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【読書感想】雇用について論ずるなら最低限この本を読むべき!

明けましておめでとうございます。

Yukiです。新年になってからだいぶ時間が経ってしまいましたが、今年もよろしくお願いします!

今回ご紹介する本は、濱口桂一郎さんの『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』です。

僕はこの本を読んで、雇用について論じる場合、最低限この本を読んでからにするべきだと思うようになりました。雇用、労働というのは人の一生の内、大半を占めます。それだけ誰にとっても関係が深いテーマです。

そうであるがゆえに、誰でも語ることができるテーマでもあります。しかしその場合、往々にして個人の経験に即して語られがちです。もちろん個人の経験も大切です。ですが、個人の経験という違った視点から語られることで、議論がかみ合わなかったり、感情論に終始してしまっていることが多いように感じます。

感情論に終始することなく冷静な議論が必要だと思います。そのための土台を提供してくれるのが本書です。本書では、日本の雇用システムの根本的な部分から詳しく解説されています。そのため、最低限この本を読むべきだと考えます。

本の内容

詳しい内容は本書に譲るとして、ここでは本書で重要な概念であるジョブ型雇用メンバーシップ型雇用について取り上げます。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用について濱口さんは次のように定義しています。(引用元:濱口桂一郎(2013)|産業競争力会議雇用・人材分科会ヒアリング用資料 「今後の労働法制のあり方」

ジョブ型雇用:職務、労働時間、勤務地が原則限定される。欠員補充で就「職」、職務消滅は最も正当な解雇理由。欧米アジア諸国すべてこちら。日本の実定法も本来ジョブ型。
メンバーシップ型雇用:職務、労働時間、勤務地が原則無限定。新卒一括採用で「入社」、社内に配転可能である限り解雇は正当とされにくい。一方、残業拒否、配転拒否は解雇の正当な理由。実定法規定にかかわらず、労使慣行として発達したものが判例法理として確立。

それぞれ見ていきます。

まずジョブ型雇用についてです。ジョブ型雇用とは、企業が人を採用するさいに、職務、勤務場所、勤務時間、賃金などの条件を明確に決めて雇用契約を結び、雇用された側はその契約の範囲内のみで働くという雇用システムです。

「職(ジョブ)」があって、その「職(ジョブ)」に当てはまる人を採用するというやり方です。つまり基準は「職(ジョブ)」にあるということです。したがって、白人であろうと、黒人であろうと、男性であろうと、女性であろうと、また若者であろうと高齢者であろうと、誰がその「職(ジョブ)」をしようとも、しっかりと遂行している場合、定められた報酬としての賃金が支払われます。

またジョブ型社会では「旋盤操作ができます。」「経理事務ができます。」というように、「できる仕事」というレッテルを全ての労働者がぶら下げているイメージだと言います。

一方の日本のメンバーシップ型雇用では、職務、勤務場所、勤務時間、賃金といった雇用条件は明確化されておらず、またその範囲も無限定であると言います。

そして日本では、「人」がまずあってそれに「仕事」を割り当てるという形式を取ります。この場合、その「人」がその仕事を担当する素質や潜在能力を持っていれば良く、必ずしも最初からその「仕事」を完全にこなせる必要ありません。

むしろ、一般的には実際に仕事をしながらスキルが上がっていくことが期待されています。そのため、個別具体的な「仕事」ができるかどうかよりも、担当する可能性のある様々な「仕事」をこなせる潜在能力があるかどうかが重要視されている、といいます。

ではその「人」をどうやって判断するのでしょうか。それが、例えば年齢であったり、どの程度の大学に入学できたのかという偏差値や学歴であったり、人間性であったりというあいまいないものだと濱口さんは指摘します。

そして日本においては「人」が中心ですから、賃金も「人」を基準に決めることになります。しかし、そうはいっても、社長が「あなた賃金です」といって、主観的な判断をするわけにはいきません。労働者が納得するような、客観的な基準が必要です。

それが年齢であったり勤続年数になるわけです。これが年功賃金制度です。年功制になるのは、雇用契約で「職(ジョブ)」が特定されておらず、代わりとなる客観的な基準が必要だからです。

こうしてみると、日本で「就職活動」と呼ばれている現象が厳密な意味での「就職活動」ではないと言います。

就職とは、「職」に就くですが、これまで見てきた通り日本では「職」は特定されておらず、それに就くわけではありません。どんな仕事をするかは後から決まります。

すなわち日本では、入社したあとに決まります。その意味で学生たちが行っているのは、「就職活動」ではなく「入社活動」である、と濱口さんは述べます。副題に『「入社」』という言葉が使われているのはそのためです。

以上がジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の概要でした。もちろんこれで全てではありません。紹介しきれない部分がたくさんあったので、残りは是非とも本書を読んで確認して頂きたいと思います。

読んだ感想

この本で一番最初に感じたのは衝撃でした。これまで様々な雇用をテーマにしたものを読んできましたが、なんとなく表層的な部分だけで終わっていて、もっと深い部分を取り扱っていないように思えました。

漠然としたモヤモヤもを抱えていたのですが、そのモヤモヤを綺麗に解明してくれたのが本書でした。目の前に霧がかかっていたのに、たった1冊の本で綺麗さっぱり無くなったという衝撃がありました。

日本の雇用慣行を貫くシステムが分かったことで、現在生じている労働問題についてまた異なる視点から考えられるようになりました。日本の雇用システムについてここまで根本的な部分から詳細な議論を展開している本は、なかなかないと思います。

逆に言えば、雇用システムの根本を知らずに議論しても、本質を外した議論に陥ってしまいます。そうした事態を避け、実態に即した議論を認識するために、本書を強くオススメします。

終りに

今回は濱口桂一郎さんの『『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』を取り上げました。このほかにも濱口さんは著作を発表しています。そのうちの1つに『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機』があります。

本書と同じくらいオススメの本です。この本では、「ジョブ型雇用」についてもう一度詳しく解説されています。しかし、なぜもう一度そのような本を執筆したのか。

端的に言えば、一部のメディアが「ジョブ型雇用」という言葉が間違った使い方をしている、あるいは意図して曲解しているからです。(そのため、この本で濱口さんは、かなり怒っていることが分かります。)

そうした間違った使い方をしているメディアより、その言葉を作った人の本を読む方が確実に理解できると思います。

是非とも読んで頂ければ幸いです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。





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