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「Helvetica」と「Arial」、その歴史と論争と真相


こんにちは、グラフィックデザイナーの塚本です。

皆さんは、どんなフォントがお好きですか?
私は欧文ならAvenirGotham、和文なら游ゴシック体が好きです。

デザインをする大前提の部分で、書体の歴史について触れておくことはとても重要。学生の頃は口を酸っぱくして言われた事ですが、ある程度のルーツを知っておかないと、後々に恥をかく羽目にもなり兼ねません。ウエスタンのデザインなのにFrakturみたいな多国籍の書体使ったりだとか。

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さて今回の記事では、欧文書体のなかでもベストセラー、世界中で愛されている「Helvetica」というフォントと、その代替として利用されている「Arial」というフォント、この2つの書体を掘り下げてみたいと思います。



Helveticaについて


へる2

印刷物の生産にまだ活版印刷が使われていた頃の1957年、スイスの都市、バーゼルで鋳造活字として誕生したのが始まり。
サンセリフ(ひげなどの飾り要素がない)書体で、クセがあまり無く、可読性に優れています。macOSにはデフォルトで搭載。

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現在ではグリッドに則った、規則的で機能的なデザインは当たり前とされていますが、その礎となったスイス・スタイルHelvetica無しには語れません。
1983年に改訂版である「Neue Helvetica」、さらに2019年「Helvetica Now」が時代を超えて発表され、常に「モダン」を突っ走っている書体といえます。

「迷ったらとりあえずヘルベチカ」というぐらい安定感のあるフォントですが、馴染みがありすぎるし一般的、といった理由で使用を避けるデザイナーも少なくありません。


Arialについて


ありある

アライアル、アリアル等と発音します(私は“アーリアル”派)。
Windows、macOSに搭載されています。
Helveticaと同じく、サンセリフ書体。こちらのフォントも文字組しやすく、汎用性の高い書体です。

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Windowsが世間一般に広く普及しているため人気のある書体ですが、「私は絶対にArialを使用しない」というデザイナーは多いと思います(理由は後述)。


形状の違い


HelveticaArialを並べてみました。

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どうです?ぱっと見だと、そっくりすぎてあまり見分けが付かないかと思います。

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乗算したらこんな感じ。
さらに違いの分かり易い文字たちを、以下にピックアップしてみました。

あちがい

「G・R・Q」の文字は違いがとても分かり易いですね。
「C」Helveticaだと水平になっている切り口のラインが、Arialでは斜めになっています。下の「S・J・e・f」の文字も同じように見分けます。

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しかし、あまり特徴のない「I」「L」を見分けるのは困難ですね…


Helvetica VS Arial 論争


学生の頃、担任の先生が「お前らに良い物を見せてやろう」と授業中に流してくれたのが「Helvetica」というドキュメンタリー映画(そのまんま)。

あらゆるデザイナー達がヘルベチカについてひたすら語りっぱなす超マニアックな内容で、Helveticaのディテールに至るまでの美しさは勿論、製作の苦労話、はたまた無個性である事の退屈さ、そして、Arialについても少し言及されていたと思います。

この映像を見せながら先生が「Arialはな、Microsoft社がHelveticaの使用料にかかる莫大な金を支払いたくなくて、Helveticaそっくりに作らせたパクりフォントなんだぞ」というような説明をしていた記憶があります。
それ以来、私達学生の中でArialは「サイテーなフォント」であるという認識になり、Arialを課題で使う学生は居なくなったどころか、「Helvetica VS Arial」というスマホゲームでスコアを競い合うぐらいに、Arialへのヘイト値を蓄積していったのです(現在このアプリは公開されていない模様)。


Arialで検索をかけ、他の方のブログやnoteを読んでみても「Microsoft側がライセンスを払いたくなくて」「Helveticaを元に作られた」などという記述がちらほら見受けられる。かの落合陽一さんもArialが嫌いだと述べている…
そんな嫌われ者のArial、だとしたらApple社がそんなフォントを搭載し続ける理由は何なんだろう?本当にパクって生まれただけのフォントなのだろうか?


真相はここに集約されていた


真相が知りたくなって色々と検索をかけていたところ、とても信憑性が高く、Arialに関して事細かに書かれた記事を見つけました。

Arial開発元のMonotype社(フォント販売世界最大手)の書体デザイナー、大曲都市さんが数年前に書かれたブログ。…なんと…日本語でここまで詳細に書かれているだなんて!(Arialのwikiにも、良くみたらリンクが掲載されていた)

論より証拠なのでリンク先に飛んで記事を読んでいただきたいのだけれども要は、

・Helveticaのライセンス料を支払いたくなかったから、というのが開発理由ではない
・Microsoft社が悪く言われるけれど、そもそもMonotype社にArialの製作を依頼したのはIBMだ
HelveticaをパクったというよりMonotype Grotesqueをベースに設計されている(でも字幅はHelveticaに寄せた

Helveticaの代替品として生まれた書体である事はまず間違いないけれども、大多数のデザイナーの認識とは若干のズレがあると感じました。

Arialは悪」と決めつけてしまっているデザイナーの方々、是非上のブログを読んで、少し考えを改めていただきたい。Arialの誕生には複雑な事情があったんですよ…とりあえず私は元担任の先生にリンクを送りつけようかと思っています。



とはいえ、大体はHelveticaで事足りてしまうし、まだ世間での認識があまりよろしくない以上は、使うタイミングがなかなか訪れなさそう。ごめんArial
(皮肉って「クローン逆襲」的な映画のタイトルを制作する際には是非Arialを使いたい)

最後に、今回の記事をまとめた事で、自分の情報収集の甘さを実感し、恥じました。学生の頃に学んだ事だけがすべてではないので、ちゃんと日々アップデートせねば…冒頭で書いたことまんま自分にブーメランやん…

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