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銭湯日記12 下町のビル型湯屋で鶴を愛でる 〜白水湯〜

銭湯をリノベーションしたがあるらしい。Instaを見ているとそんな情報を見たので、入谷を訪れた。
カフェ快哉湯は、昭和通りから一筋中に入った通りにある。昭和3年建築の平入建築、下町の狭隘な街路にあるだけあってコンパクトな建築である。


入谷駅前を通る昭和通りは、関東大震災の帝都復興計画のもと整備された大通りである。震災の時は、上野周辺では火災の影響も大きかったと伝え聞く。そんな更地の中に、新たに大通りが作られ、時を同じくして快哉湯という銭湯としてこの建物は生まれた。震災からの復興を願う入谷住民、東京市民にとって、快哉湯はとても有難い存在だったのだろう。
建築から十数年後、今度は空襲によって、下町エリアは再び灰塵と化す。しかし、幸運にもこの入谷エリアの一角は焼け残ったらしく、この令和の世までこの木造建築は生き永らえることができた。

平入の屋根に2連の千鳥破風が並んだ快哉湯の建物を見ながら、この小さな木造建築がこれまでに見てきた時代を想像してみるのは、楽しく、そして感慨深いものを感じた。

昔ながらの玄関の下駄箱に靴を入れ、脱衣所に入るとそこはカフェ空間となっている。右壁面はカフェカウンター、仕切り壁を挟んだ左側の壁面は、建築図書などが並ぶ本棚になっている。

床周りなどはリノベーションされているが、昔ながらの格天井、引き戸越しに見える坪庭は、昔の銭湯の頃の空気がそのまま残っている。

奥の浴室側は、ワーキングスペースとなっているようで、デスクや資料棚が並んでいる。男女湯壁面の壁が取り払われているので、浴室空間の広さが際立つ。また天井の高さを活かして、ロフト空間まで作られている。

奥の壁面には、当時からの富士山のペンキ絵が残されており、カフェ・ワーキングスペースという別用途になっても、銭湯という場所の象徴が現在まで残されていることに印象深さを残した。

快哉湯を出て近くの銭湯を探すと、すぐ近所に複数件見つかった。鶯谷方面、北は三河島、三ノ輪方面と点在しているが、ひとまず入谷駅から至近距離の銭湯、白水湯を目指すことにした。

昭和通りを渡り、しばらく歩くと屋号の書かれた煙突が見えてくる。ビル内接型と思われる四角い煙突は、隣の高層マンションの隣、すぐに接して建っていた。もちろん白水湯のビルの方が古そうなので、隣のマンションは後年建築なのだろうが、隣のマンションの住民的にはどのような感情を持つのだろうか。

高層マンションができても、下町の街路は早々変わらない。下町らしい路地から銭湯の玄関側へ回り込む。外観は築年30-40年くらいのビル型で、上層階はマンションになっている。大きめの電飾看板の書体は、少しレトロな書体で好ましい。

玄関周りで写真を撮っていたら、玄関から出てきた地元のおばちゃんに話しかけられた。この銭湯のご主人は、気難しいが良い人だ、などの地元コミュニティ情報を勝手に教えてくれるのが、また下町らしくて良い感じ。

早速下駄箱に靴を入れ、中へ。ロビーの天井は、花の絵を中心に木の梁で象った、凝った装飾になっている。中の脱衣所にも同様の装飾がされているが、これは池尻の文化浴泉、三軒茶屋の富士見湯などでも見られた装飾。いずれも同年代のビル型銭湯なので、銭湯改築時の流行だったのかもしれない。フロントには、先程のおばちゃんから伝え聞いた、若干頑固そうなご主人が座っている。

脱衣所のロッカーは正方形のもの。3割くらい鍵が既についていないのだが、浴室に客もいないので、もしかしたら外に持っていかれてしまったのかもしれない。マッサージ機もあったが故障中。

浴室は、ビル型なので平天井である。
男湯側は、私が入った時に先客が1名、出るまでの時間を合わせても客数は6名と、時間帯を加味しても客数はかなり少ない。対して、壁を隔てた反対側の女湯から、会話や気配を感じとれる。男湯の方が客の入りが多い銭湯がほとんどの中、ここは珍しく女湯の方が活気に満ちている。
奥の壁面は、タイル絵で鶴が描かれている。先程の快哉湯では古いペンキ絵を見ていただけに、対照的である。このタイル絵、凹凸で鶴の形を表現しているかなり凝ったもの。タイル絵は多く見かけるが、この装飾は現状他の銭湯では目にしたことがない。

浴室の配置は、左側に浴槽、右側にカランという配置。浴槽は、手前から水風呂、薬湯(入浴剤)、バイブラ、右奥にジェットバスがある。そして奥側に、ドライサウナが設置されている。
サウナと水風呂が隣接した銭湯が多い中、ここの銭湯は少し離れて配置されているのが特徴的。浴槽のお湯は、全体的に適温で入りやすい。対してシャワーとお湯カランは、かなりの熱めである。

サウナは、都内では破格の追加料金プラス80円。だが設備は申し分のない、ガス式のドライサウナで十分に熱い。サウナ室の中は、5名程度が入れるコンパクトサイズ。水風呂は1名用だが、客は私以外にほとんどいなかったので、悠々と入ることができる。
余談だが、ここを訪問する数日前には、中野の昭和浴場へ行っている。そこではロビーのポスターで、「サウナ料金が最も安い100円」と謳われいたが、あっさりそれを超える安さのサウナに出会うことになった。

風呂から上がると、頑固そうなおじいさんの店主から、息子さんと思しき男性に変わっていた。2人とも下町カタギ漂う雰囲気を持ち合わせている。
ビル型銭湯であろうとも、下町銭湯の系譜は引き継がれているのだろう。

それでは、良き湯時間-yujikan-を。

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