見出し画像

<ラグビー>ザ・ラグビーチャンピオンシップ第二週の結果

「行きます」という言葉が、CMやアニメやバラエティー番組など、いろいろなところで無意識に使われている。先日、NHKで第二次大戦の日本軍を慰問した芸能関係者についての番組が放映され、中村メイ子が子役時代に特攻隊を慰問したことを回想していた。その中で、特攻隊の人たちは、片道飛行だから「行って来ます(行って、その後帰ってきます)」とは言わずに、「行きます(死んできます)」と言っていたことを強調していた。

 このことは、私のような年寄りなら様々なメディアを通してかなり知られている事実だが、次の世代には伝わっていないのだろう、かなり軽々しく使われていると思う。例えば、キャラクターが死んでいく場面などで使うのは、もうちょっと考えても良いのではないかと思ったりする。

 もちろん、どこかの政治家やマスコミが大好きな、言葉尻だけをとらえて批判し、特定の単語を言葉狩りすることには、私は文書を書くものとして猛然と反対するのだが、歴史を踏まえていないで使うことにはやはり違和感がある。まあ、年寄りだからなのでしょうが。

1.スプリングボクス23-35オールブラックス

 オールブラックスは、史上最悪と言っても過言ではない状況にある。アウェイのアイルランドとフランスに連敗し、その後ホームでアイルランドに勝利したものの、その後連敗した。さらに、アウェイのスプリングボクスに得意のキッキングゲームを仕掛けられる一方、アタックを封じられて完敗した。さらに、危険なプレーでSOボーデン・バレットが欠場の心配をさせられ、またFBジョルディ・バレットも足首の怪我で欠場する可能性が高くなっていた。しかし、その後二人とも回復し、23人のメンバーに入っているが、完調とは言えないだろう。

 また、監督のイアン・フォスターは、オールブラックス監督史上最低の結果となっているため、特にNZ国内では非難の嵐となっている他、キャプテンのサム・ケーンも批判されている。その中で、選手たちはフォスターを擁護する一方、OBや評論家の間からは、あまりプレッシャーを与えるようなことは避けて、そっとしてあげたいという同情まで表明される有様を呈している。

 また、オールブラックスの弱点とされている、6番FLと12番CTBは、未だ最適の選手が見いだせず、誰がプレーしても結果を残せないでいる。2020年と2021年の2人間は、世代交代の絶好の期間だったが、新型コロナウィルスという大きな障害があったにせよ、結果としては世代交代及び選手育成に失敗したと言わざるを得ない。さらに、コーチング面でも、2019年RWCで露呈したアタック力の低下は、個人的才能に優れた選手が出てきているのにも関わらず、まったく向上していないのが実態だ。

 フォスター監督は、欠場が心配されたボーデン・バレットを22番のリザーブにし、先発SOにはリッチー・モウンガを起用した。問題の12番CTBにはフィジカルで負けているデイヴィット・ハヴィリを引き続き起用するので、クルセイダーズのコンビネーションに期待したのかも知れない。FBジョルディ・バレットは足首の怪我が心配されたが、15番で先発することとなったため、その他のBKに変更はない。

 FWは、1番にイーサン・デグルートを先発させ、ジョージ・バウワーが17番のリザーブになった。16番HOは活躍できなかった大ベテランのダン・コールズに代わり、ベテランのコーディ・テイラーが戻った。18番の右PRリザーブには、初キャップとなるフレッチャー・ニュウウェルが入った。課題の6番FLは、前戦で唯一のトライを挙げたシャノン・フリッゼルを先発させ、アキラ・イオアネが20番に下がった。

 巻き返しのためには、大幅な選手交代も予想されたが、「今シーズン最高のプレー」と負けた試合をコメントしたフォスター監督としては、必要最低限の交代に抑えたものとなった。そのため、オールブラックスに改善する可能性は低いとみられるほか、ボーデンとジョルディのバレット兄弟が怪我を抱えていることも加えれば、前戦より戦力低下していることが憂慮される。

 スプリングボクスのジャック・ニーナバー監督は、前週にキッキングゲームでオールブラックスを一蹴したことで、いつもの大幅なメンバーチェンジをせず、最小限のものに止めている。伝統あるホームのエリスパークで、オールブラックスに連勝しフリーダムカップを奪還するという栄光を確実なものにしたいようだ。

 怪我人は、SHファフ・デクラークとHOボンギ・ムボナンビの二人となり、それぞれ、SHの先発はジャイデン・ヘンドリクス、リザーブはハースケル・ヤンチースになり、HOは先発がジョセフ・ドウェバ、リザーブが先週のMOMマルコム・マルクスとなった。また、NO.8には、大ベテランのデュアン・ヘルミューレンが先発し、チームを引き締める。なお、オールブラックスSOボーデン・バレットに空中でタックルする非常に危険なプレーでレッドカードとなった、WTBカートリー・アレンゼは裁定委員会に諮られた結果、4試合の出場停止処分となった。この結果、14番WTBにはCTBが専門のベテランであるジェッシー・クリエルが先発する。

 ゲームはオールブラックスが先行した。4分に、12番CTBデイヴィット・ハヴィリからのキックパスを受けたNO.8アーディ・サヴェアが、左タッチライン際を快走した後のラックで、スプリングボクスFBダミアン・ウィルムゼが故意にボール出しを遅らせてシンビンになる。この後、オールブラックスは得点できなかったが、25分にSOリッチー・モウンガがPGを入れて先制する。

 続く28分、自陣からのカウンターアタックで13番CTBリエコ・イオアネと14番WTBウィル・ジョーダンがパス交換しながら右タッチライン際を大きくゲインし、最後は大外をフォローしていた7番FLサム・ケーンがトライを決めた。モウンガのコンバージョンは失敗したものの、0-8とオールブラックスはリードを拡げた。

 続く33分、オールブラックスは15人一体となった猛攻を繰り広げ、最後にHOサミソニ・タウケイアホがゴール前でタックルを受けながらうまくターンして、トライを挙げ、モウンガのコンバージョン成功で、0-15とさらにリードを拡げる。しかし、スプリングボクスも37分に、右タッチライン際をブレイクした後をサポートした13番CTBルッカンヨ・アームがトライ、SOアンドレ・ポラードのコンバージョンも決まり、7-15と迫る。前半終了間際の42分、ポラードがPGを入れて、スプリングボクスは10-15として前半を終えた。

 オールブラックスは、前週からのハイボール処理及びブレイクダウンが改善され、また、スプリングボクス7番FLピータースティフ・デュトイのインターセプトからゴール前につながれた危機を、全員が良く戻ってトライを防ぐなど、ディフェンスでも意地を見せていた。

 後半は、46分にポラードがPGを入れて、スプリングボクスは13-15と迫るが、49分と56分には、SOモウンガがPGを連続して決め、オールブラックスが13-21と再び引き離した。しかし58分に、スプリングボクスはオールブラックスのミスを突いて11番WTBマカゾレ・マピンピがトライ、ポラードのコンバージョンも成功して、20-21と1点差に迫る。

 そして、66分オールブラックスは、22番FBボーデン・バレットが、自陣のパスミスからこぼれたボールをスプリングボクスSHジェイダン・ヘンドリクスが拾う瞬間、これを邪魔するプレーをしてシンビンとなった。すぐにポラードがPGを入れて、スプリングボクスは23-21と逆転する。ノーサイドまでの約10分間に14人対15人と数的劣勢になるオールブラックスには、このまま再逆転できなければ連敗する恐れが出てきた。

 しかし74分、オールブラックスは相手陣ゴール前でFWによる猛攻を繰り返し、最後は12番CTBハヴィリがパスダミーをしながら見事にタッチダウンして、再逆転のトライを挙げた。モウンガのコンバージョンも決まり、23-28としたオールブラックスには再び勝利が見えだした。さらに79分、またもやゴール前で猛攻を繰り返したオールブラックスは、最後に5番LOスコット・バレットが相手ディフェンスの下をくぐりぬけて、勝利を決めるトライを挙げた。そしてモウンガがコンバージョンを決めて、23-35と勝負を決めた。

 オールブラックスは後半、13番CTBアームにキックカウンターからゴールラインまでカウンターアタックされる場面もあったが、TMOがスプリングボクスのオブストラクションを確認したため、トライされずに逆にモウンガがPGを入れるなど、試合の流れが変わるポイントもあった。

 こうした激しい肉弾戦を繰り広げる中、オールブラックスは、4番LOサムエル・ホワイトロックとNO.8アーディ・サヴェアを筆頭にしたFW陣の奮闘に加え、SOリッチー・モウンガがゴールキックを確実に決めた他、BK陣の好走を導くリードで、13番CTBリエコ・イオアネや14番WTBウィル・ジョーダンが快速を飛ばし、さらにラインアウトのこぼれ球をうまくフォローしたプレーが良かった12番CTBデイヴィット・ハヴィリと、ラインのつなぎ役に加え、突破役も担ったFBジョルディ・バレットが良く貢献していた。また、ハンドリングエラーが改善されたことは影響が大きく、前戦で取り損ねたトライを確実に得点したことも大きかった。さらに、ゴール前のディフェンスで反則をせずに粘り強く耐えたことも、大きく評価される。

 オールブラックスがこの試合で負けた場合は、フォスター監督の更迭確実と見られていたが、この23人の選手が激しい意地を見せた勝利で、フォスター続投という意見も出てくる可能性が残った。しかし、試合後のインタビューでは、フォスター自身は続投か否かについて「わからない」というコメントに止めている。

 オールブラックスは連敗を止めた勝利を挙げ、フリーダムカップを保持することになったが、それでも勝負の綾はたくさんあり、一歩間違えば連敗した可能性も十分にあった。そして、何よりもコーチングの良さで勝利を得たというよりは、強い危機意識を持った選手たちが、持てる力を出し切った結果だったと言える試合であった。そのため、このようなゲームを常に安定してできるわけではないオールブラックスには、まだまだ改善に向けての厳しい道のりが待っている。

 そうしたドラスティックな改善を求められるチームにとって、指導陣、なかんずく監督が続投では、思い切った改善はできず、また斬新なアイディアも出てこないだろう。来年のRWCで痛い目に合わないためには、そして長いスパンでのチーム育成を考えるならば、一刻も早い監督交代が望まれる。

2.アルゼンチン48-17ワラビーズ

 ワラビーズのNZ人監督デイヴ・レニーは、大ベテランのSOクエード・クーパーがアキレス腱断裂で長期脱落する影響を最小限に止めたいだろう。しかし、試合でのプレー以上に、彼のようなメンター(導師)の不在は、影響がかなりあるように思う。

 そのSOの先発には、予想通りジェイムズ・オコナーを入れた。リザーブにはSO専門がいないため、前戦でFBを務め、今回は23番のリザーブに入った好調のリース・ホッジがカバーするものとみられる。

 FWは数人が交代し、3番PRには、リザーブからのプレーが多いタニエラ・ツポウが珍しく先発する。また、18番PRのリザーブに入ったポーン・ファウマウシリはワラビーズの初キャップとなる。4番LOにはベテランのロリー・アーノルドが戻ってきた。キャプテンは、マイケル・フーパーが帰国したため、1番PRジェイムズ・スリッパ―が務める。

 試合直前にHOフォラウ・ファインガアが怪我でメンバー外となった。16番のラクラン・ロナーガンが2番で先発し、16番には初キャップとなるビリー・ポラードが入った。

 アルゼンチンのオーストラリア人監督マイケル・チェイカは、先週の終盤に逆転されたゲームから、どれくらい改善できたのかを証明したい。

 大きな選手交代はないが、いつものローテーションをしている。11番WTBにユアン・インホフを入れたため、ゴールキッカーのエミリアーノ・ボッフェリが14番に移動した。SHはトマス・クベーリとゴンザロ・ベルトラノーで先発とリザーブを入れ替えた。FWでは、1番PRにトマス・ガロが入り、リザーブには、17番PRナフエルテタズ・シャパーロ、19番LOファクンド・イーサ、そしてBKのリザーブとして23番ルキオ・チンチが入っている。SOのリザーブがいないため、12番CTBへロニモ・デラフエンテがカバーする。

 試合は、キックオフ早々からアルゼンチンが攻勢を続けた。2分、11番WTBフアン・インホフがトライ、14番WTBエミリアーノ・ボッフェリのコンバージョン成功で、7-0と先制し、続く6分には、1番PRトマス・ガロが力強いトライを挙げ、ボッフェリのコンバージョン成功で、14-0とする。ワラビーズも、12分に1番PRジェイムズ・スリッパ―がスキルあるトライを挙げ、SOジェイムズ・オコナーのコンバージョン成功で、14-7と迫る。さらに17分には、オコナーがPGを決めて、14-10と4点差にした。

 しかし24分、アルゼンチンは、12番CTBヘロニモ・デラフエンテがチェンジオブペースの個人技で抜くトライを挙げ、ボッフェリがコンバージョンを決めて、21-10と引き離す。さらに31分には、ワラビーズのハイボール処理ミスを突いて、6番FLフアンマルティン・ゴンザレスがトライ、ボッフェリのコンバージョンは失敗したものの、26-10と大きくリードして前半を終えた。

 後半も、54分にボッフェリがPGを入れて29-10とアルゼンチンがリードを拡げた後、57分にSOサンチャゴ・カレーラスがDGを失敗したが、64分には、1番PRガロが二つ目のトライを挙げ、ボッフェリのコンバージョン成功で、36-10と大きくリードした。また64分には、ワラビーズ7番FLフレイザー・マクライトが、チームの反則繰り返しでシンビンとなり、ワラビーズは数的にも劣勢となった。

 67分、ワラビーズは13番CTBレン・イキタウがトライを挙げ、オコナーのコンバージョン成功で、36-17といったんは反撃を見せたが、78分に、アルゼンチン14番WTBボッフェリアがトライ&コンバージョン成功で加点し、さらに、82分には22番CTBトマス・アルボルノズがトライ、ボッフェリのコンバージョン成功で、48-17と大きくリードして大勝を締めくくった。

 前週のアルゼンチンは、後半最後にワラビーズに逆転されたが、今回は試合開始からリードし、最後まで得点を重ねて完勝した。前週と今週を比べれば、アルゼンチンの進化は目覚ましものがある一方、ワラビーズは、ベテランSOクエード・クーパーと、チームの精神的支柱であるキャプテン兼FLのマイケル・フーパーを欠いたことで、実力が大幅に低下してしまった。

 アルゼンチンのマイケル・チェイカ監督は、この勝利で自信を深めた一方、ワラビーズのデイヴ・レニー監督としては、クーパーとフーパーの大黒柱2人を欠いたチームを、どう立て直すかの手腕を問われることになる。

 来週は移動日のため試合はなく、第三週はオーストラリア及びNZがホームとなり、オーストラリアは南アフリカと、NZはアルゼンチンと対戦する。二週までの結果から見れば、オーストラリアは南アフリカに連敗必至、一方チーム立て直しに向かいつつあるNZは、アルゼンチンに連勝できると思われる。しかし、これら4チームの実力差はかなり小さいため、些細なミスやレフェリングの綾などで、勝負が決まる可能性が高い。チームの安定性からは、南アフリカが引き続き優勝に一番近いと思われるが、1勝1敗で終えた残る3チームにも優勝するチャンスはまだまだ十分残されている。また、オールブラックスの監督人事が注目される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?