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星芒鬼譚《完全版》

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「どうにかして探してほしいんです、九尾の狐を」 源探偵事務所に舞い込んだその依頼は、世間を騒がす連続神隠し事件とも関係があるようで…? 調査に乗り出した探偵事務所一行が出会ったの…
1章ずつのお買い上げよりお得で、順番どおりに並べられているので続けて読みやすくなってます。
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#待って不死身の人多すぎない

星芒鬼譚7「例の連続失踪事件。あれを解決しちゃおーってこと」

星芒鬼譚7「例の連続失踪事件。あれを解決しちゃおーってこと」

空港は、今日もさまざまな人種が行き交っている。
入国ゲートを抜けた先には、和風のお土産屋にカフェ、寿司屋におでん屋…と多彩な店が軒をつらねていた。
アマニータは11時間ものフライトで固まった体を伸ばすように、大きく伸びをした。

「来たわ~日本!イエーイ!ピースピース!ほら、写真!!」

その後ろに、大きな荷物を持たされたフランケンとマルコが続く。
これだけ、ある意味混沌とした空間であれば、彼らの

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星芒鬼譚8「あの、光太郎さん。俺だって戦えますよ。…たぶん」

星芒鬼譚8「あの、光太郎さん。俺だって戦えますよ。…たぶん」

「ねー、もう帰らない?」

光太郎があくび混じりに言った。
すっかり夜も更けてきた京都の街を、武仁と光太郎は歩いていた。

「いや!まだ帰りませんよ!たしかに反応が出てたんですから!」

腰に護身用の短刀を携え、妖怪探知機をあちこちかざしながら武仁は言った。

「九尾の狐を探してほしい」という奇妙な依頼が持ち込まれた翌日。
通常業務を終えた三人は、事務所で調査方針を話し合っていた。
そんな中、デス

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星芒鬼譚9「そろそろ決着をつけさせてもらおうか、玉藻」

星芒鬼譚9「そろそろ決着をつけさせてもらおうか、玉藻」

夏美は通信機を左手で押さえ、耳を澄ました。
が、武仁も光太郎も声を発しない。
これでは、向こうで何が起きているのかわからない。ただ、何かが起きていることは明白だった。
と、妖怪探知機のブザーがけたたましく鳴り出し、そのあまりの音量に耳鳴りがした。

『『わーーーーー!!!』』

光太郎と武仁の声が重なる。武仁が取り落としたのか、探知機のブザーが急に途切れた。

「今度は何だ!?」

夏美の声にも焦

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星芒鬼譚10「…己の分を知るが良いわ」

星芒鬼譚10「…己の分を知るが良いわ」

晴明の傍らには薄紫の装束の華奢な女性がたたずみ、鉄扇を携えたもう一人の男ーーー蘆屋道満の足元には、派手な格好の野良猫のような少女がしゃがんでいた。

「式神と…管狐か」

玉藻は目を細める。

「こいつらには心の迷いなんてものありませんからねぇ」
「そゆこと!あんたの得意技は通用しないぜ」

道満の言葉にのっかるように、少女は得意気に言った。

「あるじ様、いかがいたしましょう」

華奢な女性が、

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星芒鬼譚11「待って不死身の人多すぎない?」

星芒鬼譚11「待って不死身の人多すぎない?」

「ここまで来れば大丈夫かと…って大丈夫ですか?」

賀茂が振り返ると、京極はぜぇはぁと息を荒げていた。
なんなら、げほげほと噎せている。

「だ、大丈夫じゃないけど…とりあえず、大丈夫…」

京極はベンチに倒れ込むように座った。
賀茂も、少し間を開けて腰を下ろす。
夜の公園には誰もいない。外灯がジジッと音を立てて点滅した。
しばらく続いた沈黙を、賀茂が破る。

「…京極さん。昨日のことですけど」

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星芒鬼譚12「この街の平和は僕たちが守るのです!」

星芒鬼譚12「この街の平和は僕たちが守るのです!」

源探偵事務所の社用車は、鞍馬山へと向かっていた。
わずかに開けた窓から入ってくる風に、ひよりの頭の上の耳がぴこぴこと動く。

「いや~、狸に化かされたのは初めてでしたよ」

助手席の光太郎がバックミラー越しに見ながら言った。
ひよりは邪魔にならないように前に抱えた大きなしっぽを、きゅっと抱き締めた。

「隠していてごめんなさい。でも、探偵さんなんにも聞かないんですもの」
「普段から人間の姿で生活し

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星芒鬼譚13「これは失礼したな。我が名は玉藻。いずれこの世のすべてを手に入れる者」

星芒鬼譚13「これは失礼したな。我が名は玉藻。いずれこの世のすべてを手に入れる者」

悟浄と八戒は、緑の中を歩いていた。
八戒はタピオカのカップを片手にご機嫌な様子でずんずんと進んでいく。
悟浄も同じカップを持って周りを見回しながらついていく。
と、八戒が急停止し、その大きな背中にぶつかった悟浄は一人で弾き飛ばされた。

「ぐわっ」
「ねぇ悟浄」

悟浄はよろよろと立ち上がる。

「なんだよ…」

八戒は、神妙な面持ちで振り向いた。

「ここってどこだと思う?」

悟浄は思わずずっ

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星芒鬼譚14「バカ言うな。ただの勘違いだよ」

星芒鬼譚14「バカ言うな。ただの勘違いだよ」

光太郎は袋に入った刀を担ぎ、灯籠の明かりも消え真っ暗な石段をずんずんと降りていた。

「光太郎。待て」

後ろから夏美が何度も声をかける。

「待てと言ってる!」

ようやく歩みを止めると、光太郎は振り向いた。

「…何だよ」

怒ったような拗ねたような顔をしていた。
やはり武仁と何かあったんだな。夏美は確信した。
だが、当人から聞かなければ何があったのかなど知りようもない。

「何かあったなら、

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星芒鬼譚15「身に降る火の粉は払わにゃならないってね」

星芒鬼譚15「身に降る火の粉は払わにゃならないってね」

アマニータ、マルコ、フランケンの三人は、鬱蒼と茂る木々の中をひたすらに駆けていた。

「おい、なんかさっきから変じゃねえか?」

息を切らせながらマルコが声を上げた。
アマニータもフランケンもなんとなく気づいてはいた。
いくら森とはいえ、景色が変わらなすぎる。走っても走っても進まないような、奇妙な感覚がしていた。

「よくわかんないけど、今はとにかくあいつから離れるしかないでしょ!」

ざあっと突

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星芒鬼譚16「取引成立だ。よろしくな、相棒」

星芒鬼譚16「取引成立だ。よろしくな、相棒」

鞍馬の屋敷からそっと抜け出した武仁は、石段に座っていた。
灯籠の明かりも消え、あたりは真っ暗だ。
夜風が頬を撫でるのが気持ちいい。
眼下には、中心地の夜景がちらちらと光っているのが見える。
もう何度目だろうか、手元のスマートフォンを確認すると、武仁はため息をついた。
わかってはいたが、やはり夏美からも光太郎からも連絡は入っていない。

「ここにいたんですね」

振り向くと、ひよりが立っていた。

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星芒鬼譚17「もう、いい。もう何にもいらねぇよ。ぶっ壊しちまえば全部一緒なんだからな」

星芒鬼譚17「もう、いい。もう何にもいらねぇよ。ぶっ壊しちまえば全部一緒なんだからな」

石段の途中で、光太郎はスマートフォンを耳に当てていた。
呼び出し音が流れ続けるだけで、いっこうに出る様子はない。
なんだよ、と小さく呟きもう電話を切ろうかと耳から離したとき、突如地響きがして足元が揺れた。
地震だ。
震度にしたら4か5はあるかもしれない。
が、瞬間的なものだったらしく、揺れはすぐにおさまった。
しんと静まり返ったこの状況が、逆に不気味だった。
ふと光太郎は鞍馬の屋敷のほうを見上げた

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星芒鬼譚18「さあ、総力を挙げてもてなしてやるが良い。存分にな」

星芒鬼譚18「さあ、総力を挙げてもてなしてやるが良い。存分にな」

真っ暗な廊下をヴァンヘルシングとカーミラは歩いていた。
城内はひっそりと静まり返っている。
二人ともあたりの様子に集中し黙っていたが、カーミラが口を開いた。

「ねぇ、なんだか変よ…静かすぎるわ」

カーミラは耳が良い。
本人が言うには、人間にはわからない超音波を感じとることができて、物との距離感までわかるんだそうだ。
彼らの眷属であるコウモリと同じ特性を持っているのだ。

「ああ、罠かもしれない

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星芒鬼譚19「これでもう邪魔は入らぬ。たっぷりと逢瀬を楽しもうではないか」

星芒鬼譚19「これでもう邪魔は入らぬ。たっぷりと逢瀬を楽しもうではないか」

大した準備も作戦もないままに、戦いの火蓋は切って落とされてしまった。
規模こそ小さいかもしれないが、それは“妖怪大戦争”の様相を呈していた。
まさに、多勢に無勢である。
光太郎は鞍馬と太郎丸に早々に目をつけられ、二人の激しい連携攻撃を防ぐことで精一杯だった。
ヴァンヘルシングはとにかくカーミラの目を覚まさせようと考えたが、真っ先にアマニータたち西洋妖怪が飛びかかってきた。
とはいえ、九尾の狐に比べ

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星芒鬼譚20「…落ち着いてるわけない。だが今騒いだってどうにもならないだろうが」

星芒鬼譚20「…落ち着いてるわけない。だが今騒いだってどうにもならないだろうが」

「一体何がどうなってんだよ…」

光太郎がため息交じりに言った。
運転席の夏美は無言でハンドルを握っていた。
二人はあのあとなんとか城から落ち延び、車まで辿りつくことができた。
が、その間夏美はずっと黙ったままで、光太郎は状況が把握できないままだった。
真っ暗な山道を普段よりも上げた速度で降りていく。

「なぁ、お前何か知ってんだろ」

助手席から聞いても、夏美は前を睨みつけるばかりで一言も発さな

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