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<ラグビー>ザ・ラグビーチャンピオンシップ(オールブラックス対スプリングボクス)第1テスト,プレビュー

オールブラックス対スプリングボクス

日時:2021年9月25日(土)17:05キックオフ
場所:クイーンズランドカントリーバンク・スタジアム,タウンズビル
レフェリー:ルーク・ピアース(イングランド)
アシスタントレフェリー1: ヤコ・パイパー(南アフリカ)
アシスタントレフェリー2:アンガス・ガードナー(オーストラリア)
TMO:ダーモン・マーフィー(オーストラリア)

スプリングボクス:( )内はキャップ数。
トレヴァー・ニャカネ(49)、ボンギ・ムボナンビ(43)、フランス・マルアーブ(45)、エベン・エツベス(92)、ルード・デヤーガー(51)、シヤ・コリシ(58、キャプテン)、クワッガ・スミス(14)、デュアン・ファルミューレン(56)、ファフ・デクラーク(34)、ハンドレ・ポラード(55、バイスキャプテン)、マカゾレ・マピンピ(20)、ダミアン・デアレンデ(53)、ルッカンヨ・アーム(21)、スブ・ヌコシ(14)、ウィリー・ルルー(68)
(リザーブ)
マルコム・マルクス(41)、スティーヴン・キッショフ(54)、ヴィンセント・コッホ(26)、フランコ・モスタート(46)、マルコ・ファンスタッデン(8)、ハースケル・ヤンチース(16)、エルトン・ヤンチース(40)、フランス・ステイン(69)

オールブラックス:( )内はキャップ数
ジョー・ムーディ(52)、コーディ・テイラー(62)、ネポ・ラウララ(35)、ブロディー・レタリック(87)、スコット・バレット(46),アキラ・イオアネ(8)、アーディ・サヴェア(54、キャプテン代行)、ルーク・ジェイコブソン(9)、TJ・ペレナラ(73)、ボーデン・バレット(96)、ジョージ・ブリッジ(15),デイヴィット・ハヴィリ(9)、リエコ・イオアネ(42)、ウィル・ジョーダン(8)、ジョルディ・バレット(30)
(リザーブ)
サミソニ・タウケイアホ(6)、カール・ツイヌクアフェ(22)、オファ・トゥンガファシ(40)、パトリック・ツイプロツ(39)、イーサン・ブラカッダー(5)、ブラッド・ウェバー(12)、ダミアン・マッケンジー(35)、クイン・ツパエア(3)

プレビュー:
この試合は,1921年8月13日にNZダニーデンのカリスブルックラグビー場で,NZオールブラックスと南アフリカスプリングボクスが対戦してから,ちょうど100試合目となる。ちなみに,オールブラックスとワラビーズは173試合を行っており,北半球のイングランド,スコットランド,ウェールズ,アイルランドは,お互いに130~140試合をしているので,これらに比べたら少なく見えるかも知れないが,その距離の遠さと南アフリカのアパルトヘイトという政治上から見れば,よく戦ってきたとも言える。

特に最初の70年間は,ホームチームよりのレフェリングが当然のように行われており,1981年のアパルトヘイト下で行われたゲームに,当時のIRB(現WR)が中立国からレフェリーを指命するまで,続いていた。そのため1981年以前は,オールブラックスが南アフリカ遠征することが多かったこともあり,スプリングボクス19勝,オールブラックス13勝,2引き分けの戦績となっている。

その後現在までの間は,オールブラックスが46勝,スプリングボクスが16勝,2引き分けとなり,実力差を忠実に反映している。また,1996年のラグビーのプロ化以降では,オールブラックスの41勝,スプリングボクスの14勝となっている。しかし,通算対戦成績では,オールブラックス59勝,スプリングボクス36勝となり,オールブラックスの勝率は59.6%と,オールブラックスの対戦したティア1チームの中では,最も少ない勝率となっており,それだけスプリングボクスは手強い相手ということだ。

参考までに,他の主要チームとの試合数及び勝率は以下の通り。
オーストラリアワラビーズ:173試合,69.36%
南アフリカスプリングボクス:99試合,59.6%
フランス:61試合,78.69%
イングランド:42試合,78.57%
ブリティッシュアンドアイリッシュ・ライオンズ:41試合,73.17%
ウェールズ:35試合,91.43%
アイルランド:32試合,90.63%
スコットランド:31試合,93.55%
アルゼンチン:33試合,93.94%

第二次大戦を挟む,1937~1949年の間は,スプリングボクスが6連勝するなど,オールブラックスを圧倒していた。しかし,2001~2004年にオールブラックスは8連勝して巻き返し,2017年にはNZアルバニーで,57-0の最多得点差の勝利を記録した。また,RWCでは,1995年決勝以来5回対戦しており,オールブラックス3勝,スプリングボクス2勝と拮抗している。RWCを含めた前回の対戦は,2019年RWCプールマッチで,オールブラックスが23-13と完勝した。


スプリングボクスのジャック・ニーナバー監督は,ワラビーズに連敗したことで多くの批判に晒されており,オールブラックスの対戦前から弱気な発言が目立っている。しかし、オールブラックスとの対戦に際して、ベテランを呼び戻すしか方法がないようだ。

先発2人、リザーブ3人を代えた。5番LOマーヴィン・オリーがメンバー外となり、代わりの脳震盪から復帰するルード・デヤーガーを入れた。7番FLはフランコ・モスタートをリザーブLO19番、マルコ・ファンスタッデンをリザーブFL20番に下げた結果、リザーブだったクワッガ・スミスを7番で先発させた。ワラビーズ戦で悪質かつ危険な反則をして裁定委員会に諮られているFLジャスパー・ウィーゼはメンバー外となっている。

リザーブには、23番ダミアン・ウィルムゼがメンバー外となり、22番SOにエルトン・ヤンチース、23番のユーティリティーBKに大ベテランのフランス・ステインを入れた。リザーブの構成は、ワラビーズ戦ではFW6人+BK2人だったが、今回は普通のFW5人+BK3人にしている。1番PRトレヴァー・ニャカネは、これが50キャップ目となる。また、WTBチェスリン・コルベは、復帰に向けて順調に進み、来週のゲーム出場を目標にしている。

ニナーバー監督は、「オールブラックスにはスキルあるプレヤーが多く、ボールをターンオーバーする驚異がある。また、彼らはチャンスを得点に結びつける術を熟知している。そのため我々は、連敗から脱出するためには、レベルの高い80分間をプレーする必要がある」、「経験値が、エルトン・ヤンチースとフランス・ステインをリザーブに入れた理由だ」、「強いディフェンス、正確なプレー、得点チャンスを逃さないことが、キーポイントになる」と述べている

オールブラックスのイアン・フォスター監督は,スプリングボクスがワラビーズに連敗したことで,この歴史的一戦の価値が下がることはなく,またスプリングボクスが簡単に勝てる相手ではないことを,試合前のメディアからの質問に対して答え,チームを包む楽勝ムードを戒めている。

フォスター監督は,スプリングボクスとのフィジカルバトルを想定して,重量級のFWを揃えてきた。1番PRにジョー・ムーディ,3番PRネポ・ラウララがそれぞれ先発に戻った。2番HOはベテランのコーディ・テイラーが戻り,16番のリザーブにはアルゼンチン戦で良いプレーを見せたサミソニ・タウケイアホが入った。PRのリザーブには,17番カール・ツイヌクアフェと18番オファ・トゥンガファシの経験値ある選手となっている。

LOは,4番にオールブラックスFWの中心であるブロディー・レタリックが戻り,5番にはスコット・バレット,リザーブの19番にはパトリック・ツイプロツと,スプリングボクスとのバトルの最前線に立つ選手を揃えた。6番FLにフィジカルに強いアキラ・イオアネが戻り,7番にはブレイクダウンとディフェンスに長けたダルトン・パパリイではなく,フィジカルの強さが持ち味であるキャプテン代行のアーディ・サヴェアが入った。この関係で,8番NO.8には,次のキャプテン候補でもある試合ごとに著しい成長を見せているルーク・ジェイコブソンが先発する。20番のリザーブは,アルゼンチン戦でブラインドサイドFLとして目覚ましい活躍をしたイーサン・ブラカッダーが入った。

BKは,SHのTJ・ペレナラとSOボーデン・バレットのベテランによるHB団を組み,21番SHのリザーブは序列通りにブラッド・ウェバー,22番のSO兼FBのリザーブにはダミアン・マッケンジーが入った。12番CTBには,安定しているデイヴィット・ハヴィリが戻り,13番CTBは,アントン・リエナートブラウンの怪我が長引いていることもあり,リエコ・イオアネが引き続き先発する。11番WTBは中堅のジョージ・ブリッジ,14番WTBはトライゲッターのウィル・ジョーダン,15番FBにはスプリングボクスのキッキングゲームに備えて,ハイボールに強くロングキックができ,なおかつボーデン・バレットに代わってゴールキッカーを担当する可能性が高いジョルディ・バレットが入った。23番のBKリザーブでは,フィジカルの強さを発揮している新鋭クイン・ツパエアが入っている。

フォスター監督は,「スプリングボクスとの対戦は特別なものなので,チーム全員がわくわくしている」,「FWの選考には苦労した。多くの選手が好調であり,特に先週(のアルゼンチン戦で)活躍した選手が多くいたからだ」,「先発,リザーブともに良いコンビネーションとなっている」,「これまでの歴史と伝統を重んじつつ,何をなすべきかにチームは集中している」,「今回,スプリングボクスと初めて対戦する選手もいるので,この試合は大きな挑戦でもある」と述べている。

ボーデン・バレットは15回スプリングボクスと対戦,ブロディー・レタリックは12回対戦している。一方,アキラ・イオアネ,ルーク・ジェイコブソン,デイヴィット・ハヴィリ,ウィル・ジョーダン,サミソニ・タウケイアホ,イーサン・ブラカッダー,ブラッド・ウェバー,クイン・ツパエアの8人は,これがスプリングボクスとの初対戦となる(注:もっとも,スーパーラグビーレベルでは,南アフリカのチームとの対戦経験があるので,あくまでもテストマッチレベルでのものである)。

スプリングボクスは、ベテラン選手を入れたものの、ブリティッシュアンドアイリッシュ・ライオンズ戦では、ゲーム内容がFW戦とキックだけだったので、ゴールキックだけの大ベテランであるモルネ・ステインを入れることで成功したが、今回は相手が速いテンポでボールを回すオールブラックスなので、スピードと瞬時の判断力に劣るベテランを入れても、あまり影響はないように思う。そういう点では、セブンズプレヤーのクワッガ・スミスを7番に入れたのは理にかなっているが、スプリングボクスの得意とするフィジカルは劣ることになるので、むしろ自ら得意な分野を弱体化しているようにも思える。

オールブラックスは,経験値と好調さを勘案し,現時点でスプリングボクスと戦えるベストのメンバーを揃えてきた。特に,7番FLには,スピードとディフェンスのダルトン・パパリイではなく,フィジカルとアタックのアーディ・サヴェアを入れたことは,熾烈なFW戦が行われることを想定している。しかし,こうしたことが実現できるのも,ルーク・ジェイコブソンの成長が前提となっているからであり,またサヴェアは本来FLなので,ジェイコブソンのNO.8入りは,むしろ期待していたものでもあった。

オールブラックスは,FW戦を支配しないまでもイーブンに戦えれば,後はフレアーとスキルに勝るHB団が,スピード,スキル,フレアーの全てに勝る黄金BKを屈指してトライを取ることができる。さらに,そのトライの取り方自体も,理想的かつエンターテイメントなものを求められる高いレベルにあるオールブラックスとしては,その期待に応えられるだけのメンバーを揃えられたと思う。

このまま2023年RWCまで同じメンバーで行くとは限らないが,特にリエコ・イオアネは好調を維持しており,世界のBKでそのアタックを止められる者はいない。また,兄アキラ・イオアネがポイントから一人でも二人でもディフェンスを引き裂いた後に,フリーでパスをもらえれば,確実にトライを取る能力を維持している。この試合でも大いに活躍が期待される。

なお,8人のスプリングボクスとの対戦が初めてとなる選手については,特に心配していない。スーパーラグビーでの南アフリカ選手との対戦経験がある一方,要所をベテラン選手で占めているので,動揺する危険はない。むしろ,手応えのある相手との対戦で,ウィル・ジョーダンを筆頭に大活躍してくれることを期待している。

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