見出し画像

【究極のバリアフリー】当事者がハッピーになるために

日経COMEMOの意見募集「究極のバリアフリー」で、私はこう書いた

日本では障害者に合った仕事といえば、負担の少ない事務補助や軽作業や清掃といった仕事が考えられがちです。しかし海外の成熟した企業には、既に障害者の専門職や管理職への登用が行われている企業があります。

私が障害者手帳を取って就職活動した時(2017年)にも、障害者に専門職やハイクラスの求人も含めた、健常者と同等の収入や仕事内容の求人への門戸を開いているのは、外資系企業に多い印象を受けました。

私は、某外資系通信社で先述した車いすのリクルーターにお世話になり目標だったニュース翻訳者の職を得て、人生で最も充実した会社生活を過ごしました。仕事はとても大変だったのですが、後悔はありません。また他の外資系に勤める当事者の友人で、日本企業では得にくい働きがいや収入や人間関係を得て充実したキャリアを送っている人も何人も知っています。

私と同じように考えて、究極のバリアフリーを進めようとしている人がいる。

松浦杢太郎さんは、いじめ被害や不登校やうつ病に苦しみ、多くの挫折をし、発達障害と診断された。だが障害者になったことでキャリアを限定されることに抗い、働きがいのある企業ランキングでの上位ランクインや、ジェンダーやLGBTなどの社会問題へのアクションで知られる外資系IT企業のセールスフォース・ドットコムでキャリアを拓いた。当事者としてのリアルな体験から、「発達障害者が取り残されている現状を変えたい」と声を上げ、会社から応援され、障害者採用に関わるようになった。それからは、これまで日本の企業では殆ど見られなかったような、障害者が配慮を得ながら健常者と同等の職種や収入で雇用定着する形を出していった。日本のニューロダイバーシティの先駆けだ。

松浦さんが、6月10日にリンクトインで、障害者手帳のある人を対象にした新たなポジションを13種類公開したことを投稿した。

以下は、セールスフォースの求人が出ているサイト「Workday」で、「障害者採用」で検索した結果一覧。「よくあるオープン枠や集合配置でなく、部門付けでこれだけ多くのポジションを、明確なJob descriptionで募集している会社は、Globalでもとても珍しいのではないでしょうか。目指せ世界一」と松浦さんはリンクトインの投稿で書いている。

画像1

そのうちの一つ、Sales Strategy Associate(上から4番目)のジョブディスクリプション(職務記述書)。

Sales Strategy Associate / People with disability certificate(障害者採用)
Japan - Tokyo

Job Category
Fixed Term

仕事概要
社内データ整備・運営に関する業務

仕事内容
・社内データの整備
・データ導入・クレンジング業務の支援(メイン業務)
・インターネットを用いた企業調査・データ検索
・SalesforceやTableauなどの、ツールを用いたレポーティング業務の支援
・その他サポート業務
※部門状況、就業者の経験・能力等により、お任せする業務内容が変更となる場合があります。

必須スキル
・膨大なデータ整備に対して、コツコツ取り組める方(納期は急ぎではない)
・ご自身の障害を自己理解できており、安定して働く準備が整っている
・基本的なパソコンスキル&比較的高いITリテラシー(MS OfficeまたはGoogle Sheetがある程度使える、
各種コミュニケーションツールの使用に抵抗がない、チャットで困らない程度のタイピングスピード)
・成果物の精度(80%前後)
・問題解決能力(自発的に社内SNSやGoogle検索で調べて、同僚に質問できる)
・コミュニケーション能力
(外部とやり取りをする場合は、対面・電話におけるコミュニケーション能力必須)
・日本語(ネイティブレベル)
・英語の読み書き(翻訳ツールを使いながら、テキストのやり取りがある程度出来る。英語アレルギーが無ければOK)
・比較的マネジメントに手のかからない、ある程度自立して業務出来る方
(2021年5月現在、チームが完全リモートにつき、チャットやビデオMTGなどでコミュニケーションできる。
3-6ヶ月ほどで、ある程度自立できる、キャッチアップ能力の高い方)

歓迎スキル(現時点では無くても可)
・コミュニケーションの行間を読む
・スピード感ある職場での就業経験(例:外資系 or ベンチャー企業を想定)
・新たな業務、パソコンスキル、ルールを学ぶ意欲がある、あるいは新たな変化を受容できる
・データベース設計・整備(SQL)や統計解析プログラミング(Python, R等)スキル

キャリアパス
本業務で得られる経験は、正社員において必要な知識・スキル・考え方につながっています。業務をする際の必要知識や事務的な側面は網羅的に経験することができ、また必要スキルも基本的な部分から身につけることができます。同僚と一緒に業務を進める中で、会社の価値観にも触れることができ、ご自身の仕事についての考え方も自己成長することができます。

勤務地エリア
東京、六本木、名古屋、大阪、白浜、広島、福岡、在宅(フルリモートOK)

これは、障害者向けの求人のなかでは、相当にキャリア構築を考えて作り込まれたもの。

これを見て、「そんなハイスペックの障害者がいるわけないだろ」と思うだろうか?

障害者のなかには、専門スキルに自信がありながら、施設で時給100円の作業や在宅での内職に甘んじている人もいる。

松浦さんが内に秘めた熱い思いを語ったツイートがある。

セールスフォースは営業、アライアンス、エンジニアリング、カスタマーサポート、マーケティングなど全ての部門において、2024年までの5年間で最大2000人を増員、3500人規模にする予定。増員に伴い、障害者の採用ニーズはさらに増える見込み。東京労働局によると、2019年6月現在で同社(従業員数1676人)の障害者雇用数は34人(重度障害者によるダブルカウントを含む可能性あり)だった。

セールスフォースは、職域開拓をしていくうえで、自社だけで行うのではなく、就労移行支援事業所との連携を強化したという。以下のLITALICOの雇用事例に松浦さんも登場している。

LITALICOワークスのような就労移行支援事業所に通って採用された人の中には、職歴のなかった人、高卒の人もいたという。

松浦さんとセールスフォースは、日本の働き方やダイバーシティにも変化を及ぼしていきそうだ。

セールスフォースという企業は、これまで日本では殆どの企業が距離を置いてきた差別や社会問題に向き合い、声を上げる人(特に当事者)を応援し、これまで日本の企業では殆ど見られなかったような具体的なアクションを起こしている。

ジェンダー問題では、米国本社で女性社員が男女賃金格差の問題を提起したことがきっかけで、グローバルで男女賃金格差に予算が捻出され、低い方を引き上げる形で格差が是正された。

LGBT問題では、米インディアナ州で、LGBTへの差別的な法案が成立しそうになった時、従業員が声を上げたことがきっかけで、CEOが法案に反対する姿勢を表明した。(その法案は阻止された)日本でも、『婚姻の平等を支持する署名』にいち早く署名し、同性婚合法化をテーマにしたイベントを開催。

そして障害者問題では…日本の発達障害の生きづらさの中心にいた松浦さんを、障害者採用のポジションに置き、成長したい障害者を差別やいじめのない環境で健常者と同じ職種や収入で活躍できるようにしていったことか。

殆どの企業では障害者雇用は健常者だけで行われている。当事者の視点が入れば、もっと候補者ありきの職域開拓が行われ、変わっていきそうだが、当事者が変化を起こせるようなポジションに入っていくハードルは高い。

よくありがちなのは、当事者が声を上げると無視されたりつぶされたりすることではないか。

周囲の環境がいかに重要であるかを実感した。

当事者がハッピーになるために、当事者が声を上げる。企業も一緒に声を上げる。社会を変える。そんなストーリーが生まれている。

【合わせてお勧め】

セールスフォースは、障害者の雇用やバリアフリーをトップダウンで進める国際運動The Valuable 500にも参加し、参加企業500社の中の「象徴的リーダー13社」に選ばれている。

よろしければサポートお願いします。サポートは100円、500円、1000円、任意の金額の中から選ぶことができます。いただいたサポートは活動費に使わせていただきます。 サポートはnoteにユーザー登録していない方でも可能です。