した以来です。」

_MG_0045_1のコピー

2019年3月に発表した[1000 Memories of]の個人オーダー品。その人の思い出の写真や手紙を箔でトレースし、ワンピースの柄として「記憶」を重ねていく。

それ以前も、ゆきさんは何度か展示会を開催してきたけれど、それはワンピースやトートバッグを扱うもので、アランニットの個人オーダー会は久しぶりだという。

「普段ひとりで制作しているときは『このヴィンテージをより美しくするには』『どう活き活きさせるか』、素材そのもの興味が向くので、着用者の姿を想像するよりも、ヴィンテージ素材そのものに意識がフォーカスしていることが多かったんです」


 ゆきさんは、古着に染めや箔を施すことで、「NEW VINTAGE」という作品に生まれ変わらせる。そこにどんな加工を施すか、アトリエでひとり素材と向き合いながら考えて、完成した作品をお店に届ける。その過程では、実際に身にまとう人と対面できる機会はない。でも、オーダー会ではひとりひとりのお客さまと向き合うことになるので、いつもと違うモードになる。

「今回のオーダー会が始まる前は、いろんなことにナーバスになってしまい、『一人も来ないんじゃないか』とか、『ニットの風合いが固い』みたいなことまで気になり始めちゃって(笑)。ニットってそういう素材のはずのに、一度気になり始めると止まらなくなっちゃって。だから、今日を迎えるまではすごく不安な部分もあったんです」

 その不安は杞憂に終わり、お客さまは嬉しそうに試着を重ねている。その様子に、ゆきさんはどこかホッとした様子でいる。

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「こうやってイベントを開催すると、ほんとに感謝の気持ちが出てきますね」とゆきさん。

「生活をしていると、『あの映画、あの展覧会に行きたかったのに、気がついたらもう終わっちゃった』ってことがありますよね。でも、今日のオーダー会は1ヶ月前から予約をしてくれて、自分の人生の中にこの時間を空けてくださって、このアトリエまでたどりついてくれるわけじゃないですか。それってすごいことで、そのことを思うと嬉しくて涙がでます。感謝の気持ちを絶対に忘れちゃいけないなといつも思うんです」


 2組のお客さまは、購入するニットを決めて、次はどんな箔を入れようかと頭を悩ませている。袖の長いネイビーのセーターを選んだお客さまは、迷いに迷って、袖口にも箔をプリントすることを選んだ。

「袖が長いので、袖を折り返して着るだろうから普段は箔が隠れると思うんです。でも、『今日は袖にシルバーの箔が欲しい!』って日には、袖を折り返さずに、箔を見せて着ようと思います」

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 オーダー会の様子を眺めていると、お客さまの生活の姿を垣間見ているような心地になる。彼女は今、アトリエでアランニットを試着しているけれど、実際にそれを身にまとうのは日常生活の中だ。アトリエにある鏡を見つめながら、近い未来に自分がどんな気分で生きているかを想像し、ニットをまとっている未来の私を想像する。そして、その一着が未来の私にぴったりフィットするように、箔を載せる箇所を選んでゆく。

「じゃあ、この子たちは大事にお預かりしますね」

どんな箔をプリントするかが決まり、それをメモし終えると、ゆきさんがお客さまにそう切り出す。「11月まで、しばしのお別れ。ちょうどニットが着られる季節にお届けします」

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 お客さまを送り出すと、アトリエはしんと静まり返った。次のお客さまをお迎えするまでのあいだ、ゆきさんはニットを検品し、穴を見つけては補修している。気の遠くなる作業を繰り返しながら、冬がやってくるのを待っている。

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【アランニット制作日記 10月】 へ続く

words by 橋本倫史


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