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「ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち」レビュー

「ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち」アマゾンのレビュー書きました。


「SDGsブランディングのリスク。それぞれの立場で知見を共有しチェックを」
2022年9月1日に日本でレビュー済み


「世界経済フォーラム・ダボス会議に参加するようなグローバル企業経営者(ダボスマン)が提唱する、ビジネスと社会貢献の両立を目指すステークホルダー資本主義に期待する向きがある。しかしながら、リーダーがそのようなことを提唱する企業には、一見合法的な手段で大規模節税を行い、米国政府への納税額をゼロにしている企業が。米国では政府による社会福祉、教育、雇用訓練、公衆衛生の事業は悪化。コロナでそれらが危機的状況に。「自分たちなら政府以上に良い形で解決できる」とダボスマンは言うのだが…。「それは政府、さらにその支援を必要とする人たちからの富の収奪である」と、ニューヨークタイムズ経済記者である著者は主張。著者は、セールスフォースのマーク・ベニオフCEOなどと直接対決する。

本書は強いトーンで警鐘を鳴らしている。実際、こうした企業の行いにはSDGsウォッシュと指摘されても致し方ないものがある。救世主や変革者のようなメッセージを、本質的に理解しているように発信しており、一定の取り組み自体は事実だからこそ、「強盗男爵」というふうには見えづらい。しかしよく調べてみると、発信されているイメージと全く食い違う側面が出てくることもある。そして高額報酬を手にする人がいる一方で、泣いている人が大勢いる。

告発された側は、これを受けて今後どう打って出てくるのか。

本書には日本に関する内容は少ないが、登場する企業の日本法人でも既に問題が起きている。アマゾンの倉庫の労働環境については、これまでにも各国で問題視されており、日本でもジャーナリストによるルポが出され、労働組合が結成されている。もっとダボス会議の理想と現実を物語る事象もある。ダボス会議発の国際障害者運動では「象徴的リーダー」に選ばれたセールスフォースだが、日本法人では障害者の雇用について過去13年間で大半の年において国で定められた基準を満たしておらず納付金を支払い、2020年には行政への報告が適切にされていなかった問題も見つかっており、2021年には発達障害者差別と退職勧奨(事実上の退職強要)で裁判が起きており、障害者団体が傍聴を呼びかけている。一見真っ当なビジネスの論理を装って近づいてくる価値観や判断基準が判決のなかに入れこまれていくことによって、今まさに本書で警鐘が鳴らされているような、コロナに乗じた労働者の権利はく奪とみられるようなことや、またそこから現に生まれている不当な格差や貧困といった現実を、日本の司法が追認して上塗りするということを意味することにならないか。

ではどうしたら? 著書は、「暴動も、革命思想も必要ない。必要なのは、ずっと手元にあった道具を賢く使いこなすことだけだ。その道具が、民主主義である。」とだけ結んでいる。

コロナやウクライナ情勢に比べ、巨大企業のこうした行いについては相対的に社会の人々に伝わっていない状況がある。大企業を糾弾するのは無駄でばかげているとみる向きや、コンプライアンスや社会的責任を怠った企業が擁護され、被害を訴えたり改善を求めたりする側が攻撃的な誹謗中傷を受けるような動きもある。そうした動きから見えてくるのは、コンプライアンスや社会的責任の問題が山積みしている実態に目を背け、企業の利益のみが優先され守られるべきとする相も変らぬ姿勢である。色々と目を付けられて機会を失うことを気にして、フェイクや詭弁に流されたり、思考停止や発言を控えている人は少なくない。民主的ガバナンスの危機である。だが「これっておかしくない?」という小さな疑問から、世論は高まり、変化は起きる。

ビジネスリーダーの社会課題解決に向けた発言に共感し、行動するようになった人、もっと言えば入社して働くことになった人は多い。そうした人たちを裏切ってしまうというのが問題である。また、「明日からアマゾンやセールスフォース使うのやめます」というわけにもいかないからこそ、利用者は困ることにもなる。ビジネスリーダーは、信頼のために、小さな声にも耳を傾け、どんな社会を作っていきたいのか、そこがぶれないことが大切である。社会の人々は、それぞれの立場で、ビジネスリーダーや巨大企業の動きについて知見を共有し、チェックすることが大切である。」

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