見出し画像

有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:経済学編

こんにちは、有斐閣書籍編集第2部です。

今年は新学期が例年と違うかたちになっています。そんななかでも新しく学問に興味をもつ方は多いと思います。そこで、各分野を担当する編集部員に「新入生におすすめする本」を尋ねていきたいと思います。

内容は、こんな感じ。

①分野のかんたんな紹介

今回は「経済学編」、編集部のハセガワワタベに話を聞いていきます。


——:経済学ってどういう学問なんですか? 数学を使うとか、人によっては難しいイメージもある気がしますけども。

ハセガワ:経済学分野を担当しているものの、経済学について答えられる自信がまったくないので(やや亜流だし笑)、ほぼワタベくんに返答をお願いしたいと思います!(押し付ける)

ワタベ:承知しました。先輩の命令であれば、やるしかないですね(笑)。経済学とは何か、という定義はたくさんあると思うんですが、個人的に好きなのは、ライオネル・ロビンズという経済学者の、

経済学とは、さまざまな用途に使える希少な手段をいろいろ用いて、目的を達成しようとする人間がどのように行動するかを、研究する学問である

という定義です。

ハセガワ:ふむ、よく聞く定義ですね。経済学のテキストに載っていることも多いです。

——:なんとなく想像はできますけど、なかなか難しそうですね…

ワタベ:太字にした3つの部分が重要な箇所だと思うんですが、まず「希少な手段」とは、労働力や機械設備など目に見えるものだけではなく、時間やきれいな空気なども含まれます。「目的」にはさまざまなものがありますが、オーソドックスなのは「社会の幸せ」を最大化することではないかと思います。

——:へえええ、経済学で「社会の幸せ」というのは、なんだか意外な感じも。

ワタベ:経済学は株価の予測とかをして、お金儲けをするための学問だと思われることもあるんですが、それは誤解です。ただ、その考え方はちょっと独特かもしれません。

——:独特というのは?

ワタベ:たとえば、応用科目である環境経済学を学ぶと「最適な汚染水準」という言葉が出てきます。初めて見る人にとっては違和感がある表現だと思いますが、これは、汚染物質の排出を減らすことで環境が改善するメリットと、経済活動に支障が生じるデメリットを天秤にかけて…

——:こ、今回はですね、新入生が予備知識なしで「1冊目に読める本」を教えてほしいんです…

②予備知識なしに1冊目に読みたい本

ワタベ:失礼しました。私が下手に経済学の説明をするよりも、『教養としての経済学』などを読んでいただいた方が何倍も効率的だと思います。どんな社会問題や経済問題があるのか、経済学の発想法とはどんなものなのかが、平易な言葉で語られていておススメの一冊です。

——:教養として、ですか。一つひとつのテーマがコンパクトで、読みやすそうですね。

ワタベ:「プロフェッショナルにとっての経済学」という章もあって、経済学の学び方や経済学がキャリアにどう活かされるかといった点も紹介されています。また、日本評論社さんから出ている『経済セミナー』の4・5月号の特集が「実践で活きる経済学」も面白くて、とても参考になります。

——:『教養としての経済学』のほかにも、おすすめの一冊目はありますか?

ワタベ:特におススメなのは、『ひたすら読むエコノミクス』『ミクロ経済学の第一歩』です。

読むエコのなかで、経済学にはふたつの顔があって、「研究の『対象』としての顔と、思考のための『文法』としての顔」があると分かりやすくまとめられていますが、『読むエコ』と『第一歩』はこの「文法」を学ぶために最適な教科書だと思います。著者の伊藤先生のウェブサイト「商学部生への経済学のススメ」には、とてもわかりやすく経済学の特徴がまとめられています。

ちなみに「ひたすら読む」というのは、図表や数式をまったく使わずに説明しているということなのですが、経済学には数式がそれなりに出てきます。ですが、考え方が理解できれば、数式を使う理由もよくわかると思いますので、本格的な勉強を始める前に、『読むエコ』と『第一歩』を読まれることを強く推薦します。

——:なるほど、理由がわかれば、数式も納得して読み進められる、というわけですね。

③その次に読むといい本

ハセガワ:経済学の多様性を知るうえでは『ゼロからはじめる経済入門』がおすすめです。

——:経済学の多様性というと…?

ハセガワ:かつては経済学には近代経済学とマルクス経済学という大きな2つの流派がありました。いまはマルクス経済学は主流ではなくなりましたが、実はみなさんがイメージする経済学の顔だけではない、さまざまな経済学の潮流が存在します。そういった豊かな経済学の土壌を知ってほしいです。『ゼロからはじめる経済入門』は、そういう経済学の多様性を意識した教科書で、はじめて経済(学)を学ぶ人にぴったり。『読むエコ』『第一歩』と一緒に読むと補完的に世界が広がっていいかもしれません。

経済学史を学ぶのも大事ですよ。『経済学の歴史』はおすすめのロングセラー本です。

——:なるほど。今回は、ありがとうございました!!

ワタベ:すみません、一点、言い忘れていました。

——:えっ!?

ワタベ:ロビンズの定義の中の「人間がどのように行動するか」についてです。通常、経済学では人びとは「合理的」に行動すると考えて、さまざまな分析が行われます。この「合理的」という言葉は通常の意味と異なるのですが、それについては『読むエコ』などをご覧いただけると深く理解できると思います。

——:「合理的」ということについては、いろんな学問分野で議論されているみたいですね。

ワタベ:最近は「合理的ではない」人間の行動を分析する「行動経済学」が注目を集めています。有斐閣からは『行動経済学(新版)』という本が刊行されていますが、新入生の方には難しいと思いますので、新書やYouTubeなどから学び始めるのが良いのではないかと思います。行動経済学の文献紹介としては、黒川博文先生の「行動経済学の本棚」がとても充実しています。

YouTubeだと、佐々木周作先生の「ナニワ大学・行動経済学部CH」がとてもわかりやすくておススメですね。

2020.4.15追記

刊行されている新刊の多くは電子書籍版もありますので、紙版と併せてチェックしていただけたらと思います。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?