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『未来を変えるためにほんとうに必要なこと』ABD読書会で探求する、困難な状況における力と愛の発揮の仕方

本稿は、アダム・カヘン『未来を変えるためにほんとうに必要なこと』をオンライン読書会で読み解いた際の気づきや学びをまとめているものです。

以下、私が今回の読書会に参加するに至った経緯と、ABD形式の読書会を参加者主体で作り上げた第1回目のプロセス、本書を読み、対話した上での気づき・学びを書いていきたいと思います。

アダム・カヘン氏とは?

アダム・カヘン氏(Adam Kahane)は現在、人々が最も重要かつ困難な問題に対して共に前に進むことを支援する国際的な社会的企業であるレオス・パートナーズのディレクターを務められています。

レオスは、互いに理解、同意、信頼がない関係者の間でも、最も困難な課題に対して前進できるようなプロセスを設計・ファシリテーションを実施し、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカ、オーストラリアなどでセクター横断的な対話と行動のプロセスの支援を実践されています。

これまでに出版された5冊の書籍はいずれも邦訳されています

カナダ・モントリオール出身、ミドルネームをモーセ(Moses)というアダム・カヘン氏は、1990年代初頭にロイヤル・ダッチ・シェル社の社会・政治・経済・技術に関するシナリオチームの代表を務め、その頃に南アフリカの民族和解を推進するシナリオ・プロジェクトに参画しました。

以降、これまでに世界50カ国以上において企業、政府、市民社会のリーダーが協力して困難な課題に取り組むプロセスを整え、設計、ファシリテーションを行なってきた第一人者です。

1993年、後にU理論(Theory U)、Uプロセスを発見することになるジョセフ・ジャウォースキー氏(Joseph Jaworski)オットー・シャーマー氏(C.Otto Scharmer)らとジェネロン社での協働が始まった他、

学習する組織(Leraning Organizations)で有名なピーター・センゲ氏(Peter Senge)の立ち上げたSoL(Society for Organizational Learning)として登壇するなど、現在の組織開発における様々なキーパーソンとのコラボレーションを行なってきた人物でもあります。

アダム・カヘン氏と私の出会い

2023年、アダム・カヘン『共に変容するファシリテーション(原題:Facilitationg breakthrough)』が出版されました。

本書を読もうと考えた時、これまでの彼の書籍を一から読み直した上で理解を深めたいと考えていました。

アダム・カヘン氏は今の私を形成する上でのキーパーソンの1人です。

まだファシリテーションというものに出会って間もない2013年。友人の1人が『手ごわい問題は対話で解決する(原題:Solving tough ploblems)』という書籍を紹介してくれたことが始まりです。

本当に、タフな問題を「対話」で解決できるの?』と紹介してくれた友人は語っていましたが、そこに書かれていたカヘン氏の事例やプロセスは衝撃的なものばかりでした。

また、2014年にはアダム・カヘン氏3冊目の著書となる『社会変革のシナリオ・プランニング(原題:Transformative Scenario Pranning)』が出版され、その際に東京で開催された出版記念ワークショップの会場で初めてお目にかかりました。

後に、私が京都を拠点とするhome's viに所属してからも、メンバー同士や組織を超えた研究会などで何度も話題に出ては、意識し続けてきた存在です。

ティール組織×アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎というテーマの場での一場面

私自身、最近は4冊目である『敵とのコラボレーション(原題:Collaborating with the Enemy)』を読み返しながら、対話と協働が最善の手段ではなく、数ある人との関わり方の1つであるという認識と理解を深めていたところでした。

そのような背景もあった中で、今回のSoLジャパン主催のオンライン読書会が開催となりました。

SoLジャパンとは?

SoL(Society for Organizational Learning)は1997年、MIT(マサチューセッツ工科大学)の組織学習センター(Center for Organizational Learning)の取り組みを受け継ぐ形でピーター・センゲ氏によって設立されました。

SoLジャパンとは、SoL(Society for Organizational Learning)のグローバル組織に認定された地域コミュニティであり、「学習する組織」の原理、わざ、および実践の普及促進と、その実践に務める学習者のネットワークづくりを行なっています。

ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)とは?

今回の読書会は、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎という読書会運営方法で行いました。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®️(以下、ABD)は、有志の研究会がこれまでの読書会の限界や難しさを検討し、能動的な学びが生まれる読書法として探求・体系化したメソッドであり、ワークショップの1手法とも言えます。

開発者の竹ノ内壮太郎さんは、以下のような紹介をしてくれています。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®は、読書が苦手な人も、本が大好きな人も、短時間で読みたい本を読むことができる全く新しい読書手法です。

1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話をするというプロセスを通して、著者の伝えようとすることを深く理解でき、能動的な気づきや学びが得られます。

またグループでの読書と対話によって、一人一人の能動的な読書体験を掛け合わせることで学びはさらに深まり、新たな関係性が育まれてくる可能性も広がります。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®という、一人一人が内発的動機に基づいた読書を通して、より良いステップを踏んでいくことを切に願っております。

https://www.abd-abd.com/

2017年、その実施方法についてのマニュアルの無料配布が始まって以来、企業内での研修・勉強会、大学でのゼミ活動、中学・高校での総合学習、そして有志の読書会など全国各地で、様々な形で実践されるようになりました。

ABDの進め方や詳細については、以下のまとめもご覧ください。

第1回 「未来を変えるためにほんとうに必要なこと」オンライン読書会

今回扱った書籍は、アダム・カヘン『未来を変えるためにほんとうに必要なこと』です。

監訳者は、オットー・シャーマー『U理論』の翻訳を務められた他、『ザ・メンタルモデル』著者でもある由佐美加子さん。

アダム・カヘン氏にとって二冊目となる本書を読み解くべく、朝から有志のメンバーが集いました。

集まった時点では、扱う書籍と時間以外、ほとんど何も決まっておらず、活用するオンラインツールや進め方についても、その場に集まったメンバーで作り上げていくこととなりました。

まず、それぞれの今の気分を一言ずつ話していく『チェックイン』を行なった後、それぞれ分担していくページを決めていきます。

オンラインツールには、Googleスライドを活用することに落ち着き、まとめの時間『サマライズ』が始まりました。

本書のテーマ:Power & Love

本書は、アダム・カヘン氏が見出した問題が複雑になる3つの複雑性と、力と愛の適切な活用の仕方について理解を深めることで、家庭、集団、企業、社会における複雑な問題を解決していく術を見出すものです。

簡単に3つの複雑性について見ておくと、以下のような複雑性が混じり合いながら、人々が直面する課題を困難なものにしています。

ダイナミックな複雑性…原因と結果が相互依存の関係にありながら、時間的・空間的にも遠く離れている。個別対処ではなく、システムを全体として捉える必要がある。

社会的な複雑性…関係者のものの見方、利害が一致していない。専門家だけではなく、当事者自身の参加が必要。

生成的な複雑性…未来が全く予想不可能で未知なものになる。過去のベストプラクティス(模範例)を当てはめてもうまくいかず、「ネクスト・プラクティス」となる解決策を育てる必要がある。

また、本書の中で特に印象的だった点としては、まず、本書における力(Power)愛(Love)について、神学者であり哲学者のパウル・ティリッヒ(Paul Tillich)による定義に則っていたことでした。

曰く、

力とは、「生けるものすべてが、次第に激しく、次第に広く、自己を実現しようとする衝動」
"the drive of everything living to realize itself, with increasing intensity and extensity." 


愛とは、「切り離されているものを統一しようとする衝動」
"the drive towards the unity of the separated."

著者であるアダム・カヘン氏は、世界中の政治的、経済的、社会的な課題を解決するためのプロジェクトを推進する中で、力と愛のどちらしかない場合、どちらかに偏りすぎている場合に、チームや集団のプロセスが上手くいかない場面に直面してきていました。

キング牧師の言葉にある、『愛なき力は暴力であり、力なき愛は無力である』という事実を、まさに自身の経験から感じ取ってきている様が、本書中の文章に表れていたように思います。

対話の中で取り上げられたテーマ

対話の中では、特に力(Power)についての探究が進んだように思います。

本書が出版された最中では、企業活動の中においても、他者との共同という場面でも対話、愛による結合のエネルギーや衝動が尊ばれていました。その中で、対話温泉と呼ばれるような状況も一部では生まれていました。

一方で、本書でも著者が指摘している点でもありますが、物事を強く推し進めるためには、力(Power)が不可欠です。

この力にも、する力(Power to)させる力(Power over)があり、ともすれば力=させる力(Power over)という認識に陥りがちな罠があったと、参加者それぞれの経験が語られていました。(力とは、Forceではないか?という意見も)

アダム・カヘン氏の代表的なプロジェクトである、南アフリカでのシナリオ・プロジェクトは、白人と黒人の国民がいる中で、どのように民主化を進めていくか?という未来を探求するものでもありました。

2023年現在、日本の隣国でもあるロシアとウクライナは軍事衝突の最中にあり、初めて本書を読んだ当時よりも、させる力(Power over)に対する懸念や、愛(Love)による結合や統一へ向かう衝動、エネルギーの重要さも感じられる時間にもなったように思います。

次回、3/26(日)に開催予定!

さて、3回シリーズのABD読書会シリーズですが、次回は3/26(日)に開催予定です。

リンクをこちらで用意しておきます🌱

最後に、本書の著者であるアダム・カヘン氏が来月に来日予定ですので、以下にその予定をまとめておこうと思います。

2023年3月、著者来日イベント一覧

出版記念読者プレゼント企画:アダム・カヘン講演「共に変容するファシリテーション」(オンライン視聴)

3月10日(金)19:10-20:40

アダム・カヘン基調講演:「共に変容するファシリテーション」
(Zoomで英語チャンネルまたは日本語チャンネルを選択いただきます)

質疑応答
(視聴はできますが、質問できるのは2日間のセミナー申込者のみで、現地参加者を優先させていただきます)

【残席わずか】アダム・カヘン氏招聘特別セミナー「共に変容するファシリテーション」

3月10日(金)19:00-20:45
第一部 講演編:「共に変容するファシリテーション」

3月11日(土)9:30-17:30
第二部 ワークショップ編:「共に変容するファシリテーション」(集合形式)

アダム・カヘン氏特別講演イベント「コラボレーションをみつめ直す:いかに違いを超えて、システムを変容するか?」

3月12日(日)13:30-16:30

第一部 アダム・カヘン氏講演
「システム変容のためのラディカルなコラボレーション:愛と力と正義をもって共に取り組む」

第二部 対話セッション
「日本でのコラボレーション実践: チャレンジと可能性」

サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱