【ショートショート】おしちゃうゾ!オシカツ女子!!
ここは東北にある「飛降岬」。
所謂断崖絶壁のこの岬は自殺の名所として度々人が飛び降りる事で有名である。
今日もここから飛び降りようと1人の男が崖の上から荒波を見つめていた。
「痛いのかなぁ、やっぱりしばらくは意識あるんだろうなぁ」
風は強く、まるで彼が飛び降りるのを急かすかの様であった。
彼は上司のハラスメントによって仕事を辞め、恋人から逃げられ、大好きなロックバンドは解散してそのボーカリストがダンスミュージックを始めてしまい、もう生きる希望を見失っていた。
「アパートは出たし、友達にも会ったし、思い残す事は無い」
彼は崖の端まで来るとフラフラと体を前後へ揺らした。
その時、急に後ろから誰かに押されて彼は崖の下へ落ちそうになった。
彼は大慌てで後ろへ倒れ込んだ。
「危ない!落ちるじゃないか!?」
「落ちるつもりじゃなかったんですか?」
彼の後ろには3人の若い女性がいた。
彼女達は笑顔で立っていた。
話をしたのは真ん中にいた女性だった。
尻もちをついたまま彼はしばらく彼女達の顔を眺めてから立ち上がって言った。
「落ちるよ!落ちるけど自分で落ちるんであって誰かに落とされるんじゃない!何なんだ!?君達は!?」
「私達、押し活してるんです」
「オシカツ?」
「はい、飛び降りるのを手伝ってるんです。今月は5人」
「そんなの、じ、自殺幇助じゃないか!?そんな事して君達は悪いと思わないのか!?」
「私達、戦争したがってる国に住んでるんですよ。人の命なんて利益や状況によって投げ出しても良いって事じゃないですか。悪いとかじゃなくそもそもこれは地元愛から来てるんですから」
「地元愛?」
「そう、自殺が沢山成功すればもっとここへ来てくれるでしょう?この土地で美味しい物食べて温かい温泉に浸かって、素晴らしい波を見て死ぬ。地元が潤って自殺志願者が死ねてという感じで」
「美味しい物と温かい温泉と素晴らしい波を見たなら、良かったなぁ、また来たいなぁって思ってもらえるじゃないか?」
「そう失恋する度に思い出を捨てに行く京都みたいにはいきません。不景気、低賃金、誰もこんな田舎には来ません。こうなったら一見さんで稼ぐしかないんです」
「わざわざ観光の為にやってるのか?」
「そうです。私達、あまりに辛い日々の生活に死のうと思ったんですが、生き甲斐を発見しました。地元を愛する事です」
「死ぬ方法なんていくらでもある。いつまでも続かないだろ?」
「注目されれば海外からの観光がありますから」
「この国と違ってわざわざ死のうと思う奴なんか海外からの観光客には多くないだろ?」
「押し活体験ツアーなんてのも」
「君達は狂ってる!大切な物を思う気持ちは良く分かる!好きな事に夢中になるのは良い!でもこんな事は地元に役立ってる気分になってるだけだ!気休めしてるその間に君達の人生がどんどん酷くなる!」
「私達は正気です!こういう環境ではこう生きるしかないんですから!今、幸せです!」
「やめた!死なないぞ!君達が正気に戻れる世の中を見るまで生きてやる!君達が幸せになれる日まで!」
「何を言ってるんです!早く死になさい!」
彼は3人に掴まれ崖の端へと押し出された。
「うわぁ、やめろ!死なないぞ!死んでたまるか!」
その時であった。
「やめなさい!」
スーツ姿の中年男性が2人走ってきた。
彼らを見ると彼女達は男を掴んだ手を離した。
「おのれ!観光協会め!」
彼女達は観光協会と言われた男達に掴みかかった。彼らは彼女達に抵抗しながら叫んだ。
「早く逃げて下さい!この先にバス停があります!発車は10分後です!逃したら次は2時間待ちです!」
彼はその揉み合いの横を走って逃げながら礼を言った。
「ありがとうございます!」
急いで逃げている彼の耳に遠くから観光協会の男の叫び声が聞こえた。
「い、いつか…ま、また…来てく…下さい!こ、ここは本当は良い所なんでーす!」
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