「初めての人生の歩き方。――毎晩きみにラブレターを」第450話:娘について。

世の中がどんなに変化しても、人生は家族で始まり、家族で終わることに変わりはない。
アンソニー・ブラント

 娘。
 それも、血の繋がっていない娘。
 よく母親には母性があって、だから子を無条件に愛せるという。さて、それなら男性はというと、……まったく悲惨なものだ。男性には母性がない! 心理学の先生がそう言った瞬間、納得と同時に虚脱感が起こった。私は果たして、この子を愛しているのだろうか。

 今の娘と出会ったのは五年前ぐらいで、まだベビーカーに揺れていた。当時のことは覚えていないと思うが、そのことにはまだ本当のパパがいて、そういていつのまにか君のパパはいなくなり、髪がぼさぼさの髭ずらでしかも精神的に病んでいるおっさんが君のママを攫ってしまったように映っていたと私は思う。
 きっと君は苦しかったはずだ。なぜなら、私も苦しかったから。
 いつのまにか、君も含めて三人で会うようになり、そうして君はいつかこう言った。

「ゆうじくんがパパだったら嬉しい」

 その言葉のエネルギーにはすごいものがあって、宇宙に神がいなくとも、いや、神は君自身だ。だから今、その願いは叶ったのだ。私は愛する。きみを心から、例えそれが理性的な母性であったとしても。

 ここ一週間、私は君をバチクソにしかりつけた。嘘をつき、ゲームの時間を守らず、ママと約束したチャレンジタッチもせず、せずせずせず、いや、本当は知っている。きみはたくさんのことをしているし、親ばかかもしれないが、その辺の子よりもよっぽど賢くて大人だということを、私はきちんと知っている。

 それでも、きみを泣かすほど怒ってしまったのには、私は私自身を投影しているにすぎないからかもしれない。

 私の人生はあるところまで破綻している。だから今、自由は程遠く、のんびりとゲームをする余裕もない。「ゲームなんて意味がない!」そのセリフは、昔の自分にそのまま言っているもので、ああ、私は心の底から弱いのだ。

 今日、きみと久しぶりにプールに行って、コーチという名目できみにクロールを教えていたのだが、君は途中で立ち止まって、それも何回も立つもんだから、つい腹が立って「立つな!」と言ってしまい、きみは泣いた。

 私はきみを泣かしたのだ。

 あとで聞いたら「悔しくて泣いた」という事だったけれど、そのとき、私は死にたく思っていた。弱い父でごめん。その言葉をきみにかけたとき、きみは笑った。神。生きようと思った。

 その神は今、布団の中で大いびきをかいている。夢を見て、夢を叶えろ。そう願わなくても、子はきっとそう生きる。子は強い。私だって、と。

愛がぼくを呼んでいる。

その方向にきみがいる。

年を取ろう。

セックスをしよう。

愛してるよ。

初めての人生、ぼくは今日初めていちご狩りをしてきた。

いちご。

それよりも、初めてしてきた、ということに意味があって、

さらに大切な家族としてきたということに価値がある。

人生はそんなもんだ。

きっと、

ぼくの両親も

そう思いながらぼくたちを育ててくれたのだろうか。

イチゴのカタチの涙が出る。

今日もありがとう。

今年も残り222日。

またね。

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これからもよろしくお願いします。

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