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セールスフォース日本、役員のパワハラ申立てたマネージャーを報復禁止に反し解雇した疑い浮上。出社めぐっても対立…東京地裁で係争中

2人目の提訴、今度はセキュリティチーム

筆者は独自ルートで、セールスフォース日本法人から「不当解雇された」とする日本人男性が、2022年8月22日に東京地裁に地位確認を求める訴えを起こし、現在も継続中であることを確認した。

21年7月から継続中の、同社アライアンス本部においての発達障害者雇用訴訟に続き、2人目の社員からの提訴。

訴状によると、男性は21年9月1日に、同社の日本と韓国のセキュリティオペレーションのマネージャーとして入社し、物理的な安全性やセキュリティプログラムを担い、セキュリティチームを管理監督する職務を担っていた。しかし22年7月15日に解雇となった。

会社側から男性側に送られた解雇理由証明書(独自ルートで入手)

会社側から送付された解雇理由証明書によると、男性の解雇は「試用期間中にセキュリティオペレーションのマネージャーとしての最低限の職務職責を果たせなかったこと」によるとされ、「週4日のオフィス勤務であるにもかかわらず、雇用期間中のオフィス勤務が不足していた」「主要なステークホルダーと協力関係を築くことができなかった」「関係部署のメンバーからの妥当な批判に対して根拠のない申し立てをした」などと示された。 

男性は、「これらの事実はない」と主張。オフィス勤務日数が少なかったことと、ステークホルダーとの関係が悪化していたことは認めている。男性は、営業の顧客管理クラウドシステムを提供する米国系巨大IT企業である同社において、日本と韓国にあるオフィスのセキュリティオペレーションを、出社せず在宅勤務、リモートワーク中心で行っていた。男性が働いていた2021年9月~2022年7月当時、同社では従業員のほぼ全員が、リモートワーク中心で働いていた。

外資系はハラスメントに厳しい…はず?

男性が送った、パワハラ被害の申し立てメール。復職を目指すが被害の状況を思い出すのを心配していることなどをつづっている(独自ルートで入手)

男性は22年2月13日、Employee Relation(ER)にパワーハラスメント被害の申し立てメールを送った。「古参社員が新たに入った社員に、今までのやり方や基準を共有しようとすることなしに、様々なことを彼らの過去の経験や知識に基づいて判断し、自ら優位に置くことで、私1人を劣悪な立場に置いた」などとつづった。その一つとして、同社取締役会のビジネスオペレーション担当役員が、男性の直属上司(同社オーストラリアオフィスに勤務)に、関係部署9人からの男性について「メンバーに対して敵対的・攻撃的」などと否定的にフィードバックした人物評をメールで伝えていたことを挙げていた。しかし5月17日、ERの調査結果で男性の申し立ては否定された。

男性は2月14日から、「職場でのいじめやパワハラがあったことによる適応障害」と診断されて休職。4月25日に職場復帰の意思を伝えた。しかし5月16日に突然、退職勧奨が始まった。ハラスメントを否定するERの調査結果を伝えられた直後だった。男性はこの時、ハラスメント調査を担当したのと同じ人物が退職勧奨にも現れたのを見て、強い不信感を抱いた。セールスフォース日本法人では、ハラスメント相談窓口が外部に独立した形で設置されていない。男性のケースでは、ERがハラスメントの社内調査と、退職や解雇の手続きを担当していた。これら二つの担当者として現れたのは、人事担当者N氏だった。

在日米軍の犯罪捜査にほぼ20年携わり、危機管理コンサルタントに転じて14年グローバル企業数社を渡り歩いた男性は、「1人の社員に対して、ハラスメント調査と解雇手続きを1人の社員が同時に行うことは、調査の公平性・公正を期待することはできない。調査は公平性に欠けている」と指摘した。N氏は「ハラスメント調査は公平に行われた」と説明し、男性の解雇との関わりを否定した。

男性は、「人事担当者はハラスメント調査で知り得た情報を解雇理由に挙げている。会社の報復禁止ポリシーにも反することだ」と主張。

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出社めぐり裁判での主張は対外発表と違う?

東京地方裁判所(7月18日)

「出社が少ない」ことを理由とする解雇に根拠はあるのかも、争点の一つとなっている。

男性の出社回数は、2021年9月に1回、10月に0回、11月に3回、12月に8回、22年1月に7回、2月に4回、4月に0回、5月に3回だった。今年61歳の男性は、入社後の21年9月6日、介護を要する高齢の義理の母への感染リスク減を理由に、コロナ期間中、直属上司に対して出社回数を週1、2回に変更する許可を求め、直属上司から出社義務を緩和することを認められていた。

この裁判で、会社側は「在宅勤務について定めた『フレックスチームアグリーメント』が21年8月25日から適用され、『フィジカルセキュリティマネージャー』である男性は週4日の出社を求められていた」としていた。

だが男性は社内資料で、フレックスチームアグリーメントは実際には21年8月25日からではなく、22年1月1日からの適用だったことに気づいた。7月18日に東京地裁でウェブにより行われた第7回期日において、男性の代理人の森川文人弁護士は、フレックスチームアグリーメントの適用日について反論。

セールスフォース米国本社の最高人事責任者ブレント・ハイダー(当時)は公式ブログで21年4月12日、「少なくとも21年12月31日までは在宅勤務を継続する」と発表。21年11月17日の公式ブログでは、「在宅勤務の指針を定めた『フレックスチームアグリーメント』をグローバルで導入する」と発表していた。

森川弁護士は筆者の電話に、「会社側の言う『フィジカルセキュリティマネージャー』という肩書きのせいで、なんとなく出社しないとできない仕事のイメージにさせられているが、男性はガードマン、警備員として雇われたのではない。出社しなくてもできる仕事であれば、裁判所がきちんと判断してくれれば」と述べた。

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役員「答えてはいけないことになっている」

男性はまた、解雇をめぐるプロセスにおいて、「会社は広い範囲で解雇できるように、試用期間を会社都合で一方的にずらし、私は不利益を被った」と主張。

会社側は、「22年4月25日のミーティングで、人事担当者N氏は男性の試用期間を同年5月16日までに変更すると伝えた」とする。試用期間中の留保付解約権を持ち出し、解雇の自由が広く認められるとした。これに対し、男性は、「ミーティングの目的は本来試用期間延長とは全く関係ないものだった」「会社は試用期間満了日と退職勧奨日を合わせて、試用期間満了における解雇を間に合わせようとした」と主張。

裁判所の調書によると、会社側弁護士はこれを受けて、「主張を試用期間中でない普通解雇としての主張に変更するのを検討している」という。

同社のビジネスオペレーション担当役員は、筆者の電話に対し、「裁判の件については一切答えてはいけないことになっている」と答えた。人事のN氏、広報担当者にもメールで事実関係を問い合わせたが、回答はない。

9月13日に東京地裁でウェブによる第8回期日が予定されている。


9月5日追記)「男性は、営業の顧客管理クラウドシステムを提供する米国系巨大IT企業である同社において、日本と韓国にあるオフィスのセキュリティオペレーションを、出社せず在宅勤務、リモートワーク中心で行っていた。男性が働いていた2021年9月~2022年7月当時、同社では従業員のほぼ全員が、リモートワーク中心で働いていた。」という文章を追加。
10月27日訂正)「5月17日に突然、退職勧奨が始まった」としていましたが、正しくは5月16日でした。

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