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障害者雇用代行ビジネス報道に伴った「エスプールショック」に思う

国会も問題視、報道でストップ安

共同通信が1月9日、業者が企業に福祉農園を貸し出すなどの「障害者雇用代行ビジネス」を800社が利用し、障害者が5000人働いていることを報道した。これが昨日ツイッターでトレンド入りした。この報道があってから、障害者代行ビジネスで成長してきたエスプールの東証プライム株価がストップ安になった。「これからは障害者雇用代行ビジネスは危ない」と懸念した投資家が売りに出たのだ。「エスプールショック」とも呼べそうな騒ぎだった。

2018年頃から既に、こうしたビジネスがあることは障害者や就労支援者の間では知られ、メディアも取り上げてきた。今年1月のこのタイミングで共同通信が注目したのは、昨年12月の改正障害者総合支援法の成立過程で、国会の付帯決議の1つとして「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」という一文が入ったことも背景にある。

代行ビジネスは「違法ではないが労働とはいえない」と国会で指摘され、問題視されている。「完全に会社から遠く離れたスペースで、障害者に月十数万円の給与を払って軽作業をさせ、社員の誰かが一緒に関わることもなく、出来上がった野菜を社員に無料で配ることを、果たして労働といえるのか」ということだ。野党に比べて政権与党が対策打ち出しに消極的だった背景もあり、代行ビジネスはここまで拡大して、もはや縮小させることは困難なところにまできていた。

「同じ職場で雇えない」企業「同じ職場で働けない」障害者

昨日、自閉症支援に携わる人がツイッターでスペースを開き、代行ビジネスを考える議論が交わされた。それを筆者も聞いて、考えた。

国は障害者雇用率を2.3%に引き上げ、雇用率達成指導を厳しくしている。一方で、AIやRPA・外注化の浸透で、企業での障害者雇用向けの業務切り出しは限界となってきた。これまで障害者雇用で主流だった身体障害者は軒並み定年を迎え始めており、新規採用で中心となる障害者は精神・発達障害に移った。しかし精神・発達障害者の雇用は、これまでとは異なるノウハウを必要とした。

そうしたなか、受け入れ体制に困難を抱えながら雇用率を達成したい企業側のニーズから、企業の外に軽作業のできるスペース(福祉農園)を作り、そこで障害者に働いてもらい、雇用したことにする、という代行ビジネスが生み出された。筆者が昨日聞いたツイッタースペースには、実際に福祉農園に通っている障害当事者が出演しており、障害者のなかにも、一般の職場で落ち込んで居場所をなくし、福祉農園に来た人がいる、という話も聞いた。エスプールは、「同じ職場で雇えない」企業側、「同じ職場で働けない」障害者側、双方の利害を絶妙に一致させて、ビジネス拡大につなげたといえる。

「自社で雇うコストを考えると、法定雇用率を達成するよりは、納付金を払った方が理にかなっている」今の日本の企業には、そう考えるようになってしまう構造的な問題がある。総合職での新卒一括採用中心の雇用、長時間労働…。こうした職場環境になじめる障害者は多くない。

「コストやリスクを避けるために分離雇用」でいいのか

雇用に困難を抱える現状は、「伝統的な日本企業」だけではなく、「先進的」とみられている企業でもみられる。

世界的に「働きがいのある企業づくり」やSDGsを掲げてきた巨大IT・セールスフォースで、急激な全体の増員に応じて急激な障害者採用が進められたなかで障害者雇用訴訟が起き、また過去13年間の大半の年で法定雇用率未達で、年間160万~485万円の納付金を支払っており、企業名公表リスクを抱える状態だったという実態が明らかになった。

セールスフォースだけではない。ダイバーシティに先進的とみられている外資系企業だが、その日本法人では労働局への情報開示から法定雇用率は万年未達だった、ということは珍しくない。

納付金の金額も不足数1人当たり5万円で、(最近業績悪化したが)勢いも資金力もあるハイテク企業にとっては、年間160万~485万円の納付金など何ということはないのか…

セールスフォースの障害者雇用で興味深い点がある。それは、特例子会社などではなく、自社内の各部門・チームで雇用しようという方針だ。同社と提携する就労移行支援事業所によると、同社の障害者求人の多くは、一般求人同等の職種や年収350万~550万円を提示しており、契約社員採用だが正社員登用も示していた。

ただし、東京地裁で係争中の障害者雇用訴訟で、同社で採用された障害者の配属先は「人事部門」で、実際に働く部署が「各部門・チーム」であったことがわかった。原告の障害者採用の元社員は、「障害者ゆえにこうした処遇は、当初の業務説明と異なる条件開示義務違反ではないか」と訴えている。

また、2020年前半期から人事部門に、障害者の配属される「アビリティサポートチーム」が立ち上げられていることが、関係者からの話でわかっている。アビリティサポートチームの詳細は非公開。これは特例子会社とどう違うのか。

同社について、一般求人同等の職種・給与水準は画期的ではあった。だが、訴訟に発展した問題や、実際の採用者数や定着率、正社員登用率が開示されていない点は気がかりだ。

あくまでも「同じ職場で働く」方針を取ってきたセールスフォースが、こうした状況になっているのを踏まえると、あたかも「業務を用意できないし、健常者とのトラブルでそれこそ裁判沙汰を避けるためにも、障害者は特例子会社や福祉農園に任せた方がよい」かのような印象を、ますます強めてしまいかねないのではないか…。

セールスフォースが仮に、「今後は方向転換し、農園ビジネスで障害者雇用数を満たす」となっていったら…。

「同じ職場に入れるから訴えられる」ではなく、障害の有無に関わらず法律の基準や「ビジネスと人権」を守ることを怠った雇用管理をしていれば訴訟もありえる、ということだ。安易に障害者雇用をコストやリスクと結び付ける見方で分離雇用が進むことはあってはならない。

障害者雇用代行ビジネスは、違法ではないが法律の趣旨に反して不適切。かといって同じ職場での雇用ではトラブル発生。そうした現実に思考停止している人が、日本には多くいる。

海外では日本でいう一般枠で雇用を増やし続けている。日本でも不可能ではないはずだ。

障害のない人とある人が一緒に関わり、互いを知ることの大切さを繰り返し伝えていく。

1月12日続報「エスプールショックを受けた会社側反論から見えたもの」

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