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エスプールショックを受けた会社側反論から見えたもの

昨日1月11日18時頃公開した「障害者雇用代行ビジネス報道に伴った『エスプールショック』に思う」が、今日16時までに200ビュー程度を記録した。

リンクトインにも投稿したところ、583回閲覧され、コメント欄で現場目線の議論が交わされた。

1月11日、貸農園での障害者雇用支援事業を運営するエスプールプラスの親会社であるエスプールが、「当社に関する一部報道について」とするコメントを発表した。

私見だが、コメント発表はかなり残念な内容に見えた。共同通信の9日報道「障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用」について、「当社サービスを一方的に否定する立場からの見解」「当該報道機関の一方的な意見に偏ったものであり、障害者や家族、利用企業、農園を誘致した行政など、当事者の声がほとんど反映されておらず、当社事業の実態から大きく乖離した内容」とするなど。

よくありがちな、事業を支持し後押しする立場からの意見だけを取り入れ、それとは異なる立場からの真っ当な指摘には耳を傾けることなく「一方的な意見の押し付け」とレッテルを貼り敵対的な姿勢が見えるものだった。「自分たちはいいことをしている」という善意の意識も見えた。「声の大小に左右されることなく、様々な意見に耳を傾けた上で議論を深め、障がい者雇用のあるべき姿が形成されることを望みます」という一文に気を取られると見落としてしまいそうな問題があった。

エスプールプラスのビジネスモデルには、障害者雇用支援者の間でも意見が分かれている。

働く障害者や家族、利用企業、農園を誘致した行政など、事業の利害関係者の声は、これまでにも各報道機関で取り上げられてきた。一方で、今回のように疑問視する声は、2018年頃からずっと上がっていたにもかかわらず、取り上げられることは相対的に多くなかった。

2022年5月には障害者の転職支援会社KindAgentが、障害者1000人のうち「農園型障害者雇用に7割が否定的意見」とするアンケート結果を発表していた。

エスプールプラスの支援事業の是非とは別に、支援事業の質への問題提起に理解を示す声もある。成果物の用途や、障害者の定着状況について、エスプールのコメントは十分に説明していない。(エスプールプラスのホームページの企業担当者向け情報に「入社日より1年後に継続している障がい者の割合は92%を超えている」との記載はあり)

”栽培された野菜の活用は多岐に渡っており、社員食堂で活用されることや一部小売業のお客様では実際に販売も行われています。記事では、野菜が外部に販売されないことを重視しているようですが、社内で消費される野菜に対する従業員の満足度は高く、また、子ども食堂への寄付など社会貢献にも大いに役立っており、健康経営の強化やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進、ESG 経営の強化など、お客様企業 News Release - 2 - の経営方針に沿った形で農園の利用が行われております。このように企業価値の向上に間接的に携わる部門に所属する従業員について、「本当の意味での雇用や労働とは言えない」という評価をすることは適切ではないと考えます。”と述べるにとどまっている。

コメントの結びには、農園に関わる関係者、株主、投資家に対して、「今回の報道にて多大な心配をお掛けしておりますが、引き続きご支援賜りますようお願い申し上げます。」。何よりも内輪を気にかけているようだ。

1月9日21時に共同通信の報道が出たことで、エスプールの株価はこの2営業日で23%の急落となっていたが、11日のエスプールの反論コメント発表で過度な先行き不透明感が和らいだことから、12日のエスプール株は6.89%急反発。すぐにコメント発表したのは良いのだが…。

共同通信はどう再反論するか。共同通信の記事は見出しと合わせて300字程度で、「作った野菜が活用されず廃棄されていることがある」「季節により1日待機状態になることがある」「当事者も支援者も定着しない場合がある」という具体的な問題提起の声までは出ていない。

そもそも今年1月のこのタイミングで共同通信が報道したのは、昨年12月の改正障害者総合支援法の成立過程で、国会の付帯決議の1つとして「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」という一文が入ったことも背景にあった。

ある障害者雇用支援事業者は、福祉事業は「行政の制度変更があればたちまち立ち行かなくなる」と語る。

こうした流れについて、エスプールのコメントは答えていない。

報道を受けて11日に自閉症支援に携わる人が開催した、ツイッターのスペースの議論では、実際に福祉農園に通う障害者も出演して、声が紹介されていた。その人物は、社内で居づらくなる事情から、匿名で、所属企業を明かさずに語った。「福祉農園の関係者は、善意で取り組んでいる。ただ、代行ビジネスを疑問視する見方があることは、社内ではタブーの話題」。制度変更で事業が停止されるなどのリスクについて、主催者から尋ねられると、「当事者は今の状態が永遠に続くとは思っていない」と答え、変わったらその時に考えるという姿勢を示した。


エスプールは、「同じ職場で雇えない」企業側、「同じ職場で働けない」障害者側、双方の利害を絶妙に一致させて、ビジネス拡大につなげたといえる。

ツイッターのスペースの議論で、実際に通っている障害当事者からは、一般の職場で落ち込んで居場所をなくした人が農園に来ることもある、と聞いた。福祉から次のステップへ移れない人もいる。エスプールプラスのビジネスが善意でそういう人の一部を吸収している構図も見える。
その雇用も継続的かどうか…。法律的にグレーゾーンのところである以上、行政の方針変更というリーガルリスクが高すぎるビジネスといえる。

支援事業の質が担保されているか、第三者の目が行き届くようにすることは必要とみられる。「出来上がった作物が活用されず廃棄されている」「季節によって一日待機状態になる」という実態があれば、やはり問題。

企業の雇用率のかなりの部分をこうした事業が埋めれば、真面目に健常者と同じ職種で働くことを目指す障害者の雇用機会創出が全体として減退する可能性もある。そのことへの問題意識も持ち続けたい。

(1月14日続報)「貸農園での障害者雇用代行」イメージに、胡蝶蘭栽培で日本の福祉を変える経営者の思いを聞いた。

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