「初めての人生の歩き方。――毎晩きみにラブレターを」第453話:ホタルの光

おごらず、人と比べず、面白がって平気に生きなさい。
樹木希林
(きき きりん、1943年1月15日 - 2018年9月15日)は、日本の女優。​

 面白くないものもたくさんあって、くだらないことしか目に入らない時期も人生には必然で、ただしそういうときに限って視野は針の穴のように狭く、まるでマインドコントロールされているかのように盲目的に世界を恨んでしまうときがある。

 確かに辛い。ただそれは伏線だ。言うなれば楽しくなるためのオカズのようなもので、実際にそれがあるから生きていて張り合いも生まれ、そしてなにより幸せを感じやすくなるのだ。

 幸せ。
 それはときに終の目的になるが、基本的には過程だ。

 先日、彼女と娘と三人でホタルを見に行った。僕はこういうホタルとかいわゆるイベント事が好きだから、無理やり誘って、しかも今年は車もあるもんだからちょっと遠くまで足を伸ばしてみることにした。

 ホタル。
 実はホタルには苦い思い出がある。 

 傍から見るとぼくたちはとても順風満帆、ケンカ一つせずいつも笑顔で楽しそうに生きていると見られがちなのだが、なに、そんな例外的な訳もなく、ぼくたちだってケンカはするし別れそうになったことだって幾度もあった。

 二年前、いつものようにホタルを見に行こうと大阪万博に行った時のこと。その頃、ぼくは荒れていた。鬱もあったし、単純にイライラしていた。彼女と娘と万博記念公園に行って、辞めとけばいいもののぼくは酒を飲んだ。

 ああ、そうだ、思い出した。ちょうどその頃、彼女のお父さんとひと悶着あったもんだから、余計にイライラしていたんだ。

 その帰り、ぼくは電車の中で激昂し、彼女に最低な言葉を吐いて、そうして、それから「もうあなたのことを愛せない」と言われるまでにお互いの関係を傷だらけにしてしまったのだ。

 今の生活を見て貰えば分かるように、それはなんとか収まったのだけど、ぼくの中にはその時のホタルの苦い記憶があったのだけど、しかしホタルはホタル。酒は懲りたがホタルとなれば見に行くしかない。

 という訳で今年は奈良の山奥に行ってきたのだった。

 川沿い、カエルの大合唱、草木の揺れる音。
 さすが有名な観光地で、他にもわらわらと人がいた。ある程度の人はしんみりとしていたが、中にはスマホのライトを振り回したり、走り回ったり、とにかく見ていてイライラする連中もいた。
 ぼくたちは奥に歩いて行った。「なんだよ、ホタルより人の方が多いじゃないか」などと言いながら、そのとき「あっ」と娘が上を見上げた。
 頭の上に黄色と青の中間のような優しい光を発しているホタルが空を飛んでいる。
 ついで、川に目をやると、さっきまでどこにいたのだろうかと思う程のホタルが川を賑やかに照らしているのだ。

 風が心地よかった。
 正面の家族が静かに騒いでいる。

「ねえ、このホタル、あの子にも見てもらおうよ」

 声を掛けられ、のぞき込むと、そこにはホタル。娘のもれるような声が聞こえて、それからホタルは静かに飛んでいった。

 幸せとはきっとこんな感じなんだろうか。

 そう思いながら車を運転していると、「行ってなかったけど、来る途中女性の幽霊見たの」と彼女が言った。そうか、幸せはこういうこと込み込みなのだと改めて思った。

 娘が爆睡する中、ぼくたちは車の中で他愛ないことをたくさん話して、家の明かりが近づいてくると、家族の距離も必然的に縮まって、また来年の今頃の笑顔も自然とイメージできるのだった。

 ホタルの光、それは幸せの光だ。

君への愛は尽きることがない。

ぼくはきっと愛より先に死ぬと思う。

まだこれからの景色が楽しみなように。

心から愛してるよ。

おやすみなさい。

初めての人生、まだまだこれからだ。

いつの間にか夢が当たり前になって、こうなれば幸せなのに、と思っていたことが日常になって、また新しい欲望が生まれる。

それでいいと思う。

そうやって上に行ったり下に行ったりして生きていこう。

優しさはときに武器になる。

きみの幸せを願って。

今日もありがとう。

今年も残り201日。

またね。

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最後まで読んでくれてありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

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