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有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:心理学編

こんにちは、有斐閣書籍編集第2部です。

各分野を担当する編集部員に「新入生におすすめする本」をたずねていく好評企画、今回は「心理学編」です。(経済学編政治学編社会学編もどうぞ)

内容は、こんな感じ。

1.分野のかんたんな紹介

さっそく編集部から、ナカムラワタナベに話を聞いていきます。


——:心理学って、心理テストとか占いみたいなものと混同してる人もいる気がしますけど、実際はどんな学問なんでしょう? まさか心理学者には、人の心なんてお見通し、とか…?

ワタナベ:最初に断言しておくと、心理学を専攻しても他人の心を読めるようにはなりませんよ。

——:まあ、そりゃそうですよね(笑)

ワタナベ:そもそも他人の心がわからないから研究分野が成り立っているわけでして。有斐閣から出ている心理学系のテキストにも、導入部分にこの種の説明が入っている本が少なくないような気がします。もしかしたらけっこう多くの学生さんをガッカリさせてしまっているのかもしれません(笑)

——:少し安心するような、夢が壊れるような…?

ワタナベ:じゃあ実際は何をやっているのかというと、人間の心の性質を理解するために、実験調査心理検査などをしています。ほかにも、動物の反応を調べて人間と比較する研究や、ハードウェアとして神経細胞を分析する研究もあります。

——:いわゆる「理系」というか、自然科学系の学問に近い研究も多いわけですか。テレビとか、メディアでよく言われるのとは違う印象ですね。

ナカムラ:それに、心理学者というと「=カウンセラー」的なイメージを抱かれがちですが、カウンセリングを生業とする研究者は意外に少ないですね。「心理学=臨床」のイメージで心理学科に入学して、実験や統計学に困惑……みたいな話はよくききます。

——:あ〜、たしかに。

ナカムラ:「病んでる人を、困っている人を助けるぞ~!」 みたいな気持ちだけじゃだめ、ちゃんと実証された理論技術を身につけようね、というのが心理学教育のはじめの一歩、というところでしょうか。とはいえ、「助けるぞ~!」みたいな純粋な気持ちが学問の原点であると、個人的には信じてはいるんですけどね。

ワタナベ:名詞とつなげれば何でもそれらしくなってしまう、と揶揄されることもありますね。「ラーメン心理学」なんかもできるかもしれません。個人的には、目に見えず手に触れることもできない「心」という代物を、なんとか測定できるデータに落としこもうと工夫を凝らすのが心理学の醍醐味だと思っています。

2.予備知識なしに1冊目に読みたい本

——:方法論こそ、この学問のキモ、ということでしょうか。とすると、新入生が予備知識なしで読むのって、何がいいんでしょう。1冊目に読みたい本を教えてください。

ナカムラ『ゼロからはじめる心理学・入門』ですね。「心」は目に見えないのに、どうやって扱えるの?という方法論に関する問いかけからはじまっています。各章のあたまに、講義中の板書に見立てた手書きの図解があって、文字だらけの「The 教科書」が苦手な学生にもおすすめです。下手すると重たくなる話題のキモを「軽快に学べる」というのが、このストゥディアシリーズの特長です。

——:たしかに読みやすそうです。まずざっと心理学がどういう学問かが、一冊でわかりそうですね。この本が読めたら、次はどんな本がおすすめでしょう?

ナカムラ『心理学・入門〔改訂版〕』です。心理学の領域は多種多様なので、それぞれがぶつ切りな印象になりがちなんですが、この本では、読者目線のストーリーとして展開されていて、読み物としてもおもしろいです。

ワタナベ:有斐閣のベスト&ロングセラー不動の第1位は『はじめて出会う心理学〔改訂版〕』ですかね。東京大学出版会の金字塔『心理学〔第5版補訂版〕』と並んで、心理学の定番テキストとも言われています。心理学徒なら、どちらかは必ず読んでおくべきでしょう!

——:「定番」を押さえるのも重要ですよね。少し角度を変えて「これが読めたらすごい!」みたいな一冊って、ありますか?

ナカムラ:心理学の奥深さ迷宮?)にどっぷりはまりたい人にはNew Liberal Arts Selectionシリーズ(『心理学』『臨床心理学』『社会心理学』『認知心理学』など)がイチオシですね。分量的にも横綱級ですし、キャッチフレーズにもあるように「大学四年間手元に置いて」全部読み切れたら「あんた大したもんだよ!」というシリーズです。コツとしては、いきなり通して読むのではなく、まずは困ったときの事典代わりに使っていただくのがおすすめです。

3.その次に読むといい本

——:さっきの定番教科書や入門書を読めた方に、さらにおすすめするとしたら、何かありますか?

ワタナベ『潜在認知の次元』などはいかがでしょう。かつて『サブリミナル・マインド』で一世を風靡した カリフォルニア工科大学の下條信輔先生が、人間の認知の「癖」について明快かつおもしろく解説してくださっています。

ナカムラ:私たち人間が相当な部分で「後付け」で考えている、という内容が印象的な本ですね。身近な話題も多く取り上げられていて、教科書だけでなくいわゆる「読み物」としてもおすすめできると思います。これを読むと、ふだんのニュースの見方が変わるのではないでしょうか。

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