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ピースメイキングサークルとは?〜アメリカ先住民族の伝統が息づくグループ・プロセス〜

ピースメイキングサークルとは?

現在、米国ではワシントン州シアトルやマサチューセッツ州ボストンなどを中心として多様性のある社会や組織に対応したグループワークとしてピースメイキングサークル(Peacemaking Circle)というプログラムがあります。

1970年代、ピースメイキングサークルは、カナダ人判事のバリー・スチュアート氏(Barry Stuart)とファースト・ネイション(先住民族)の男性ハロルド・ゲイテンスビー氏(Harold Gatensby)の出会いによって生まれました。

How a peacemaking circle program born in the Yukon became a key element in North American justice reform

円になって座り、コミュニティの癒しやより広い関係性とのつながりへと変容を促すこのプログラムは、カナダのユーコン準州(Yukon, Canada)のファースト・ネイション(先住民族)、ターギッシュ/トリンギット(Tagish Tlingit)の伝統的な叡智と現代的な実践が統合された、画期的なグループプロセスです。

このプログラムでは、一人ひとりが自分の体験/経験を物語り、深く耳を傾けあうことにより、自己理解、他者理解が進み、 チームやグループでは、親密感が高まり、強い共同意識が生まれます。すでに米国では様々な研究結果よりこの手法の高い効果が認証されています。

このプログラムの効果的な実践として、社会から差別されたり、社会に帰属意識をもちにくい移民・難民が、グループプロセスを通じて 、他者との信頼関係を築き、未来に希望を持ち、生きる力を育む効果もあげています。

ピースメイキングサークルに基づく修復的司法のアプローチ(a restorative justice approach)は、投獄の連鎖を断ち切りながら、家族や地域社会に癒しをもたらしつつあるのです。

A Once and Future Peace, which examines how a restorative justice program for young offenders — based on Indigenous peacemaking circles

How a peacemaking circle program born in the Yukon became a key element in North American justice reform

また、すでに移民難民向け以外にも、米国ブリヂストンタイヤやシアトル市教育委員会など大きな組織でも開催され、高い評価を得ています。

ピースメイキングサークルとの出会い

私がピースメイキングサークルと出会ったきっかけは、NPO法人場とつながりラボhome's viの代表・嘉村賢州さんがサバティカル休暇を行い、世界中を旅して回っている最中に出会った、という話を聞いたことです。2016年のことでした。

嘉村賢州さん

その当時、賢州さんはこんな風に話していました。

場づくりの仕事をして10年、主催のNPO法人場とつながりラボhome's vi 代表の私、嘉村賢州は少し充電と世界の今を味わうために1年間の休暇と世界のたびに出ることを決意しました。

その中で多くの魅力的なファシリテーターやファシリテーション手法と出会うことになりました。その中で今回ご紹介する「ピースメイキングサークル」、そしてそれを実践する数少ない日本人ファシリテーター尾関桂子さんとの出会いがありました。

もともとネイティブアメリカンの対話手法に興味があり一部自分のワークショップにも取り入れておりましたが、この「ピースメイキングサークル」はまさにカナダの先住民族の対話の手法から生まれた話し合いの手法です。まずは私自身が体験してみたいということで実験的に体験のワークショップを開催することにしました。

北米というよりより多様で複雑なコミュニティの中で実際に使われてきているこの手法を私たちと一緒にぜひ体験しましょう。

https://peacemaking.peatix.com/

そして、2017年5月。尾関桂子さんを京都にお招きしてのプログラムに、私もスタッフ兼参加者として初めてピースメイキングサークルを体験することになったのでした。

尾関桂子さん(Dr. Keiko Ozeki)
ピースメイキングサークルキーパー(ファシリテーター)。
シアトル大学大学院博士号取得(専攻:教育学)、シアトル大学大学院修士号取得(専攻:組織開発)、サンフランシスコ州立大学大学院修士号取得(専攻:異文化コミュニケーション、組織コミュニケーション)。
桜美林大学文学部言語コミュニケーション学科において、専任講師として、異文化コミュニケーション、グループコミュニケーション、組織コミュニケーション、口語表現法などコミュニケーション関連のクラスを担当。

2018年当時のプロフィール

また、2017年の国内初のプログラムの実施後、2018年1月には『場づくりにおける「問い」を探究し、ピースメイキングサークルの源流に触れるーたみお・ケイコ・けんしゅうと過ごす1日ー』と題して、中野民夫さんもお招きしてのシアトルの旅の報告会も開催されました。

年明け間もない1月6日に開催されていました

中野民夫さん
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。ワークショップ企画プロデューサー 1957年東京生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。広告代理店の博報堂在職時にはコーポレート・コミュニケーション分野で社会テーマ系業務やビジョン構築・組織活性化などのワークショップを担当。また2005年の愛・地球博では、NPO/NGOが参加する地球市民村を事業受託側としてプロデュースした。2012年博報堂を退職し、同志社大学政策科学部教授を経て現職につく。主著に『ワークショップ』『ファシリテーション革命』、共著多数。

2018年当時のプロフィール
ギターを構えている中野民夫さん

当時のイベント告知が、このような具合でした。

home's vi代表のけんしゅうがサバティカル中、シアトルで出会った「ピースメイキングサークル」の伝え手(キーパー)であるケイコさん。2年前日本ではじめてピースメイキングサークルを開催した時から、home's viの師匠的存在であるたみおさんも共に学んできました。2017年9月にはその源流を探る旅にもたみおさん・けんしゅうの「2人で」行ってきました。

それを「いいなあ」とうらやましく思い、かつ自分でも場づくりをしているhome's viスタッフ(篠原)は思いつきました。「報告会をしたらいいやん!でもせっかくなら「問い」をつくるために3人が大切にしていることやコツを聞いたらいいやん!!」と。そんな思いつきに3人も「それはみんなの役に立つし、お互いの「問い」への姿勢もわかるしやろう!」と乗ってくださいました。(続く)

場づくりにおける「問い」を探究し、ピースメイキングサークルの源流に触れるーたみお・ケイコ・けんしゅうと過ごす1日ー
シアトルの旅の報告を行う3名。左から嘉村賢州さん、中野民夫さん、尾関桂子さん

(続き)第1部・第2部にわけて参加いただけます。「問いづくり」は難しいな。その場の目的やゴール、参加者に合った「問い」が作りたい。参加者が心から願っていることを話せてこそ、組織は変わるし新しいものが生まれるはず。そう願っている人・信じている人は第1部に、「「ピースメイキングサークル」ってなに?「ファーストネイション(ネイティブアメリカン)」の話し合いの方法とその使われ方が気になる」というかたは第1部第2部の両方に、「シアトル?ユーコン川流域?ファーストネイション?なになにそれ?」というかたは第2部に、「3人といろいろ話したい」というかたは懇親会に、それぞれ参加してくださいね。

場づくりにおける「問い」を探究し、ピースメイキングサークルの源流に触れるーたみお・ケイコ・けんしゅうと過ごす1日
会場には多くの方が詰めかけていました

人と人との関係に向き合い、集団や組織に真摯に取り組み、一人ひとりの力を創造的に発揮し、より良い未来へ向かおうとする……そうすると、必然的に社会、政治、法律、国や民族、言語や文化・歴史といった大きなシステムに突き当たります。

…少なくとも、私自身は突き当たりつつあります。

そのようなとき、改めてこの時の体験を振り返ると、今につながる重要なエッセンスがこの場に立ち現れていたように感じられます。

会場には、センターピースが置かれていました。

ピースメイキングサークルの体験

先述の通り、私は2017年5月19〜21日の3日間にわたって行われたプログラムに参加していました。

その時のことも振り返りながら、ピースメイキングサークルの実際…その一端をまとめていければと思います。

まず、当日のキーパー(ファシリテーター)である桂子さんが、サークル状の会場の準備に取り掛かっていました。

円座の準備をする桂子さん

ピースメイキングサークルにおいて、このような場の進行役はファシリテーターではなくサークル・キーパーと呼びます。

参加者のひとりとしていつつ、場を「キープ」する。場の目的とゴールを達成するために周到な準備をし、ことばを選ぶ。

そのようなあり方が反映された役割なのだと感じました。

そして、会場の中心にはセンターピースが準備されていました。

センターピースはそれぞれ、火、水、空気、地のエレメントを表しています。これは太古から人々が重んじてきた自然と共にある状態を再現しているとのことです。

円座の中心に置かれたセンターピース

参加者が場に集うと、サークル・キーパーはセレモニーを施し、その後、問いを投げかけ、トーキングピースを円座の隣に座った人に手渡すことで、サークル・プロセスが始まりました。

キーパーからの問いを参加者は自身の中に反芻し、立ち現れてきたものを話していきます。

そして、トーキングピースを持った人が物語る間、他の参加者は耳を澄ませ、同時に自身の中に湧き上がるものも感じます。

トーキングピースの持ち主が語り終えた時、トーキングピースは隣の人に手渡され、サークル・プロセスは継続していきます。

この時、自身の中に耳を澄ませて沈黙の時間をとる人、何か言葉にしようとして見つからず葛藤する人、今は話す時ではないと一言も発さずに次の方へトーキングピースを渡す人などさまざまですが、円座に集った参加者はそれらのあり方を尊重し、互いの物語への共感を深めていきます。

トーキングピースが一周した時、キーパーは新たに問いを発することもあれば、同じく自身の中や集団の中で立ち現れてきたものから話を続け、再びトーキングピースを回していくこともあります。

以上のような円になってじっくり聴き合い、語り合うプロセスを中心に3日間を過ごしていきました。

どこか神聖さを感じるプロセスだったように思い返されます。

なお、当時の体験についてはインターン生であった鴻野くんもfacebookにて綴ってくれています。

【インターン活動日誌Vol.4】 「ピースメイキングサークルのワークショップに参加しました。」 こんにちは。インターン生の鴻野です。 定期的に更新していくはずが、久しぶりの投稿となってしまいました(^_^;) 先日19~21日にかけて、...

Posted by NPO法人場とつながりラボhome's vi on Tuesday, May 23, 2017

体験を振り返って

今、こうして以前の体験を振り返ることもまた、何か大きな流れの中で必要なプロセスだったのかもしれないなと、感じています。

そして、しばらく疎遠になっていた桂子さんとも、またお話してみたいなと思い始めました。

そして、ピースメイキングサークルの学びも再び取り組んでみよう、そんなエネルギーが湧き上がってきています。

ピースメイキングサークルについて書かれた書物は、現在では数多く出版されつつありますが、私が桂子さんから教わったのは、Kay Pranis『Little Book of Circle Process』です。

またタイミングを見つけて、読み返してみようと思います。

そして、もしこの記事を読んでピースメイキングサークルに興味が出てきたら、ぜひhome's viや、現在、桂子さんが活動しているHuayruroを訪ねて見てください。

ここまで読んでくださったあなたにとって、何か、良いご縁が生まれることを願います。


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