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舞台 「一度しか」 観劇レビュー 2022/10/07


【写真引用元】
ほりぶん Twitterアカウント
https://twitter.com/horibun2021/status/1570273213644697604/photo/1


【写真引用元】
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公演タイトル:「一度しか」
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
劇団・企画:ほりぶん
作・演出:鎌田順也
出演:川上友里、墨井鯨子、藤本美也子、櫻井成美、上田遥、木乃江祐希、神永結花
公演期間:9/29〜10/10(東京)
上演時間:約85分
作品キーワード:コメディ、日常、昭和レトロ、笑える
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


若手劇団の登竜門となっている、森元隆樹さんによるオリジナル事業である「MITAKA "Next" Selection」による公演を観劇。
「MITAKA "Next" Selection」は毎年2〜4団体が選出されて、三鷹市芸術文化センター星のホールで公演が上演されている。
過去には、このフェスティバルから「モダンスイマーズ」「ままごと」「iaku」「東京夜光」などが公演を行っている。

今年は、「やみ・あがりシアター」と「ほりぶん」の2団体が選出され、「やみ・あがりシアター」は観劇済みで、今回は「ほりぶん」の公演を観劇。
「ほりぶん」は2014年に劇団「はえぎわ」の川上友里さん、女優の墨井鯨子さん、そして劇団「ナカゴー」の鎌田順也さんの3人で演劇ユニットとして結成された団体。
過去には紀伊國屋ホールでお笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんをキャストに迎えての公演経験もある。
今回は「ほりぶん」の第10回公演となり、私自身は当劇団の観劇が初めてとなる。

物語の舞台は、堀船という地名のとある団地。
その団地に住む主婦6人による日常コメディ作品となっている。
その主婦というのは、その団地の自治会長を務めるベテランのおばさんもいれば、新婚の主婦もいたりと年齢層が幅広い。
その主婦たちが、日常生活を通じて日々の不満や日常で起きた些細な出来事を井戸端会議のように共有しながら会話劇が続いていく。
しかし、その団地にはかつての住人で既に亡くなっている主婦の亡霊も登場して予期せぬ展開へと向かっていく。

「ほりぶん」という団体自体「MITAKA "Next" Selection」に選出されるまで存じ上げず、近年の観劇では珍しく、存在を知ってから初観劇のスパンが私の中では非常に短い団体だった。
普段は満を持して初観劇となる団体が多いので。
つまり、普段私がチェックしている演劇団体とはスコープが全く違う作風の劇団だったという感じで、非常に新鮮な演劇体験を味わうことが出来た。
世界観は「サザエさん」風で、主婦たちは全員昭和レトロな柄の色とりどりなワンピースを着ていて、日常を題材に扱った喜劇といった感じで、展開もほのぼのとしていてスローだった。
ただ、近年の日常系アニメとは作風は全く異なり、どことなく昭和や下町っぽさを感じさせる、昭和の漫画の世界が演劇としてそこでは展開されていた感じだった。

脚本の精巧さや緻密さ、展開のスリリングさが好みな私にとっては物足りず、客層も年齢層高めな方が多くて彼らの笑いが途切れない感じが、個人的にはアウェイな空気感を喰らってしまって楽しめなかった。
しかし、決して作品は駄作という訳ではなく、風に飛ばされて紙が顔面に張り付く演出や、自転車で大量に果物・野菜を運び込む演出が、昔の漫画に登場しそうなシチュエーションで面白く感じた。

そしてキャストが全員素晴らしかった。
皆キャラクターが尖りすぎていて思わず笑ってしまう。
声の出し方、体の使い方がスローテンポなのだけれど独特で味があった。
ここにも昭和漫画風の演出が詰め込まれていた。

私は刺さらなかったが、昭和漫画が好きな人、特に「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」「コボちゃん」といったほのぼの大衆アニメが好きな方にはオススメしたい作品だった。


【写真引用元】
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【鑑賞動機】

今年は「MITAKA "Next" Selection」に選出された団体は全て観劇しようと決めていたので、選出された流れで観劇することになった。先述したとおり、「ほりぶん」は「MITAKA "Next" Selection」に選出したタイミングで知った団体だったので、いつもは数年間団体の存在は知っていたけれどいつも観劇が叶わず満を持してということが多いのだが、今回はその逆で認知から初観劇までのスパンが短かった。
ただ、川上友里さんはワタナベエンターテインメント×オフィスコットーネで2021年9月に上演された「物理学者たち」で、上田遥さんはアミューズの2022年4月に上演された「もはやしずか」で拝見していて、どちらの女優さんも非常に素晴らしかったので、顔見知りなキャストさんもいたので安心して観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーは、私が観劇した記憶なので、抜けや間違い等あるかもしれないがご容赦頂きたい。

堀船という地名にある団地の庭、一時鹿(川上友里)と二瓶(墨井鯨子)の2人が話をしている。秋がやってきたということで落ち葉も落ち始める季節、食欲の秋でもありスポーツの秋でもある秋について2人で話している。
一時鹿は、朝食をパンとお粥を交互にして毎日食べているという話をする。今日は水曜日、水曜日はいつも朝食はパンのイメージだと一時鹿は二瓶に語る。しかし二瓶は、一週間は7日間しかないのにどうして水曜日はパンのイメージだと固定されてしまうのかと疑問を投げかける。
そこへピアノのレッスンに向かう四祭(櫻井成美)がやってくる。四祭は旦那と結婚したばかりの新婚である。四祭は、旦那が台所で歯を磨くことにだけ嫌悪感を示しているようだった。しかし、それ以外は全部旦那のことが好きなようだった。
四祭は、一時鹿と二瓶にどんぐりを渡してピアノのレッスンに行ってしまう。
その時、2人の背後には「うるしにご用心」と歌いながら変な歩き方をする五井(木乃江祐希)が姿を現す。

堀船団地の307号室、三ツ矢(藤本美也子)の家。三ツ矢の家には同じ団地の6階に暮らす六冠(上田遥)が遊びに来ていた。三ツ矢はこの前家の中でゴキブリを見たという話をすると、六冠はこの団地の6階より下はゴキブリが出て、それより上の階では出ないのだと言う。
その後三ツ矢は、シャワーの水圧に関する話を六冠とする。
ここで六冠は、三ツ矢に対してとある黙っていたことを話し始める。それは、以前六冠が三ツ矢の家にお邪魔した時に、三ツ矢の母親の形見であるカシオの電子手帳を黙って持ち帰ってしまったことを明かす。三ツ矢は驚く。そのまま六冠は話を続けると、そのカシオの電子手帳から一通の返信が届いたのだが、そこには「10月5日、うるしにご用心」という内容だったのだと言う。
10月5日というと今日のことである。もしかしたら今日なにか不幸なことが起こるのではないかと不安になった2人。その時、玄関の方から「うるしにご用心」という歌声が聞こえてくる。誰かやってくると三ツ矢と六冠はの不安は高まり、三ツ矢はちょうど今日は玄関に鍵をかけていなかったと後悔する。さらに2人は慌てる。
チャイムの音が聞こえて、悲鳴を上げる2人。そしてそのまま扉が開いて「うるしにご用心」と歌う五井が入ってくる。三ツ矢は腰を抜かしてしまって動けなくなる、三ツ矢は六冠といきなり現れた黒衣(神永結花)に運ばれて外へ出る。

堀船団地の外。
一時鹿と二瓶は、今日が水曜日ではなく木曜日であったことに気が付き、先ほどのパンとお粥の朝食交互の話の謎が解ける。
そこへ、今日は水曜日だと勘違いしてピアノのレッスンから引き返してきた四祭がやってくる。四祭が、今日を水曜日だと勘違いしてましたと言うと、そういうこともあると一時鹿と二瓶が慰める。
そこへ307号室から逃げてきた、腰を抜かした三ツ矢と、それを運ぶ六冠と黒衣がやってくる。一時鹿たちは事情を尋ねると、この団地に住んでいてバーミヤンで働く五井が、「うるしにご用心」と歌いながら部屋に入ってきたのだと言う。
その時、307号室のベランダから五井が姿を現す。しかし、それは五井ではなく、五井の体に取り憑いた元307号室の住人で既に亡くなってしまった三吉であることが、一時鹿によって分かる。三吉は、生前は団地に住む住人と仲良くなりたいがために、通りかかる人みんなに焼き菓子を渡そうとして話しかけていた。夫を亡くしてから独り身で寂しかったのかもしれない。
しかし、そんな通りすがりの人みんなにいきなり焼き菓子を振る舞おうとしても、逆に相手には怖がられるだけで避けられてしまうのだと一時鹿は、五井に取り憑いた三吉に言う。そんな感じで、307号室のベランダにいる五井に取り憑いた三吉と、外にいる一時鹿たちはお互いに言い合う。

結局外にいた一時鹿たちは307号室へ向かい、三吉が振る舞う焼き菓子を食べる羽目になる。皆美味しくなさそうに三吉の振る舞う焼き菓子を食べる。中には途中でお茶で口直しをしている様子も。
微妙なリアクションをとる皆を見た三吉は、そのまま307号室のベランダから飛び降りてしまう。一同は驚き外へ向かう。これでは五井が死んでしまうと。
しかし、五井の下には黒衣がクッションになっていた。どうやら取り憑いてた三吉はいなくなり、何事もなかったように五井は元気にしている。一時鹿たちはホッとする。五井は職場のバーミヤンへ向かう。
風に揺られて近所の八百屋が閉店する紙が一時鹿の元に、オロナミンCが二瓶の元に、そしてカシオの電子手帳が三ツ矢の元に届く。この風も含めて、三ツ矢を運び出したり、五井を助けたのも、全部黒衣というよりは初代の堀船団地の自治会長である八平の仕業だったことが分かる。
住人たちは八平に感謝する。

一時鹿は、307号室のベランダで八百屋が閉店してしまって淋しいことを叫ぶ。この気持をわかってほしいと。二瓶も四祭も自分にしか分からないけれどわかってほしいことを叫ぶ。
そこへ五井が自転車で大量の野菜と果物を運んでくる。八百屋も閉店してしまうことだし、一時鹿は団地の敷地で八百屋をやろうと野菜と果物を並べ始める。しかし、二瓶は野菜と果物が混在していて探しにくいと不満を漏らす。しかし誰も聞いてはくれない。そうこうしている内に日が暮れて17時になってしまう。ここで上演は終了する。

本当に「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」といった、昔ながらの日常系作品。しっかりとしたストーリーがあるという訳ではなく、堀船団地に暮らす主婦たちの日常を切り取ったかのような物語。日常を描くのだけれどリアリティを凄く追求している訳ではなく、亡くなった三吉が五井に取り憑く怪事件が起きるあたりは、非日常な展開があって漫画的な面白さがあった。
非日常はあるものの、近所の八百屋が閉店して悲しいとか、三吉が同じ団地の住人と仲良くなりたくて焼き菓子を強制的に振る舞うとか、そういった登場人物に共感出来る要素が多数あるのも面白さを感じる一因かなと思う。
展開がスローテンポなので、私の好みではなかったのだが、年齢層の高い客層を中心として多くの演劇好きが満足いくような脚本構成なのではないかと思う。


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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

まるで「サザエさん」のような昭和漫画の世界を演劇に落とし込んだかのような世界観で、私個人としてはあまり観劇したことがない新鮮な舞台空間だった。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出の順番でみていこうと思う。

まずは舞台装置から。
ステージ上には、下手から上手まで隅々まで広がる巨大なパネル。インパクトのある舞台装置はこの巨大な1枚のパネルのみ。これだけなのだが、このパネルの劇中での活かし方が上手い。このパネルは、おそらくパネル後方の客席から見えない所にパネルの上の方へ登れる階段のようなものがあって、パネル上部の中心に行けるようになっている。そこが今作の307号室のベランダを表していて、ベランダと外の構図を上手く作ることに成功している。例えば、三吉が取り憑いた五井が307号室のベランダにいて、他の人は団地の外にいる構造だったり、一時鹿が307号室のベランダにいて、他の人が団地の外にいる構造を上手く表現していたと思う。
あとは、307号室の場面ではこのパネルは実は2枚のパネルをくっつけていることが分かり、そのくっついた中央部分が少し開いてベランダへの入り口となることで、シーン転換が起きていた。ベランダに洗濯物が干されていたのも印象的だった。
307号室のシーンでは、ステージ上にちゃぶ台(おそらく)とドアノブが置かれた小さな机も印象的だった。昭和漫画らしい日常の世界観を上手く表現していた。
序盤のシーンで、地面に落ち葉が落ちていて季節感を出しているのも良かった。
総じて豪華な舞台装置ではなく、作り込まれている感じではないのだが、そこが今作には非常にハマっていた。素朴な感じというとちょっと違うのだが、着飾らない舞台セットが逆に世界観を上手く作り、キャストを際立たせていた印象だった。

次に衣装について。
こちらは舞台装置とは打って変わって、だいぶ世界観を演出していたように思える。団地に住む主婦たち全員がカラフルな、そして昭和レトロなワンピースに身を包んでいるのが凄く印象的で好きだった。
個人的に好きだったのは、櫻井成美さん演じる四祭の黄色いワンピースが好きだった。凄く昭和の若きお姉さんぽさを存分に発揮していた印象だった。
藤本美也子さん演じる三ツ矢の格好も好きだった。あの戦後すぐみたいな非常に田舎娘感満載の地味な衣装と、みつあみで戦後の女性のメイクという感じなのだが、それが物凄く味があって良かった。
衣装も素敵なのだが、メイクも全体的に好きだった。昭和の女性のメイクという感じが良かったし、役者の方も凄く似合っていた(褒め言葉)。

次に舞台照明について。
基本的には場転中に薄暗くなるくらいの演出。シーンが団地の外か307号室のシーンのどちらかなので、その度にパネル移動があるのだが、その時に役者たちがパネル移動させて転換するために、照明は薄暗く、決して真っ暗にはならなかった。
そしてこのまま舞台音響についてなのだが、その場転中に流れる音楽が、また世界観にぴったしだった。昭和漫画を思わせる明るく滑稽な感じの音楽。序盤はシーン中でも音楽が流れていたが、選曲は素晴らしくて日常漫画の世界だった。
オープニング曲まではいかなくても、もう少し主張のある音楽を序盤で使ってもよいかなとも思った。役者たちが個性強くて音楽なくても全然楽しめてしまうシーンばかりなので、若干余計にも感じていた。流すのであるならば、もっと主張の激しい曲調のものを流してもインパクトがあってシーンのメリハリもあって良かったかもしれない。
チャイムの音は、なぜか恐怖を感じさせてくれてSEとしてハマっていた。

最後にその他演出について。
まるで作品の内容自体が昭和の日常系漫画でもありそうなくらい、大衆的で喜劇だった。演劇作品自体を漫画から切り取ってきたような感じだった。例えば、風によって八百屋閉店の紙片が飛んできて一時鹿の顔にへばり付く演出は、舞台として観ても面白いが、漫画の世界でも起こりそうな演出で非常にしっくり来た。スカートを風になびかせる演出も漫画的で印象に残った。さらに、自転車で野菜や果物を運んでくる演出のインパクトさも、どこか漫画の世界にありそうな演出で良かった。
これは演劇作品ではあると思うのだが、尺の長いコントとしても成立しうるなと感じながら観ていた。ホラーなシーンはあるものの、演出的にどこか笑えるので全体的にコント風だったなとも感じた。しかし、世界観が昭和の日常漫画なので、世界観がしっかりと確立されたコントという感じがあって、やはり演劇に近い感じもするので、非常にジャンル分けは難しい。そのくらい観劇者にとっては新鮮な作品を提供してくれていたんだなと感じて素晴らしかった。


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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

女優6人と黒子一人の合計7人のキャストだったが、全員キャラが濃くて尖っていて、且つ非常に力強い演技をされていた印象で素晴らしかった。女性キャストの年齢層も幅広いが、凄くまとまりがあって素敵だった。
特筆したいキャストをピックアップしていこうと思う。

まずは一時鹿役を演じていた、劇団「はえぎわ」所属であり、「ほりぶん」所属でもある川上友里さん。川上さんの演技は、ワタナベエンターテインメント×オフィスコットーネの「物理学者たち」以来2度目の観劇となる。
「物理学者たち」では、3兄弟の母親役を上手く演じていて、非常に情緒あふれる個性的なキャラクター性が印象的な女優だと感じた。今作でも個性豊かな印象だったのは同じなのだが、役柄もあるせいか自身の中にあるものを全て晒して全力投球で演じている感じが非常に観ていてこちらも爽快だった。
凄く不器用にも見えるけれど、凄く応援したくなってしまうような愛嬌溢れる女性というのが非常にハマっていて、あの感じは川上さんにしか出せないであろう味な気がして、そこを上手く活かしていた。
非常に顔の表情まで使って、メイクも相まって、イモトアヤコさんみたいな全力投球な女性にグッと来た。そして面白かった。

個人的に一番好きだったのが、四祭役を演じる櫻井成美さん。櫻井さんの演技を拝見するのは初めて。
まず2000年生まれというのがびっくりだった。まだ20代前半なのに、あそこまでベテランの女優たちと肩を並べて演技をしているというのが凄すぎた。
そしてその若さを活かして配役を演じきっているのが非常に上手いと思った。新婚で旦那とは一緒に暮らし始めたばかり。シンクで歯磨きをすることは不満だが、それ以外は好きという旦那に一途な感じが非常に可愛らしくて、そのピュアな感じがよくハマっていた。そして往く人にどんぐりを渡す不思議ちゃんぽいキャラクター設定も好きだった。
ショートヘアと黄色いワンピースも非常に似合う。どのキャストも個性豊かでキャラが立っていたのだが、四祭は20代前半の若さで、彼女にしか出せないピュアさを際立たせる形で演じられていて、櫻井さんにしか出せない魅力を存分に発揮していたと思う。どのキャストよりも個人的には好きだった。

五井役と三吉役を演じたナイロン100℃所属の木乃江祐希さんも素晴らしかった。木乃江さんの演技を拝見するのも初めて。
五井役と三吉役で格好は一緒だったが、演技は全く異なるのでそれぞれについて記載する。まずは三吉役だが、あの「うるしにご用心」と歌いながら変な踊りをする感じが非常にホラーに感じられて演出として素晴らしかった。そのホラーっぽさというのが、瞳が大きくて人形のような姿をしているあたりから来るホラーっぽさがあってハマっていた。たしかにあんな女性にいきなり近づかれたら、皆恐ろしくなって逃げ出してしまう。
一方で、五井役になると喋り方も特徴的で今度は恐怖は全く感じなくて、ただただキャラクターとして個性の強い女性に成り変わる。昔お笑い芸人でいた、いがわゆり蚊さんを思わせる演技だった。ちょっと狂気じみていて面白い感じがインパクト抜群だった。


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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

演劇ユニット「ほりぶん」は、先述した通り「MITAKA "Next" Selection」に選出されるまで存在を知らず、普段観劇していてチェックしている演劇団体から作風がだいぶ外れていたから知らなかったのだろうなと思う。昭和の日常漫画の世界観をベースに、喜劇をスローテンポで上演する団体は私的には凄く目新しく感じ、こんな作風もあるものなのかと勉強になった。
役者陣も皆個性的で熱量に満ち溢れていて、これぞ演劇とも思えたし、これぞ喜劇とも思えるくらい笑える作品だった。脚本の精巧さや解釈に演劇の面白さを求める私の好みではなかったものの、一観劇者として持ち帰るものは沢山あった。
ここでは、今作の物語の考察と作風の考察をしていこうと思う。

まずは物語の考察から。
この物語は、堀船という地名が舞台であるが、どうやら堀船は東京都北区に実在する地名で、作演出を務めたナカゴーの鎌田順也さんの住まいがあるエリアなのだそう。王子駅の周辺で隅田川の近く、団地も沢山存在する。たしかに作品の雰囲気的に都心から少し外れた団地という感じはするし、納得がいく。
この物語には、二人の亡霊が登場する。一人は五井に取り憑いた、以前307号室に住んでいた夫を亡くして寂しさを埋め合わせるために、執拗に近所の住民に話しかけてまわろうとする迷惑な三吉、もう一人は初代堀船団地の自治会長であり、度々住民たちを影で救ってきた八平である。
ここで気づいたことは、どちらも堀船団地の住人で既に亡くなっているが、今堀船団地に住んでいる住民たちのためを思っての行動であることは共通している。結果的に三吉は悪、八平は正義という分かりやすい構造ではあるが、三吉だって住民と仲良くなろうと焼き菓子を皆に配っていた訳である。その行動自体は問題ではあるものの。
そこには、現在ではすっかり近隣住民との結びつきが弱くなってしまったことへの嘆きも感じられる。まだまだ地方では地区の行事などが残っている地域もあると思うが、都会に住んでいると近所に住む住人なんて挨拶をする程度で、誰なのかも分からないし話し込むこともない。
そんな現代人にとって、近所の住民の温かさを感じさせてくれるのが今作だったかなと思う。亡くなってしまった三吉にせよ、八平にせよ幽霊となってその土地に住む人々に絡んできたり守ってくれたりしている。三吉の行為は迷惑だが、その行動の動機にはなんだか温かみを感じる。
初代自治会長が守ってくれるというのは、ある種ご先祖が守ってくれるという文脈としても解釈しうる。今では先祖の墓参りをするという風習も薄れているように感じる。しかし、いつでも先祖は私たちの言動を見ていて、守ってくれているんだよというのを思い出させてくれたような気がする。
そういった意味で、今作は昭和漫画の世界観をベースとした上で、かつての日本人の風習とそれにまつわる人々の温もりを思い出させてくれたような作品にもなっていて素敵だった。
また、最後の八百屋が閉店してしまうという設定も、どこか昨今の古い小さな個人商店の店閉めの多さを反映しているような気がして、その嘆かわしさのようなものもうっすらとこの作品から漂ってきたように感じた。

そんな物語性を、説教臭くなくコメディを主軸とした日常物語としてまとめていたのが非常に面白い。
アニメ「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような昔からの国民的人気アニメになぞらえて、非常に漫画風に親しみやすく描かれているのが素敵である。
その上に、役者たちの個性豊かなキャラクター設定と、熱量みなぎる演技に演劇作品としての良さを存分に堪能出来るようになっている。そして今作でいえば、登場人物それぞれが全く異なる味を出しているから、さらに人間としての面白みも深まる訳である。

個人的には好みで手に合わなかったが、作風もしっかりしていて間違いなく人気が出そうな演劇団体。今後のご活躍に注目したいと思う。


【写真引用元】
ほりぶん Twitterアカウント
https://twitter.com/horibun2021/status/1575278839311187968/photo/1


↓川上友里さん過去出演作品


↓上田遥さん過去出演作品


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