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夢の中古ショップ

 そのとき初めて訪れた中古ゲームショップに、私はいた。ゲームショップといっても現行ハードやソフトはほとんどない、いわゆるレトロゲームの類ばかりが目に付く、個人経営の小さなお店。古本のついでにゲームソフトも買い取っているみたいな、この中だけ80年代から90年代で時が止まっているかのような、といえば、なんとなく雰囲気だけでも伝わるだろうか。
 昔……20年から15年ほど前はこういったたたずまいの店もそこそこ点在していたように思う。たまの休日にはそんな古めかしい中古ショップをめぐるのが趣味のひとつだった。けれど、ここ最近は馴染みの店がなくなっていくばかりだ。
 レトロゲームを何か物色しようというとき、まず探すのがスーパーファミコンのソフトだ。おそらくはいちばん慣れ親しんだマシンといっていい。しかし、この時ばかりは気分を変えて、もう一つ後の時代――プレイステーションのソフトを眺めることにした。よく売れたハードだけあって、ソフトの種類も豊富だ。商品棚に整然と収められたあのCDケースが懐かしい。
 そういえば当時は親からゲーム禁止令なんかも出されて、名作の数に比して実際にプレイできた本数がかなり少なかった。セガサターンや64と並んで『次世代機』などと呼ばれていたものが、今やすっかりレトロ……旧世代機になってしまったか、などと時の流れの無常さを感じずにはいられない。
 棚を眺めるうち、ソフトの並んでいない最上段――やや手の届きにくい場所、の隅に、何やら無造作に置かれているのに気が付いた。興味に駆られて手を伸ばしてみると、そこには手のひらより少しだけ面積の広い小冊子が数冊、あった。
(これは、取扱説明書か)
 大きさや厚さからして、ゲームソフトの説明書に違いない。取扱説明書、といって、今の子供たちは想像できるだろうか。最近のゲームソフトに付随しているのは電子説明書ばかりだし、ROM容量の増加とともにチュートリアルが充実して、そもそも説明書を読まなくてもひと通りの遊び方は覚えられるようになった。以前は説明書を読むのも楽しみのひとつだったのに、そういえば電子説明書が普及し始めてから、そいつを画面上で実際に開いてみたことは数えるほどしかない。
 今しがた手に取ってみた説明書は裏表紙が上になるように置かれていて、小さな値札がついていた。安いもので100円、高いものだと少し上がって180円になっている。取扱説明書のコレクターがどのくらいいるかは定かでないが、捨てたりタダでばら撒いたりするには惜しい、というのは理解できる。こういう付属品をとっておく店というのも、なかなかない。
 試しに180円の値が付けられた冊子をひっくり返して表を向けてみると、タイトルは『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。なるほど定番中の定番、少々の高値も妥当といったところだ。他も多少気になったものの、取扱説明書は元の場所に戻しておくことにした。
 買ったものは特にない。とはいえ、このような空気を味わえただけでも随分ありがたい話だ――などと思いながら、その店を後に……。

 ……というを、このあいだ見た。なんか妙にリアル。
(夢の中で)お店を出たそのあと、どこかの料理学校が開催していたらしい野外サバイバル調理実習に何故か紛れ込んだ記憶があるけれど、そっちはあやふやで短かった気がするので割愛しておく。

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