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<閑話休題>個人的なCM批評(1999年当時のもの)

1.BA(ブリティッシュエアウェイズ、英国航空)の1999年5月頃に流れたCMは、良くできている。

 小学生が椅子取りゲームをしている。
 最初に、椅子に座れずに状況を達観して見ている男の子に「philosopher(哲学者)」というテロップが出る。続いて、ひとつの椅子を奪い合いしたあげく、相手をどかして座る男の子に「sportsman(運動選手)」、座れない自分を気取って見せている女の子に「actress(女優)」、それらの光景を、やれやれという風に見ている男の子が「critic(批評家)」、「すわれ!」の合図が来るまでの間、椅子ひとつひとつに手を付けて回り、確実に座れるようにしている男の子に「banker(銀行家)」、自分が座れないことを猛烈に怒りまくっている男の子が「managing director(経営者、社長)」、最後に、既に座っていた女の子が「クスッ」と笑って、椅子をくだんの社長にゆずるシーンが映り、そこに「cabin crew(客室乗務員)」というテロップが出るのが、オチでした。

2.1999年に流れた、オーストラリアのFoster’s beer(フォスタービール会社)の「How to speak Australian(オーストラリア英語の話し方)」シリーズには、秀逸なものがたくさんあった。

(1)ある場末の酒場で、TVから遠いところに座った客が、TV近くにいる別の客に向かって、ブーメランを投げる。ブーメランを当てられた客は、何事もなかったようにTVのチャンネルをAFL(オーストラリア式フットボールリーグ。オーストラリアのメルボルンを中心に人気のあるスポーツ)の中継に変える。そこで、オーストラリア独特のアクセントで、「リモートコントロール(無線操作)」と説明する。

(2)いかにも田舎臭い安っぽいホテルのベッドで、不潔そうな、見るからに「オージー(オーストラリア人の愛称)」というオヤジが、TVを見ている。そこへ突然、ドアを激しくノックする音が聞こえる。オヤジは、大股でノッシノッシと歩いていき、ドアを開ける。すると、白いエプロンをした腕の太いコックが、生きた鶏を大きな包丁とともに差し出す。オヤジは、「Thanks Mate !(ありがとさん!)」と言って、そのまま受け取る。そこで、オーストラリア英語のアクセントで、「ルームサービス(部屋への食事提供)」と説明する。

(3)また同じような安っぽいホテルで、さっきと同じオヤジがベッドで気持ちよさそうに寝ている。どうやら朝らしい。そこへ、部屋のサッシしかない窓の外に、ホテルの人間がずかずかと歩いてきて、サッシの隙間を開けて、そこから丸い大きな目覚まし時計を、オヤジの頭めがけて「オイ!」と叫んで投げつける。ガツン!と目覚まし時計を当てられたオヤジは、痛がりもせずに目覚まし時計を見て目を覚ます。またしてもオーストラリア英語のアクセントで、「ウェイクアップコール(目覚ましの声)」と説明する。

(4)オーストラリアの田舎風な木造家屋。突然、そこのドアが激しく吹っ飛んで、男が投げ出されてきた。続いてすぐに、ドアがあった場所に、若くいかにも気の強そうな美人が出てきて、道に倒れている男をにらみつける。そこでオーストラリア英語のアクセントで、「ノー!(嫌や!)」。

 以上は、自分たちオーストラリア人が、英国本土の国民から馬鹿にされている田舎者という粗暴さを、逆に自分たちで笑い飛ばしていることが、実に爽快なジョークとなっていることに感心した。

3.DHL(国際クーリエサービス⦅信書運搬⦆会社)の、1999年頃に流れたCM

 1492年、今まさにコロンブスが新大陸に上陸しようとしている瞬間である。壮大な音楽が流れる中、感動のあまりコロンブスは海岸の砂浜に跪き、神に感謝の祈りを捧げている。すると、突然遠くから20世紀の運送屋の格好をした人間がやってくる。おや、自分たちの他に新大陸にいるヨーロッパ人はいないはずだが・・・。しかし、その運送屋はずけずけとコロンブスのところにやってきて、とても自然に言う「ミスターコロンブス、あなたをずっとお待ちしておりました!ここにサインをお願いします」。コロンブスは、いぶかしげにサインをして箱を受け取り、他の船員たちはその箱を開ける。中にあるどうやら最新式の船外機らしい品物を不思議そうに見ている(帆船の時代に船外機!)。

 つまりDHLは、コロンブスの新大陸発見よりもずっと早く品物を確実に届けているということの、少し大げさな宣伝でした。

4.1999年中頃の、LEEジーンズのCM

(1)純情青年篇
 あるコーヒーショップのこと。コーヒー一杯50セントの貼り紙がある。髪の長い繊細そうな青年が、何杯もコーヒーをお代わりする。その度に、LEEジーンズをはいたお尻とシャツから出たお腹が可愛い女性がサービスをしに来る。空いたカップを下げるときに、ふとお互いの手が触れたりする。青年は何杯もお代わりをし続けて、とうとう閉店時間になる。店のくだんの女性が青年に聞く「Anything else ?(他にご注文は?)」。青年はノーと言った後、すぐにイエスと言い換えて、しどろもどろにぶつぶつ言った最後に、「よろしかったら、コーヒーを飲みながら話をしませんか?」と聞く。一瞬「しまった!」と頭をかく。それを聞いた女性は、ニコッと笑って返事した。

(2)待ち伏せ女篇
 あるコインランドリーで。LEEジーンズをはいた若い女性が、時間を気にしながら必死に両替機に1ドル紙幣を入れて小銭を出している。そしてついに、両替機の小銭が切れて両替不能のランプが灯る。ちょうどそこへ、エレベーターから降りてきたLEEジーンズをはいた好青年が、いつもの決まった時間にやってくる。青年はいつもどおりに両替機に向かうが、両替不能の赤ランプを見て困惑する。ふと見ると、店の隅にある椅子に、足元に大きなカバンを置いたさっきの両替していた女性が、なにげなく雑誌を読んでいるのが目に入った。青年はその女性に向かっていき、「すいませんが、小銭と替えてくれませんか?」と聞く。女性は「やった!」という満面の笑顔とともに、「どうぞ!」と言って足元の小銭がぎっしりとつまったカバンを、足で差し出した。

 純情青年や待ち伏せ女の恋愛の純粋さ、一途さと、LEEジーンズのまじめな作りが同じくらいに良いということでしょうか?

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