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紫がたり 令和源氏物語 第百九十五話 少女(四)

 少女(四)
 
新しい時代を迎えようとしている機運は、冷泉帝が自ら施政に参加されるようになってのこともあります。
若い帝は頭脳明晰であられるも、忠臣の意見を幅広く取り上げて、安定して世を治められておられます。
源氏はそんな主上の御姿を陰ながら優しく見守っているわけですが、帝が一人前ということは、その帝を支える正后(中宮)も定めなければ、と周りが俄かに動き出しております。
今のところ中宮の候補は三方おられます。
一番最初に入内した右大将の姫、弘徽殿女御。
源氏が後ろ盾となっている梅壺(斎宮)女御。
そして紫の上の父であり、今は式部卿宮と呼ばれる親王の姫・王女御。
どなたが中宮に立たれるかで、今後の朝廷の勢力図が明らかになります。
もちろん殿上人達はそれぞれの血縁、近しい間柄などで、贔屓の女御がいるわけなので、この問題は他人事と素通りできないものと宮中にて顔をつきあわせてはお后候補のことで話がもちきりになります。
「亡き藤壺の女院はご自身の代わりにご後見という意味合いで斎宮の女御を入内させたのだから、その御遺志を尊重するべきでは?」
源氏に忠誠を誓う者はそのように主張します。
「いやいや二代続けて皇族出身の中宮はまずかろう。そもそも弘徽殿女御が最初に入内されたのだから、順番からいっても妥当ではあるまいか。なにより主上の御寵愛も深いですからな」
右大将よりの貴族はみな一様にこのように述べます。
朱雀帝の御代に中宮はお立ちにならなかったので、前の中宮は亡き藤壺の女院ということになります。
朝廷に侍る貴族といっても、皇族に縁のある者(宮人)、そうでない者(世人)もおりますので、バランスをとる為にだいたい交代で皇族出の姫やそうでない姫を中宮に擁立していたので、順番からいくと弘徽殿女御優勢かとも思われるところですが、宮人たちはそれならば藤壺の女院に縁ある王女御がよいのではないか、となかなか意見がまとまりません。
冷泉帝はこのまま宮廷内が混乱するのもよろしくないと判断されて、有識者を集めた場で梅壺女御を中宮として冊立することを宣下しました。
その胸の裡には父である源氏への配慮があったのではないかと推測されますが、それはもちろん世に知られることはありません。
当事者である帝と源氏のみが御目を交わされて無言の内に通じ合うのでした。
世の人々は中宮が決まったことで国が盤石の構えになったと喜びました。
亡き御息所の不運を鑑みると中宮は大層な幸運に恵まれていらっしゃいます。
控えめで慎ましく斎宮を勤め上げた女御はことのほか秋に心を寄せておいでになるということで、「秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)」と世間ではお呼び申し上げております。
これを機に源氏は太政大臣に上り、右大将は内大臣になられました。
中宮には源氏の後見する姫が上られましたが、政事については内大臣を尊重しようと一切のことを任せて花を持たせたのです。
内大臣は気性の烈しいところもありますが、政治家として優れた手腕をお持ちなので、娘のことでは源氏を憎らしく思うものの、朝廷において大きな力を維持することで溜飲をさげた次第です。
しかし内心では「また源氏にしてやられた」と穏やかではいられません。それでも責務をまっとうするのが天から与えられた本分と、世の為に正しい政治を行おうと意気込みを新たにされたのでした。

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