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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2017年7月の記事一覧

「直感」文学 *本の音*

「直感」文学 *本の音*

 「ページを捲る音が好き」

 彼女はそう言って、僕が読んでいる本に耳を近づける。

 「ちょっと、読みづらいって」

 「いいじゃない。ここで静かにしているだけなのだもの」

 僕の右手のすぐそばには彼女の顔があって、僕は本に集中することが出来ないでいた。

 「ごめん。やっぱり読みづらいんだよ」

 そう言うのに、彼女はそこから離れようとはせずに、黙ったまま、僕がページを捲る音を静かに聞いてい

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「直感」文学 *静かで、暖かな夜に。*

「直感」文学 *静かで、暖かな夜に。*

 夜は更けた。

 こんな時間まで会社にいることも、いつの間にか習慣のようになってしまっている。

 だけど東京にいる分には、いくら夜が更けようが、それはかりそめの夜のようで、あまりにも深い夜を感じられずにいるのが正直有り難かった。

 きっと、今僕がいるこの周辺には、僕のようにまだ仕事をしている人が山のようにいる。そう思えて、変な連帯感みたいなものを勝手に感じていたりする。

 東京の夜は、静か

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「直感」文学 *ある一点に*

「直感」文学 *ある一点に*

 ひとつの部分をずっと見続けた。

 その一点だけに集中するように、ずっと、ずっと。

 そうしているといつの間にか、いつか見えていた他の場所には何も見えなくなってしまう。

 僕は今、その一点以外の物事の判別が付けられずに、その一点だけが僕の頭に訴えかけてくる。

 そこはただ一つの、本当になんでもない一点。

 その一点に溶け込むようにして、ただ、静かな眼差しのままで、そこにある物事の全てを一

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「直感」文学 *ベージュを愛して*

「直感」文学 *ベージュを愛して*

 あの人はベージュを愛した。

 ただそればかりの色を纏い、ただそればかりの色を持った。

 家の中はベージュに染まり、おそらく彼の心までもが、そのベージュに染められているのではないかと思う。

 あの人にベージュはとてもよく似合った。

 あの人がベージュでない時を、私は知らないけれど、それは私に”似合う”という印象を強く刻んで、またその他の色が”似合わない”とも思わせた。

 あの人はベージュ

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「直感」文学 *光り輝く、その宇宙の中で*

「直感」文学 *光り輝く、その宇宙の中で*

 僕がベッドに横たわると、その天井には無数の星が散らばっていた。

 星が好きな僕のために、パパが作ってくれたんだ。

 僕はいつも寝る前に

 そのいくつもの星を眺めながら、ゆっくりと意識を天井に広がる宇宙の中に持っていった。

 部屋の電気を消して、

 窓から差し込む微かな街灯の明かりだけを頼りに、僕はいくつもの星を見つけた。

 それらの星を線で繋ぐ。

 頭の中だけで。

 そうやって、

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「直感」文学 *チェック、チェック、チェック*

「直感」文学 *チェック、チェック、チェック*

 チェック柄。

 それに私は心を奪われ続けている。

 いつからそうなってしまったのか、私には想像も出来なかったけれど、気付けば私はチェックに心を奪われて、心のずっと奥の方に眠る、チェック柄を欲する心がズキズキと疼きだす。

 「チェックをおくれ」

 そう言われているようで、なんだか少し心地良い。

 私は自分の心に応えるようにして、チェック柄のシャツを着る。

 そうすると心は喜んで、素直に

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