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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2017年3月の記事一覧

「直感」文学 *珍しき自然災害*

「直感」文学 *珍しき自然災害*

 「台風が近づいてるってよー!」

 リビングでテレビを見ていた母の声が、自分の部屋にいた私の元まで届いた。声量から言って、私へ向けた言葉であるのだということは容易に分かる。

 「そーなの!」

 私はなんとなくその言葉に答えてみたけれど、台風が近づいていることくらいは私だって分かっていた。ニュースくらいは一応目を通しているのだから。

 台風がこの町に来るなんてもう随分と久しぶりなんじゃないだ

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「直感」文学 *小さなパン祭り*

「直感」文学 *小さなパン祭り*

 パンを食べに来るなんて、僕からしてみれば馬鹿げてる。

 そう思っていたのだけど、蓋を開けてみればその「パン祭り」とやらの地域イベントには入場制限がかかる程に人が溢れていた。

 「信じられない……」

 あまりにもストレートな僕の感想に、僕をここまで連れ出したケイコは笑っていた。

 「そうよ。パンって世間的にすごく人気なんだから」

 そう誇らしげに言うけれど、やっぱり僕にはまだその現実を受

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「直感」文学 *夜の月*

「直感」文学 *夜の月*

 金曜日。

 酔いが回り、辺りの視界はどうしようもなく歪んでいた。

 それはべつに大したことではないのだ。

 それよりも、家に帰ってから妻と話を交えなくてはいけないことの方が僕の気持ちを十分に落としていた。

 離婚。その言葉が持つ重みをしったのはつい最近のこと。妻に言われた「私たち別れた方がいいと思うの」といった言葉を聞いてからだ。

 「離婚したいのか?」

 僕の言葉は何の意味も持たず

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「直感」文学 *すぐに終わるから*

「直感」文学 *すぐに終わるから*

 「ほら、すぐに終わるから目を瞑ってて」

 カオリはそう言いながら、僕の手を取った。

 「なに?なにするの?」

 目を閉じるだけで感じられる、不可思議な不安の中に僕はいて、そしてなぜだかほんの少しの期待感が混ざっている。

 「いいから、ちょっと手を開いて」

 カオリは僕の手をゆっくりと開く。その温もりを感じながら、僕はぴっと目を真っ直ぐに閉じたままでいたのだ。

 どうしてこんなにもカオ

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