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ゲーム感想|『午前五時にピアノを弾く』記憶には残らなくても"覚えている"。そして受け継がれるもの

『午前五時にピアノを弾く』のEND1~END3をクリアしました。

清涼感があり、どこか切なさも残る、とても余韻が残る作品でした。

2023年5月2日にSteamでリリース。料金は無料。
開発・パブリッシングはともにKazuhide Okaさんという方です。


■はじめに

私たちは、生きていれば必ず何かを残します。

例え子孫を残さなくても、何か大きな遺産を残さなくても、歴史に残るような事をしなくても。

誰かに言った言葉、人と話した記憶、出会った記憶、

一緒に何かをしたり、何かを教え合ったり。

長い人生でも、短い人生でも、

いつか忘れ去られて憶えている人がいなくなっても。

それらは、後世に僅かながらでも何かを残し、影響を与える。

そうやって、きっと誰かに受け継がれていくものがある。

一人一人の人生には、どんなにささやかでも意義がある。

そう感じさせる作品でした。

■どんなゲーム?

『午前五時にピアノを弾く』は短編のテキストアドベンチャーゲームです。

朝の午前五時くらいになると、ときどき霧が出る。
そんな町の霧の中を少女が散策していくゲームです。

霧の中では様々なものや事象に出会います。

ベンチやシャボン玉のような普遍的なものから、ひとりでに歩く靴や天まで伸びる階段などの不思議なものまで。

そういった出来事に対して、二つの選択肢の中から行動を選び、午前八時になるまで霧の中を散策していきます。

霧の中を散策。不思議な事象に出会う

システムとしては、選択肢を選ぶとゲーム内の時間が進み、主人公が持つ4つのパラメータ「眠気」「渇き」「狂気」「充電」のいずれかが増減します。

選択肢の中には時間やパラメータには影響しない代わりに、アイテムが手に入る選択肢もあります。

アイテムには、一部のパラメータの増加を抑えたり、増加したパラメータを減少させたりする効果などがあります。

時刻と4つのパラメータ、所持中のアイテムは画面左下に表示されている

ゲーム内の時間が午前八時になったらその時点のエピソードをクリアした事になり、逆に4つのパラメータのうちいずれかが上限値に達してしまうとゲームオーバーになります。

ストーリーはエピソード単位で分かれており、各エピソードの最初と最後で話が少しずつ進んでいきます。

■霧の中を歩く少女と記憶を失った男性

主な登場人物は、主人公の少女と、霧の中で出会う壮年の男性です。

主人公:霧の中を歩く少女
霧の中で出会う壮年の男性

少女は朝の霧の中を歩くのが好きなのですが、それを奇妙だと思いつつ、なぜ霧の中を歩くのが好きなのかが、自分でも分かりかねています。

そして、男性は記憶を失っており、そんな中で主人公の少女に出会います。

「……どこかで、会ったこと、あります?」

「いや……ない、ないはずだ」
「ないはず、なんだが……」

少女と男性は、お互いにどこかで会った事がある、そんな感情を抱きます。

少女は何故、霧の中を歩くのが好きなのか、記憶を失った男性は何者なのか。

ストーリーの中では、それらの要素が少しずつ紐解かれていきます。

■少女の住むログハウス

主人公の少女は、山の中のログハウスで家族と一緒に住んでいます。

近々引っ越すことになっており、少女はそれを悲しいことだと感じているのですが、悲しいと感じる理由には、自分自身では思い出せない理由があるのでした。

そのログハウスに関しても、物語の重要なキーとなっていきます。

少女と山の中のログハウス



※ここからは作品のネタバレに繋がる内容があります※

■いつか忘れてしまう事

幼少期のことって、憶えていますか?

楽しかった記憶、友達と遊んだ記憶、家族と出かけた記憶。

大切な人との記憶。

絶対に忘れたくない、と思った記憶、感情。

何年も経って、大人になったいま、そういった記憶や感情のうち、
忘れてしまっているものが沢山あるのではないでしょうか。

そして、これからも様々な経験をして、その中で忘れていく事が沢山あると思います。

そうやって忘れていってしまう事は、少し寂しいことです。

それでも、そういった過去の出来事や経験は、必ず今の私たちに影響を与えており、憶えていなくても、感覚や気持ちが"覚えている"かもしれません。

思い出せなくても、私たちの中から消えてなくなるわけではありません。

ーー忘れてしまっても、全部私たちの中に残っている。

本作を通し、人の記憶や経験において、そういった考え方も出来る、というメッセージを受け取りました。

■おまけ:やり込み要素について

本作はストーリーを一周クリアするだけなら1時間ほどで終わりますが、それ以降もやり込み要素があります。

・全ENDの開放
エンディングは複数あり、全てのエンディングを観る事によって物語の全容や作者が伝えたい事が分かるようになるので、ぜひ全て観る事をお勧めします。

周回でプレイする必要はなく、クリア後のセーブデータから続ける事でも条件を満たす事が出来ます。

各エンディングの解放条件については公式サイトにヒントが載せられています。

・アイテム収集
タイトル画面から選択できる「ギャラリー」にはこれまでに獲得したアイテムが表示されます。アイテムは全部で47種類あります。

・「買い物」の開放
全ENDの回収後に解放される要素です。
プレイ中に獲得した事のあるアイテムを購入する事が出来ます。
購入するには、後述する「散歩に行く」モードで"10円玉"を集める必要があります。
各アイテムはそれぞれ30円で購入する事が出来ます。

・「散歩に行く」モードの開放
全ENDを回収すると、やり込み要素として「散歩に行く」が解放されます。
これは、通常プレイでは「午前八時まで」とされていた条件が撤廃され、4つのパラメータが上限に達するまで無制限に散策を続ける事が出来るモードです。

パラメータの上昇値も抑えられているため、長めの散策をする事が出来ます。

また、前述した「買い物」でアイテムを購入する為に必要な"10円玉"はこのモードで散策している最中に手に入れる事が出来ます。

アイテムの獲得も出来るため、前述したアイテム収集もこのモードでやるのが良いです。


■最後に

『午前五時にピアノを弾く』、とても良い作品でした。

あくまで推測ですが、この作品では「記憶」と「忘却」、「受け継がれるもの」がテーマに含まれていると思います。

私たちは生きているうちに様々な人と関わり様々な経験をしますが、その中で"忘却"していってしまう"記憶"も沢山あります。

それでも、何も無くなった訳ではない、忘れてしまったからといって、経験する前に戻ってしまう訳ではない。

誰かから受け取ったものは、受け取った人自身の中に残り続ける。

経験したことは、忘却してしまっても、感覚や気持ちが覚えている。

影響が残っている。

そうやって、物事は少しずつ"受け継がれていく"。

そういったメッセージがこの作品からは伝わりました。

『午前五時にピアノを弾く』、良い作品でした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



・Steamストアページ


・公式サイト

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