「直感」文学 *夜の月*
金曜日。
酔いが回り、辺りの視界はどうしようもなく歪んでいた。
それはべつに大したことではないのだ。
それよりも、家に帰ってから妻と話を交えなくてはいけないことの方が僕の気持ちを十分に落としていた。
離婚。その言葉が持つ重みをしったのはつい最近のこと。妻に言われた「私たち別れた方がいいと思うの」といった言葉を聞いてからだ。
「離婚したいのか?」
僕の言葉は何の意味も持たずに、ただ空虚にその空気の中に消えてしまった。
それは、妻の頷くその仕草でよく分かった。
「仕事から帰ったらもう一度話そう」
僕はそう言って家を出てきた。
それから長い一日は終わりを迎え、同僚に誘われるままに酒を飲んだ。
時計は12時を回っている。
「今日仕事が終わったら話すって言ったじゃない!」
そう言葉をあびせられたらどうしようか。
そんなことを考えながら、家へと続く電車へと乗り込んだ。
月はただ、僕を照らす以外には何もしてくれなかった。
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