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山崎光学写真レンズ研究所(前編)

2024年1月31日、初めて来た新宿区の路地を彷徨う。昨年末に購入した沈胴ズミクロンには一定の満足をしているが、逆光環境でF16辺りまで絞ると羽の形が写真に残ってしまう現象に少し悩んでいた。しかし、購入店で貰った販売前に実施したメンテナンス明細にも「今後修理できないかも」と書いてあったし、一応伺ったライカストアでも修理は当然に受けてくれない。基本的には「それがオールドレンズの味ですね」と言われ、経験のない私ことアラサー会社員はそれで納得した。


診療所

そうした中、広大なインターネッツでいくつかのブログを発見する。それは同じ沈胴や固定鏡筒のズミクロンを預けたところ、見違えるように良くなって帰ってきたという場所の話。それが、新宿区の住宅街にある“山崎光学写真レンズ研究所”だ。おそらくホームページはなく、Googleマップ上に登録されている電話番号へコールするのが唯一の連絡手段だろう。ここで何をしてくれるかというと、レンズの磨きを含めた“治療”だ。私のように縋る思いで来るユーザーは少なくないだろう。

研磨に関しては賛否あるようだ。私は特にオリジナルを尊重するこだわりがない。以前のオーナー時代に何らかの処置を受けている可能性もあるわけで、それは私に分かる範疇ではないし。加えて、私の沈胴ズミクロンは所謂“前ピン”すぎる傾向にある。ジャストでシャッターを切っても、ピンはその手前に。そのうちに慣れてきて、前ピンを考慮して撮ってみたり、熱心に合わせるのを諦めてもいた。ただ、改善するならばそれに越したことはない。そんな気持ちで最初の電話をした。

古希ズミクロン

with M11モノクローム

with a7IV

入院

道に迷ったが、どうにか時間通りに到着。先に息子さん(であるはず)とお会いした。電話した際に「問題がある状態が反映されている写真はありますか?」ということだったので数枚をプリントし、購入店のメンテナンス明細書と共に持参した。お渡ししたレンズを様々な機械で見ていき、こちらから悩みを言わずとも当てていく。そのうちに先代?の山崎和夫さんがいらっしゃったのでご挨拶をした。私がプリントしてきた写真をパッと見て「こりゃあ、写真になりませんねぇ」と言う。

お二人とも和やかな雰囲気の中、ズバッと問題点を指摘してくれて安心したし、何よりも面白かった。「このレンズは状態が悪いから、もっと値切れば良かったですね!」とのこと。前述したように、私自身の経験不足から“味”と言われればそういうものだと思っていた。そんな旨を伝えると、和夫さんは「いや、諦めるのはまだ早いですよ!」と微笑む。それはもう、スラムダンクのようだった。または医師と患者の親族。同時に、ここへ持ってきて良かったと心から思った(入院前だけど)。

実際、オールドレンズの味というものは存在しているはずだ。加えて、それらに現代レンズの描写を求めるのも違うだろう。けれども、オールドレンズにも評価のラインはあるようだった。すべての問題点を1つに括って味わいだと表現するのは、必ずしも正しくはないのかもしれない(一方でそういう楽しみ方もありそう)。さて、私の沈胴ズミクロンはレンズ内のコーティングが剥がされているらしい。具体的な治療方法を伺い、連絡先を記入して研究所を後にした。しばしの別れだ。

実際にプリントして持参した中の1枚

これまで

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