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星芒鬼譚14「バカ言うな。ただの勘違いだよ」

光太郎は袋に入った刀を担ぎ、灯籠の明かりも消え真っ暗な石段をずんずんと降りていた。

「光太郎。待て」

後ろから夏美が何度も声をかける。

「待てと言ってる!」

ようやく歩みを止めると、光太郎は振り向いた。

「…何だよ」

怒ったような拗ねたような顔をしていた。
やはり武仁と何かあったんだな。夏美は確信した。
だが、当人から聞かなければ何があったのかなど知りようもない。

「何かあったなら、ちゃんと話せ」

光太郎は夏美に背を向けると、石段に腰を下ろした。
夏美も数段上で同じように座り、光太郎が話し始めるのを待った。

「…九尾に襲われた時、俺は逃げろって言ったんだ」

光太郎は足元を見つめたまま言った。夏美は黙って光太郎の背中を見ている。

「なのにあいつ、逃げずに向かっていったんだよ。あいつ以外は誰も動けなかったし、お前が間に合わなかったら…」

そこまで言うと、口をつぐんだ。武仁に何かあった場合を想像してしまったのだろう。

「武仁には理由を聞いたのか」
「いや、聞いてはねーけど」

やっぱり、と夏美は思った。
こいつは昔からこういうところがある。何度言っても変わらないが、それでも言うのが自分の役目でもある。
光太郎の背中を見つめたまま、まっすぐに言った。

「聞かなきゃわからないし、話さなきゃ伝わらないだろ。武仁と話をしろ、今すぐにだ」

光太郎は夏美の視線から逃れるように立ち上がる。

「今言ったって聞かねーだろ」
「いいからとにかく…」

夏美の言葉をかき消すように、光太郎は言った。

「はいはいこの件が終わったら話すよ、それでいいだろ」

不意に沈黙が流れた。虫の声だけがかすかに聞こえている。

「…もういい。勝手にしろ」

その言葉に振り返った途端、車のキーを投げつけられた。
見ると、夏美はこちらを睨みつけていた。

「…おい、」
「帰りたければ先に帰れ。お前は言葉が足りなすぎる」

話にならないと判断したのだろう。それだけきっぱり言うと踵を返し、降りてきた石段を振り返ることなく登っていった。
取り残された光太郎は、深いため息をつき、額に手を当てる。

「あー、もう…」

両頬を軽く叩くと、モッズコートのポケットからスマートフォンを取り出した。

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