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紫がたり 令和源氏物語 第四十四話 紅葉賀(三)

 紅葉賀(三)

朱雀院行幸の当日は、まさに帝の仰せの通りに後の世にも語り継がれるほどの絢爛豪華さでありました。
朱雀院は錦秋の風雅の極みといった美しい佇まいで、紅葉が燃えるように艶やかに舞い落ちるなかを、楽人を乗せた龍頭鷁首(りょうとうげきす=二隻で一対の舟で龍と鷁がそれぞれ彫刻された舟)が数多く池を漕ぎまわり、唐楽(左楽)、高麗楽(右楽)が競うように次から次へと奏されます。
管弦、鼓と楽人などは殿上人のみならず、それより身分の低い者でも特別な技量を持った者たちを厳選されたので、その達人たちの合奏の素晴らしさと言えばえも言われぬ、渡る松風が色を為すように天に吸い込まれる様は何とも壮観なのでありました。

そして催しも盛りの頃に源氏の君が姿を顕わしました。
風に巻かれた紅葉が赤々と、源氏の御姿に艶やかさを添える。
挿頭(かざし=冠や髪に花枝などを挿すこと)に紅葉を用いていたものの、
「君、しばしお待ちを・・・」
紅葉が見劣りするとばかりに左大将が前栽の菊の花枝を手折って挿し替えると、白いお顔がさっと映えて神々しさを増し、さすが帝のご愛児であると人々は感動しました。
先日の夕映えに輝く姿をご覧になった帝が鬼神に攫われぬようにと魔除けの御誦経(みずきょう)などをさせたのもなるほどと頷ける、その圧倒的な存在感にみな溜息をもらすばかりです。
さらに妙手を尽くした舞姿はまるでこの世界のことではないかのようで、舞い納めの入綾の舞の趣は天女も誘われて下りてくるのではないかと一堂が感じ入りました。

この後に続く者はそうはおるまい、次の舞手が不憫であるよ、そう皆が思ったところに姿を現したのは承香殿女御(しょうきょうでんのにょうご)がお産みになられた第四皇子でした。
演目がよく組まれており、幼く愛らしい皇子は元服前のみずらに結った髪のまま、『秋風楽(しゅうふうらく)』を可憐に舞われました。
その愛くるしさに人々は笑みを漏らさずにはいられないのでした。

大成功に終わった催しに帝はたいそう満足され、源氏の君に正三位の位を与え、その対となった頭中将にも正四位下を与えられました。
他の上達部たちもそれぞれの身分に応じて昇進されたので、みな源氏の君の恩恵によって昇進したのである。いったい前世にどれほどの功徳を積めばあのようになられるのか。
世の人々の噂には“さすが世に稀なる光る源氏”と、その名は益々高らかに称賛されるのでした。

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