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星芒鬼譚17「もう、いい。もう何にもいらねぇよ。ぶっ壊しちまえば全部一緒なんだからな」

石段の途中で、光太郎はスマートフォンを耳に当てていた。
呼び出し音が流れ続けるだけで、いっこうに出る様子はない。
なんだよ、と小さく呟きもう電話を切ろうかと耳から離したとき、突如地響きがして足元が揺れた。
地震だ。
震度にしたら4か5はあるかもしれない。
が、瞬間的なものだったらしく、揺れはすぐにおさまった。
しんと静まり返ったこの状況が、逆に不気味だった。
ふと光太郎は鞍馬の屋敷のほうを見上げた。

「なんだ、アレ…」

鞍馬の屋敷があったはずの場所には、不穏に輝く城が建っていた。
一体何がどうなっているのか。
屋敷に置いてきたひよりさんは、武仁は。
鞍馬は、太郎丸は、戻った夏美は。
背筋が冷たくなり、スマートフォンを握りしめた。

***

その城は、晴明邸の縁側からも小さく見えていた。
立ち上がった道満は、城を睨みつけている。

「玉藻の仕業ですね」

晴明は縁側に座したまま、一口茶を飲んだ。

「ああ。満月にはまだ早いが、復活したか」

いつのまにか、暗がりに騰蛇とイヅナがたたずんでいた。
鞍馬山にそびえたつ城を眺めたまま、晴明は静かに言った。

「騰蛇、イヅナ。偵察を頼む」

騰蛇は小さく承知いたしました、と言うと、人型の紙の姿になり城へ向かって飛び去った。
イヅナはどうする?と聞くかのように道満を見上げ、道満が目で行けと合図をした。
はぁとわざとらしく大きなため息をつくと、イヅナは道満に人差し指を突きつけた。

「帰ったらいなり寿司な」
「わかったから早く行け」

道満はしっしっと追い払うように手を振った。
面白くなさそうな顔をして、イヅナも黒くて小さな狐に変化すると、宙を飛ぶように駆けていく。
晴明が、湯飲みをごとりと置いた。

「さあ、どう出る?」

***

ホテルの窓辺で、ヴァンヘルシングは煙草の煙をふぅと吐き出した。
隣にやってきて遠くの城を確認したカーミラが、口笛を吹いた。

「ずいぶん派手にやってくれるな」
「いいじゃない、面白くなってきたわ」

ヴァンヘルシングは煙草を灰皿に押しつけて消した。
レースのマントを素早く羽織ったカーミラが窓枠に足をかけた。

「おい、はしたないぞ」
「だってこのほうが早いじゃない」

言うが早いか、カーミラは窓枠を蹴ると、空中に飛び出した。
一瞬で小さなコウモリに姿を変えるとパタパタと羽ばたきながら、ヴァンヘルシングを振り返った。

「先に行くのはいいが、ドジは踏むなよ」

カーミラは一声鳴くと、飛び去った。
銃をホルスターにおさめたヴァンヘルシングは窓を閉め、照明を消すと部屋の外へ出た。
こんな夜更けだ、他の宿泊客の迷惑になっても悪い。
できるかぎり静かにドアを閉め、鍵をかけた。

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