【ショートショート】大都市東京に幻のヤマンバを見た！

　ヤマンバ、それは90年代後半から頻繁に都内某所にて目撃が報告される様になり、2000年代に入ると徐々に姿を消して行った幻の生き物である。その場所は当時から「何々狩り」なる名称で物品が襲われたり、近年でもこの地において破壊活動を伴う仮装行列が目撃される等、都内において比較的土俗的な風習の残る場所として認知されている。
そんな場所で再びヤマンバの存在が報告されたのだ。

　我々は幻のヤマンバを探しす為に都内某所へとたどり着いた。
駅はまるで目的地へ向かう我々を惑わすかの様に何処が正確な出口か分からない構造であった。

「ちゃんと着いてこい！」

隊長の激が飛ぶ。
しっかり隊長の後について行く隊員達。
万が一はぐれて迷いでもした場合、別な出口から出てしまい、永延と微妙な傾斜の坂を登ったり、当てもなく歩き続けて気づいたら隣の町でクレープを頬張っていた等と言う危険性もある。
隊長が指差した先に出口が見える。

「反対から出るんじゃないぞ！切符はあるか？交通系ICの残高は十分か？」

それぞれしっかり手持ちの切符や交通系ICを確認し、まず隊長が改札を出た。

「大丈夫だ！着いてこい！」

隊員達は隊長に続いて改札の外に出た。
改札を出てすぐ我々の目に飛び込んできた物は巨大な顔だけの石像であった！

「なんだ！？これは！？」

口々にそう言う隊員達。
幻のヤマンバを模した物であろうか？はたまたこのこの地に侵入する者達を追い払う為の物であろうか？
この先に待っている危険を暗示するかの様に置かれた石像に勇気ある隊員達の心にも少なからず怯えの感情が湧いて出た。
しかし立ち止まってはいられない。
石像を後に我々はさらに先へと進んだ。
そこでさらに驚くべき物を見た。
今度は犬の像である。
しかもその前に多くの人間が集まっている。
これは何かの儀式が行われている最中かもしれない。

「静かに、気を付けろ。」

隊長は静かな声で隊員達へ注意を促した。
世界的に見ても動物を神として祭る事は珍しくは無い。
場合によっては、この原住民達に捕らえられこの犬の神の生贄にさせられてしまうかもしれない。
我々は彼らに気付かれない様に静かにゆっくりと通り過ぎた。
犬の像はまるて誰かを待っているかの様にただ一点を見つめ立っているのだった。

犬の像を通り過ぎた隊員達の目の前に人間の波が押し寄せる。
溜まっては流れ、溜まっては流れ。

「流れに流されるなよ！左だぞ！うわぁ！」

隊員達は流れに流され本来の目的地とは違う場所へたどり着いた。

「とりあえず進むしかない。」

隊員達はゆっくりと慎重に坂を登っていく。
この登って行く感じはまさに山である。この先に幻のヤマンバが潜んでいる予感を隊員達は感じていた。

「おいっ！あれを見ろ！」

隊長が叫び指差した先に何やら坂を下ってくる集団がいた。

「私、隣の奥さんの分までパンフレット買っちゃった！」

「もう、最高！CD持ってるのにサイン欲しくてまた買っちゃった！」

それは熟年女性に大人気の男性コーラスグループ「谷町ボクラ」のコンサート帰りの集団であった。
そして1人の婦人が指を指し

「あら、隊長さんじゃない。本物よ。いい男じゃない！？」

と言うと集団は我々に気づき、取り囲もうと凄い勢いでこちらに向かってきた。

「間違いない！山姥だ！逃げろぉ！」

隊長は危険を察知し、隊員達に勇気ある撤退の名を下した。
このままでは彼女達に巻き込まれ、同じ様にコンサートへ通う人生を歩む事態が懸念されたからである。
何かに夢中になる人生は豊かであって良いかもしれない。
しかし、我々はまだ未知なる東京の闇へと切り込んでいかねばならない。
そう、我々は今まさに探検に夢中なのだ！