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<ラグビー>日本対オールブラックス、スコットランド対オーストラリア、女子RWC準々決勝の結果から

(どうでもよい「話の枕」です。関心ない方は飛ばしてお読みください。)
 朝ドラの舞台が、東大阪市という花園ラグビー場と近鉄のホームということから、あちこちにラグビーが画面に出てくる。ラグビーファンとしては、とても嬉しいことです。また、主人公の幼馴染の「久留美ちゃん」(後に主人公の舞ちゃんも)がアルバイトしている喫茶店は、「ノーサイド」という名前で、店員は皆ラグビージャージ(黄色と黒の段柄なので、慶應に似たデザイン)という素晴らしさ!
 
 ただ、「久留美ちゃん」のお父さんが、怪我でラグビーを辞めてからなかなか仕事が見つからず、夜間の警備員をしているという設定は、警備員を馬鹿にするつもりはないものの、逆にラグビー選手を貶めているような感じがして、ちょっといい気持ちはしない。怪我しても社員として会社に残って、駅員とか工場で働くとか、もっと違う設定ができたように思うけどね・・・。

1.日本31-38オールブラックス

 オールブラックスは、来年のRWC直前の8月25日に、トウィッケナムで南アフリカと対戦することが決まるなど、既にチームはRWCに向けた準備が確実に進んでいる。そして、今回の日本戦から始まる北半球遠征は、RWCのシミュレーションとなる重要なものなので、この日本戦は観光気分ではできない試合だ。

 オールブラックスのディフェンス担当をしているスコット・マクロード(元東芝及びハイランダーズCTB)によれば、日本が得意としている空いたスペースにスピードとスキルでアタックすることを警戒している。また、もしそれが出来ない場合でもキックを有効に使ったり、カウンターアタックをするなど、トニー・ブラウン(元三洋及びハイランダーズSO)が考えたアタックに対応していきたい。また、試合間隔が空いた選手たちのキャッチアップも課題になる等と述べている。

 LOの中心となるブロディー・レタリックは、サムエル・ホワイトロックとスコット・バレットの2人が不在となる中、自分に加えてツポウ・ヴァアイ、パトリック・ツイプロツの責任が増すことを自覚している。特にセットプレーを筆頭にした、FWの各種プレーについて、オークランドで圧勝したワラビーズ戦のようなプレーができるようにしたいとしている。(注:ホワイトロックは、その後耳が原因となっためまいが完治したため、水曜に日本へ向けて出発した。もともと日本でプレーした経歴があるので、スコッド入りの可能性を残したが、結局メンバー外となった。)

 なお、WTBのレスター・ファインガアヌクが、家庭の事情(おそらく家族の不幸)のため、日本からNZに一時帰国した。早期に復帰できると思われるが、代わりの選手としてマーク・テレアを招集した。(これらの追加招集は、オールブラックスXVからされているところ、オールブラックスXVのスコッド変更については、以下<参考>に記載。)

 またすでに、ボーデン・バレット、ジョルディ・バレット、ウィル・ジョーダンらは遠征に遅れて参加する他、ファラウ・ファカタヴァは、怪我の状態からスコッドを離脱すると見られている。

 木曜日、オールブラックス監督イアン・フォスター、アシスタントコーチのジョー・シュミットとジェイソン・ライアンは、様々な事情で7人の選手がスコッドから外れている中、オールブラックスXVからの補充を受けて、23人のメンバーを決めた。

 決してBチームとは言えない戦力が揃っており、まったく日本を侮っていないことがわかる。怪我で欠場が予想されていたダン・コールズは、プレー可能となりHOで先発する(注:その後、試合直前に怪我で離脱)。出場機会の少ないホスキンス・ソツツがNO.8でのプレー機会を得た。

 BKでは、フィンレイ・クリスティーがSHとして先発し、ダニエル・カーターと並ぶ112キャップになるアーロン・スミスがリザーブに下がった。12番CTBに待ちに待ったロジャー・ツイヴァサシェックが先発し、ようやく能力を発揮できる機会を得た。同様に、本来はSOながら、FBとして新鋭のスティーヴン・ペロフェタが先発する。SOのリッチー・モウンガとともに、ボーデン・バレットの代わりとして「ダブルSO」のアタックに貢献するだろう。

 長く怪我で欠場していたCTBアントン・リエナートブラウンが23番で復帰した。おそらく、久々の先発となる13番CTBブライドン・エンノーと後半に交代するものと予想される。また、SOのリザーブを入れていないが、22番のデイヴィット・ハヴィリが後半FBに入り、モウンガが下がってFBのペロフェタがSOに上がると見られる。

<参考>オールブラックスXVのスコッド変更について

(1)オールブラックスへ招集された選手(上記参照)や怪我でプレーできない選手がいるため、オールブラックスXVは、追加選手及び怪我でプレーできない選手のリストを発表した。

追加招集:HOタイロン・トンプソン、PRポーリ・ラカテストーン、テヴィタ・マフィレオ、SHコルテツ・ラティマ、SOジョシュ・イオアネ
怪我で離脱:HOジョージ・ベル、PRオリー・ヤーガー、アンガス・タアアヴォ、SOブリン・ゲイトランド

 この結果、オールブラクスXVのSOはジョシュ・イオアネのみとなったので、アイルランドA及びバーバリアンズとの対戦では、イオアネが先発となる。なお、FBをプレーするルーベン・ラヴは、SOもプレーできるので、FB兼SO(つまり、オールブラックスのボーデン・バレットやダミアン・マッケンジーと同じ)でメンバー入りすると思われる。

(2)10月27日付け、「all blacks com.」に掲載されていた、オールブラックスXVについての新たな説明(原文及びグーグル翻訳を元にした仮和訳)。
About All Blacks XV:
The All Blacks XV was launched as New Zealand Rugby’s next senior national representative team after the All Blacks, as a critical high-performance pathway to the All Blacks. As the next senior national representative side, the All Blacks XV will have the same high expectations as the other Teams in Black.
The All Blacks XV follows in the footsteps of similar teams which have assembled throughout New Zealand rugby's history, including the Junior All Blacks, New Zealand A and Emerging Players.
オールブラックスXV について:
オールブラックスXV は、オールブラックスへの重要なハイパフォーマンスの道筋として、オールブラックスに続くニュージーランドラグビーの次のシニア代表チームとして発足しました。次のシニア代表チームとして、オールブラックスXVには他のオールブラックスの名が付くチームと同じように大きな期待を寄せています。オールブラックスXV は、ジュニアオールブラックス、ニュージーランドA、エマージングプレーヤーズ(新たに見いだされた選手たち)など、ニュージーランドラグビーの歴史を通じて結成されてきた同様のチームの足跡をたどっています。

 ここにマオリオールブラックス(少し前の名称はNZマオリ)への言及はない。というか敢えてしていない。理由は、先の考察に挙げたとおり、背景に民族問題・政治的問題が絡んでいるからだと推測している。

 簡単に言えば、NZを代表するラグビーチームとしてはオールブラックスだが、マオリを代表するチームとしてマオリオールブラックスがある。そして、NZ人とは何かと問えば、先住民としてのマオリが「正統な」NZ人であるとみなせるので、オールブラックスもマオリが正式のNZ代表となってしまうが、現状は、ヨーロッパや南太平洋などから来た人たちによる多民族国家としてNZ人が成立しているので、このコンテキストからはオールブラックスが「正当な」代表となる。しかし実際は、オールブラックスXV相当のチームが毎年結成されていないこと、マオリはオールブラックス同様に毎年結成されること、マオリのトップ選手はオールブラックスに選ばれ、オールブラックスに入れなかった次の選手がマオリに入ること等を総合的に勘案すれば、オールブラックス>マオリオールブラックスという図式がこれまでに成立している。

 日本のジェイミー・ジョセフ監督にとっては、元東芝にいたスコット・マクロードがオールブラックスのディフェンスコーチをしている上に、ハイランダーズでトニー・ブラウンとともにコーチをしていたため、ブラウンの考えるアタックの特性を知っていることから、かなりやりにくい相手になる。しかし、オーストラリアAに苦戦したが、いずれも惜敗・辛勝だっただけに、ここで勝つのは難しくとも、オーストラリアA戦のような接戦に持ち込んで、チームに勢いを付けたい。

 先発15人は、ほぼ現在のベストメンバーと思われる。特に3番PRに具智元が戻ったのは心強い。さらに、6番FLマイケル・リーチ、7番FL姫野和樹、NO.8テヴィタ・タタフの3列は、リーチと姫野がスーパーラグビーの経験もあるため、オールブラックスにも十分通用するだろう。

 SOは、才能あふれる山沢拓也が先発する。オーストラリアAでもディフェンスの弱い李承信に比べて攻守に安定したプレーをし、第3戦の勝利に大きく貢献していた。現在松田力也が怪我で欠場していることと併せ、RWCでは山沢先発、松田リザーブとなることを期待したい。

 リザーブ19番に入ったLO兼FLの下川甲嗣は、オーストラリアA戦でプレーしたが、今回がプレーすれば初キャップとなる。ワークレートの高い選手なので、フィジカルでは外国人選手に見劣りするものの、チームに必要な選手に成長しそうだ。

 試合当日、オールブラックスの2番HOダン・コールズが試合前練習で怪我により欠場し、16番のサミソニ・タウケイアホが2番に入り、16番にはコーディ・テイラーが入った。

 満員の観客の中、伝統のハカ。ハカは、もともと海外遠征時にのみやっていたので、この日本戦で行うのは自然なことだ。アーロン・スミスがリードし、キャプテンのサム・ケーンが先頭に立つ。左手にコーディ・テイラー、右手にアントン・リエナートブラウン。いつもなら、リエコ・イオアネとかダン・コールズあたりが左右に控えるので、ちょっと寂しい感じがする。なお、メンバー外になっているボーデン・バレットが、ウォーターボーイをしていた。こういう経験が将来の指導者として生きてくるだろう。

10分まで、日本がよくディフェンスしており、セットプレーでも負けていない。キックを多用して、オールブラックスに対して、容易にアンストラクチャーの得点チャンスを与えない。
11分、オールブラックスが、中央40mラックから右展開。SHフィンレイ・クリスティー→6番FLシャノン・フリッゼル→HOサミソニ・タウケイアホで大きくラインブレイク。そこをサポートした4番LOブロディー・レタリックが右中間にトライ。SOリッチー・モウンガのコンバージョン成功で、0-7。
17分、日本SO山沢拓也がPG、3-7。

22分、オールブラックスが、SOモウンガのキックパスから13番CTBブライドン・エンノーが中央インゴールに入るが、日本14番WTB松島幸太朗がタッチダウンさせずに、トライセービングタックル。
25分、オールブラックスが、中央ゴール前7mラックから左展開。SHクリスティー→6番FLフリッゼル→SOモウンガ→12番CTBロジャー・ツイヴァサシェック→FBスティーヴン・ペロフェタ→NO.8ホスキンス・ソツツ→13番CTBエンノーとつないで、左中間に入る。モウンガからツイヴァサシェックへのパスがスローフォワードではないかとTMOになったが、問題なくトライ。モウンガのコンバージョン成功で、3-14。この日のオールブラックスでは一番良いトライだった。
31分、オールブラックスが、右50mラインアウトからロングスロー。これを取った12番CTBツイヴァサシェックが、内に走りこんできた14番WTBセヴ・リースにパスして、そのまま中央にトライ。モウンガのコンバージョン成功で、3-21。スカパーのTV解説で言っていたが、このプレーは、昔早稲田大学がラインアウトの不利をカバーするために、よくやっていたもの。
36分、日本が、自陣のターンオーバーから、SO山沢がオールブラックス陣内にショートキック。これをFBペロフェタ及び13番CTBエンノーが連続して処理ミスをし、これをさらにキックした山沢が右中間にトライ。山沢のコンバージョン成功で、10-21。多分にラッキーな要素があったトライであり、ペロフェタとエンノーが正確にボール処理していればできなかったトライ。
39分、日本が、相手選手にあたったキックをSO山沢が左につないでカウンター。FB山中亮平→12番CTB中村亮土→13番CTBディラン・ライリーとつないで、ライリーが左タッチライン際をラインブレイク。これを内からサポートした9番SH流大が左中間にトライ。オールブラックスSHクリスティーのバッキングアップのミスもあったが、相手のスキを突いた良いトライだった。山沢のコンバージョン成功で、17-21。

前半、日本17(2T2C1P)-オールブラックス21(3T3C)。
1987年のオールブラックスが日本代表と初めて対戦した2試合は、NZから衛星中継で見ていたけど、その当時と比べれば、雲泥の差というか飛躍的に日本が強くなったと実感する内容。そして、後半何分まで僅差でついていかれるかに注目したい。

41分、オールブラックスが、中央25mラックから左展開。12番CTBツイヴァサシェックから11番WTBケイリブ・クラークにパスが通って、左中間にトライ。SOモウンガのコンバージョン成功で、17-28。ツイヴァサシェックのパススキルとクラークの強さが生かされたトライ。
54分、日本がゴール前に攻め込まれるが、中央ゴール前5mラックで、7番FL姫野和樹が値千金となるターンオーバーをして、PKを勝ち取る。オールブラックスは、ここでトライを取れなかったことが、後々まで影響してしまった。
56分、日本が、左中間45mラックから、オールブラックスSHクリスティーがボックスキックをしたところ、これを4番LOワーナー・ディアンズがチャージし、そのままキャッチして走り切り、左中間にトライ。22番SO李承信のコンバージョン成功で、24-28。これは、後々まで語り継がれる素晴らしいトライ。ディアンズは期待以上に成長している!

60分、オールブラックスが、ゴール前ラックから右に持ち出し、NO.8ホスキンス・ソツツが右中間にトライ。モウンガのコンバージョン成功で、24-35。
この後、6番FLシャノン・フリッゼルと19番LOパトリック・ツイプロツが交代。この結果、5番LOツポウ・ヴァアイが6番FLに入り、ツイプロツが5番LOに入った。
65分、オールブラックス4番LOブロディー・レタリックが、マイボールのラックから日本7番FL姫野和樹を排除しようとして危険なプレー。TMOとなりレッドカード。シンビンでも良いと思ったが、ジョージア人のレフェリーがレッドを主張したのに対して、アシスタントレフェリー2人及びTMOは反対しなかった。
75分、オールブラックスは、FWが一人足りないものの、自陣ゴール前のスクラムでPKを得るなど、数的不利を克服している。
78分、日本が、左中間ゴール前ラックから左に持ち出し、7番FL姫野が左中間インゴールに入る。TMOでノッコンの有無が確認されたが、問題なくトライ。SO李のコンバージョン成功で、31-35。これで4点差となり、日本に少しだけ勝利の可能性が見えてきた。
81分、オールブラックスが、日本陣中央ゴール前30mでPKを得て、モウンガがPG。31-38。もし点差が離れていれば、ここからトライを取りにいったのだろうが、さすがにそれはできなかった。日本が大健闘したことの証明となった。

後半、日本14(2T2C)-オールブラックス17(2T2C1P)。
合計、日本31(4T4C1P)-オールブラックス38(5T5C1P)。

 NZの論評では、またしても今年のダメなオールブラックスが出てしまったということだが、メンバーを落としていることやザラグビーチャンピオンシップが終わった後のチーム再結成初戦であることから、ある程度の苦戦は予想できた。そもそも、今の日本はかなり強くなっている上に、かつてのようにオールブラックスが前日の夜に六本木で大酒飲んでいても、試合になればやすやすとトライを量産できる相手ではなくなっている。

 さらに日本には、ジェイミー・ジョセフ、トニー・ブラウン、ジョン・ミッチェルとオールブラックスを良く知るコーチが揃っているのだから、やり辛くて当然だと思う。むしろ、エディ・ジョーンズのようなオールブラックスの内部を全く知らない部外者の方が、オールブラックスとしてはやりやすかっただろう。実際、今年負けたアルゼンチンには、グラハム・ヘンリーが数年前に助言していた経緯があった。

 だからオールブラックスとしては、これからのヨーロッパ遠征に際して、日本との苦戦を嘆く必要はないし、ここでロジャー・ツイヴァサシェックなどが活躍したことを喜ぶと同時に、悪かった点を分析して修正すれば良い。また、レタリックがレッドカードとなったため、残り試合でのプレーが厳しくなった。ただし、スコット・バレットが戻ってくるので、問題にはならないだろう。一方、ツイプロツはこのままオールブラックスに残るだろうから、オールブラックスXVには、クインティン・ストレンジ、マナアキ・セルビーリキット、ナイトア・アークオイのうち誰か一人を追加招集することになると思う。

 惜しくも勝てなかった日本は、この試合内容から見て、ザラグビーチャンピオンシップに参加する資格を得たように思う。オールブラックス相手にホームでこの試合ができるのであれば、南アフリカ、オーストラリア、アルゼンチンとも同じようなゲームができるはずだ。実際、2019年RWC準々決勝で南アフリカに完敗したとはいえ、大敗しなかったのだから、ミスマッチにはならなかった。今後もこうしたことを継続できるのであれば、日本はティア1だと自認してよいと思う。

(追記)
 オールブラックスは、HOダン・コールズ(ふくらはぎ)、FLサム・ケーン(鎖骨)の怪我により、両名がスコッドから離脱することを発表した。HOは既に追加招集しているアサフォ・アウムアが残り、FLには新たにビリー・ハーモンを追加招集した。ハーモンが抜けたオールブラックスXVのFLには、ハリケーンズで活躍したケイリブ・デラニーが追加招集の候補になると思う。

 なお、ケーン脱落によりキャプテン代行を指名する必要があるが、現時点では決まっていない。これまでの経緯からは、LOサムエル・ホワイトロックが第一候補となり、次がFL/NO.8のアーディ・サヴェアになるので、どちらかが指名されるだろう。

2.スコットランド15-16オーストラリア

 オーストラリア・ワラビーズのデイヴ・レニー監督は、前キャプテンのFLマイケル・フーパーが、メンタル問題などで3ヶ月間代表から離れていたところ、今回のヨーロッパ遠征から復帰したため、すぐに試合メンバーに入れた。一方キャプテンは、引き続きPRジェイムズ・スリッパーが務める。また、リザーブ23番に入ったジョク・キャンベルは、これがワラビーズのデビュー戦となる。

 ワラビーズは、昨年エディンバラでスコットランドに13-15で敗れ、連勝を5試合でストップさせられた苦い経緯があるので、今回はそのリベンジとなる。そのため、SOの先発には大ベテランのバーナード・フォリーを継続して起用し、NZ人のノア・ロレシオを22番のリザーブにした。とはいえ、2023年のRWCでは、年齢からフィットネスに心配のあるフォリーやクエード・クーパーではなく、ロレシオ先発になるのではないか。

 スコットランドのグレガー・タウンゼント監督は、スコットランドNO.1のSOと誰もが認めるフィン・ラッセルが、代表でのプレーを希望していないことから除外する決断をした。この問題については、多方面から様々な憶測が出ているが、正確な理由はわかっていない。しかし、来年のRWCに向けて、SOというチームの要でプレーする選手との問題が生じていることは、チーム作りに大きく影響するものと見られる。

 ラッセルに次ぐSOとして、今回はブレアー・キングホーンを先発させるが、若いアダム・ヘイスティングス(NZ人の元スコットランド代表ギャビン・ヘイスティングスの息子)、ロス・トンプソンらも期待される先発候補となっている。しかし、アダム・ヘイスティングの他、クリス・ハリス、ジョシュ・ベイリス、スチュアート・ホッグは、スコットランド国外のクラブでプレーしているため、代表セレクションの対象外となった(また、クラブが代表選手をリリースする国際試合月間から外れることも関係した)。こうしたことから今回のスコットランド代表は、エディンバラとグラスゴー所属選手から構成されている。

 SOにはブレアー・キングホーンが先発し、ロス・トンプソンがリザーブ22番に入った。ホッグが担っていたキャプテンも、6番FLジェイミー・リッチーが初めて務める。また、20番のリザーブに入ったジャック・デンプシーは、2017~19年RWCまでワラビーズのメンバーとしてプレーしていたが、その後NSWワラタースからグラスゴー・ウォリアーズに移籍してプレーしているが、母方の祖父がスコットランド人であるため、新たなWRの規定によりスコットランド代表資格を得て、今回スコットランド代表のメンバー入りを果たした。

<参考「外国人選手?」>
 日本代表が「外国人ばかり」と揶揄されることがあるが、このスコットランドにも名前だけで南アフリカ人だとわかる選手がいる。1番PRピエール・スクーマン、11番WTBデューハン・ファンデルメルヴァ、18番PRのWR・ネルであり、12番CTBのシオネ・ツイプロツは、名前は南太平洋系だがオーストラリア人で、祖母がスコットランド人であるところから、スコットランド代表になっている。また、今回デビューするジャック・デンプシーもオーストラリア人だ。もっと細かく言えば、イングランド、ウェールズ、アイルランド、スコットランドの4チームには、それぞれ他地域出身の選手がお互いに混交し合っている。もちろん、旧植民地からの移民も含んでいるので、そもそも「外国人」という概念が意味をなしていない。政治の世界は別として、スポーツの世界では国籍とか「何人」とかいうのは、どうでもよいことではないか。

 試合は、オーストラリアがかろうじてテストマッチ3連敗を止めた結果となった。前半はスコットランド5-6オーストラリアと拮抗し、後半61分にキャプテンである1番PRジェイムズ・スリッパーが、オーストラリアの唯一のトライ(SOバーナード・フォリーがコンバージョン)を挙げて15-13と迫るまでは、スコットランド15-6オーストラリアと劣勢だった。

 しかし57分に、スコットランドの19番LOグレン・ヤングが、ラックでの相手選手への排除(クリーンアウト)が危険なプレーと判断され、シンビンになってから流れが変わった。このシンビンは厳しすぎるという意見がある一方、日本戦のオールブラックスのブロディー・レタリックについても、レッドカードではなくシンビンで良いのではないかと思っている。危険なプレーの防止は重要だが、カードの乱発はゲームをスポイルするので慎重になりすぎることはないと思う。

 ゲームは、71分にフォリーがPGを加えて15-16とオーストラリアが逆転し、80分にスコットランドのSOブレアー・キングホーンが逆転勝利のPGを狙ったが、惜しくも外れてオーストラリアの辛勝となった。スコットランドは、SO先発に抜擢されたキングホーンがトライを挙げる活躍をした他、FBオリー・スミスも良いトライをするなど、BKは活躍したが、FWで劣勢を強いられた。

 勝ったオーストラリアは、復帰した7番FLマイケル・フーパーが活躍した等、FWが優勢で、そこから得たPGをフォリーが決めたことが勝因となった。しかし、監督のデイヴ・レニーは、トライ数で1対2と負けていることを含めて試合内容には満足しておらず、勝てたことだけが良かったと言える。来週のフランスとの対戦では、このようなチーム状態ではかなりの苦戦が予想される。

3.女子RWC準々決勝

(1)フランス39-3イタリア
 
 前半は、10-3とイタリアが善戦したが、後半にシンビンが2枚でるなどして、フィジカルに勝るフランスに圧倒された。フランスの5トライのうち3トライのハットトリックを達成した14番WTBジョアンナ・グリセツは、スピードとフィジカルを併せ持った決定力のあるWTBで、準決勝で対戦するブラックファーンズには要注意だろう。

 なお、MOMは、FBのエミリー・ブラールで、WTBグリセツへのトライアシストとなる良いパスを連発した他、キックカウンターでも貢献していた。

(2)NZブラックファーンズ55-3ウェールズ

 ウェールズが、大敗したプールマッチから大きく修正してくる可能性もあったが、終わってみればブラックファーンズが9トライを挙げて再び圧勝した。特に、今大会の現時点でトライ王(7トライ)及び得点王(35得点)となっている14番WTBポーシャ・ウッドマンは、この日も2トライを挙げた他、トライにつながる鋭いランニングを見せていた。

 MOMは、トライにつながる良いパスを連発した12番CTBテレサ・フィッツパトリックだが、13番CTBステイシー・フルーラーもリンクプレヤーとして貢献していた。また、大ベテランのSHケンドラ・コックセッジは、この日もラグビー偏差値のかなり高いプレーを見せていた。ブラックファーンズが優勝したら、大会MVPはコックセッジ、トライ王及び得点王はウッドマンになるのではないか。

(3)イングランド41-5オーストラリア・ワラルーズ

 力相撲のイングランドに対して、技とスピードのオーストラリア・ワラルーズの対戦。ブラックファーンズとしても、準決勝のフランス(そして、勝ち進めば決勝でのイングランド)との対戦に備えて、参考になるゲームだろう。イングランドは、現在28連勝中。止められるのはブラックファーンズしかなさそうだ。

 激しい雨が降り、グランドから水しぶきが上がる、オーストラリアが得意とするランニングラグビーには最悪のコンディションだが、イングランドが得意とするキックとFW戦には最適の条件。そして、天候まで味方につけたイングランドが、オーストラリアに何もさせずに29連勝を達成した。

 イングランドが記録した7トライのうち、モールから直接取ったのが2回、モールから持ち出したのが1回あり、さらにスクラムトライも記録している。この恩恵を受けたのがFLマーリー・パッカーで、ハットトリックを達成し、MOMを得た。

 ただし、両チームともにシンビンを受けており、豪雨という悪条件もあって、反則が多くなった。その中でオーストラリアがミスなくパスをつないでとったトライは、ラグビーらしい良いものである他、イングランドに対して有効なアタックを実証したものだと思う。こういうプレーをブラックファーンズが連発すれば、イングランドに勝てるだろう。

(4)カナダ32-11アメリカ

 プールマッチの再戦。そして、力相撲同士では結果は簡単に変わらない。準々決勝で最もラグビーとして内容のない試合となった。

 これも同様の豪雨の中で、しかも第二試合という悪コンディションが重なった。しかし、両チームともにパスやランニングよりは、キックとFW戦が得意なチームなので、どちらも条件に有利不利はない。その中で、プールマッチ同様にカナダが実力で押し切り、準決勝でイングランドと対戦する権利を勝ち取った。イングランドは、カナダのようなプレーを数倍強化したチームなので、カナダが勝つのは、今回アメリカがカナダに勝てなかったのと同様に厳しいものとなるだろう。

 力相撲を挑んで負けたアメリカは、前半を12-8と4点差で終えたが、シンビンを出したことも影響し、後半に得点を引き離されていき、プールマッチの敗戦からの逆転はできなかった。

 MOMは、カナダ7番FLのカレン・ペイクイン。FWがMOMになるくらいだから、FW戦に徹したことが良くわかる。そして、それはラグビーの理想からは遠い。

(5)準決勝の組み合わせ

準決勝第一試合
イングランド対カナダ
同じようなフィジカル中心のチームなので、イングランド有利は動かない。

準決勝第二試合
NZブラックファーンズ対フランス
勢いに乗るブラックファーンズが、昨秋のリベンジを果たす!

 今回の大会は、TV中継が日本戦以外はないのがとても残念だったが、11月12日の決勝をスカパーが生中継してくれることになった。全試合とはいわないが、ベスト8以降の3位決定戦を含めた最低8試合は放映して欲しかった。男子と比べて放映権料は安いだろうし、ブラックファーンズのラグビーは、オールブラックスに負けない高度にエンターテイメントなものなので、放映する価値は十分にあると思う。また、日本の女子ラグビーの強化・発展・普及にも直結するので、次回大会での実現をぜひ期待したい。

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