「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記)第21房:何気ない顔をした春よ

 寝坊。遅刻。もうこのまま休んでしまおうか悩む。の三点セットをなんとか乗り越えて施設に向かう有原くん。めんどくさいけど、少しでもお金が欲しい。その思いが彼を動かした。
 もう春はそこら辺に来ている。だが、まだ寒い。冬と全く同じ格好をして駅に向かう。

「バイト探さなくちゃ」

 有原くんは施設を辞めることをすでに伝えていた。
 理由は色々ある。
 正直、施設は楽だった。別になにもしなくてもいいし、好きな小説を書けるし、それで最低賃金は貰えるし、まさにパラダイスだった。
 ただ、苦しくなってきた。
 もともと有原くんは障害者手帳を持っていなかった。たまたま見つけた就労移行支援の応募のさいについでに取得したようなものだった。
 この辺はブログで詳しく書くけど、有原くんはとにかくしんどくなってきていた。

「このままでは変われないし、病気も治らない。当たり前だ。施設に通う限り、自分で自分に病気だと言い続けているようなものなのだから」

 だいたい就労移行支援とは就職するためのリハビリ、つまり 準備期間のようなところだ。バイトや仕事を捜すのが本分で、夢を追いかける場所ではない。

 頭の悪いふりをしていたら、いつの間にか本当に馬鹿になっていた。
 有原くんはふとそんなことを思い出した。

☆   ☆   ☆

 施設帰りに心療内科。ここもそろそろ卒業だ。早く辞めたい。本当のことを伝えたい。もう大丈夫です、と言いたい。
 なぜそれができないのか。

 堕落した人間のもっとも堕落する原因は依存である。

 有原くんは甘えている。
 国と親と彼女に。
 抜け出したい。

 彼はいま、嘘をついている。
 嘘ではないが、嘘に近いと思っている。

 堕落した人間のもっとも醜い部分は平然と嘘をつくことである。

☆   ☆   ☆

 帰宅し薬をすべて捨てて、久しぶりの自炊。野菜だらけの肉なし飯なしヘルシーレシピ。
 彼は今日からストイックにダイエットをはじすめることを決めた。早速久しぶりのランニングにも行った。

☆   ☆   ☆

 もうすぐ春だ。
 花見がしたい。
 両親とも、
 彼女と、
 子供と、
 昔からの友達と、
 最近知り合ったゲイと、
 みんなで花をみあげて、
 くだらないことを喋って、
 安い酒のんで、
 夢を語りたい。
 笑いたい。
 愛し合いたい。

☆   ☆   ☆

 春はすぐそこだ。

 いや、もう来ているのかもしれない。

 何食わぬ顔をして、笑っているかも。

 日本に生まれて春を迎えて桜を見上げる。
 まるで出来すぎのような人生じゃないか。
 頑張ってもあと70回くらいしか花見シーズンを味わえない。
 
 さて、どんな道を歩いていこうかな。

 みんな、頑張れ。
 彼も頑張る。
 たまには逃げながら、前を向いて、大口開けてバカ笑いしよう。
 いつか会おうよ。

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