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舞台 「ハンズアップ2022」 観劇レビュー 2022/03/26

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【写真引用元】
企画演劇集団ボクラ団義Twitterアカウント
https://twitter.com/bokura_dangi/status/1507338394393001992/photo/1


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企画演劇集団ボクラ団義Twitterアカウント
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公演タイトル:「ハンズアップ2022」
劇場:CBGKシブゲキ!!
劇団・企画:企画演劇集団ボクラ団義
作・演出:久保田唱
出演:沖野晃司、平山空、高橋雄一、田中彪、毎熊宏介、春原優子、友常勇気、加藤凛太郎、吉田宗洋、花崎那奈、緑谷紅遥、大神拓哉、片山陽加、添田翔太、真凛(ゲスト出演)
公演期間:3/19〜3/27(東京)
上演時間:約150分
作品キーワード:デスゲーム、サバイバルゲーム、ハラハラ・ドキドキ
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


2.5次元舞台「炎炎ノ消防隊」や「ぼくらの七日間戦争」などの演出を手掛けてきた、久保田唱さんが主宰する劇団「企画演劇集団ボクラ団義(以下ボク団)」の暫定最終公演ということで観劇。
ボク団の公演は2021年4月の「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」に続いて2度目の観劇。

物語は、とある屋敷に閉じ込められた男女14人が、生と死をかけたゲームに参加するという、いわゆるサバイバルゲーム・デスゲームもの。
そこに集められた男女14人に共通することは、絶望の淵に立たされて生きていたこと。
彼らがなぜその屋敷に何の目的で集められてゲームに参加しているのか。ゲーム失格となった場合のペナルティとはなんなのか。
そんな彼らに共通する点が物語が進行していくにつれて徐々に明らかになっていく。
そして14人の今までの生き様なども徐々に明らかになっていくというもの。

こう聞くとNetflixドラマの「今際の国のアリス」や「イカゲーム」といった作品を連想するかもしれない。
しかし舞台作品ということもあって、刺激的で過激な描写は少なく、ホラーやグロいシーンは登場しないので比較的多くの人に楽しんでもらえるような作品だと感じた。

そしてボク団という団体自体も、たしかに商業演劇的というかブロマイドなどを売っていることを想像すると、コアな劇団ファンでないと近づきにくいと思う方もいるかもしれないが、そうではなく比較的初心者でも劇場で楽しめるような開かれた作品になっていて観劇のハードルは低いと感じていた。
しかし暫定最終公演ということでボク団は解散してしまうそうで、劇団ファンの私にとっては非常に悲しく感じているが、久保田さんも劇団員の皆さんも今後も舞台・演劇には携わっていくみたいなので、引き続き応援していきたいと思う。

多くの人がとっつきやすくて楽しめるオススメの作品、4月2日まで配信も販売されているので興味がある方はぜひチェックして頂きたい。

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【写真引用元】
企画演劇集団ボクラ団義Twitterアカウント
https://twitter.com/bokura_dangi/status/1507608507113435142/photo/1


【鑑賞動機】

久保田唱さんの脚本・演出作品は「ほんとうにかくの?」「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」と2作観劇してきたが、どちらもミステリー・サスペンスもので内容も非常に分かりやすく、次の展開が気になる面白さがあって好きだったので、お気に入りの劇作家の一人だった。
そんな久保田さんが主宰するボク団が解散してしまうという寂しい情報と共に、暫定解散公演という名目で当劇団の代表作を再演するということだったので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

とある屋敷にアルフレッド(添田翔太)とキャサリン(片山陽加)がいた。そこへ、上原真梨華(平山空)という売れないアイドルとそのマネージャーの牧村直道(高橋雄一)がやってくる。2人はアルフレッドとキャサリンに見覚えはなく、あなたたちは誰なんだ、来る場所でも間違えたかと混乱している様子であった。
しかし、その後にプロバスケットボールプレイヤーの蒜流宗介(加藤凛太郎)、バンド「ブリジットジョーンズ」のボーカルのDAICHI(田中彪)、ベースのNAOTO(毎熊宏介)、ボクサーの安里悠児(沖野晃司)、外科医の中曽根康人(友常勇気)、経営者の白金明(吉田宗洋)と続々と様々な職種の人物が屋敷の中へ入ってくる。中には、元OLで無職の女性の佐知川幸子(花崎那奈)や、OLの橋本麻由美(春原優子)という女性もいた。皆なぜこの屋敷に集められているのか、理由を知る者は誰もいなかった。
最後に、週刊誌記者の物部良隆(大神拓哉)と鷹野百合(緑谷紅遥)が入ってくる。2人は男女で一緒に入ってきたが、近くの海で偶然出会って仲良くなり、そのままこの屋敷に来たらしくカップルではないようだった。
この屋敷に集められた人々の共通点、それは絶望の淵に立たされていることのようだが、一体何の目的で集められているのか誰も分からなかった。
そこへ屋敷のどこからか甲高い声が聞こえてきた。それはゲームのオーナー。その声は、今屋敷に集められた男女14人は、これからゲームに参加してもらうとのことで、全員でジャンケンをして全員が同じ「グー」か「パー」か「チョキ」を出したらゲームクリアとなり、5回挑戦して出せなかったらゲーム失格ということでペナルティが与えられると言う。そして、5回ジャンケンに挑戦する途中でもゲーム辞退を申し出ることも出来て、ゲーム辞退をした人にもペナルティが課されるのだと言う。また、会話中で「グー」「チョキ」「パー」と言ったり、紙に書いたりすることは禁止で破るとペナルティを課せられると言う。
屋敷に閉じ込められた14人は、そのペナルティとは「死」なんじゃないかと恐怖する。

オープニング映像と音楽が始まる。キャストの紹介とここまでのストーリーの流れが文字として映像に流れる。

佐知川は叫び出す。彼女は今までことごとく運がなく、修学旅行はいつも雨だったり、父・母・兄だと思っていた家族が実は血がつながっていなかったことが判明したり、第一志望の会社に入社出来たと思ったら会社が倒産して無職になったりとついていなかった。だから自分はこのゲームでクリア出来る自信がないと言う。ジャンケンにも勝ったことがないと言う。
14人はまず、一斉にジャンケンを一回だけする。佐知川以外全員パーを出すが、彼女だけグーを出してまず1回目はクリアならずだった。佐知川はやはり自分はついていないんだと嘆く。
そこへ外科医の中曽根は冷徹なことを言う。ゲームにクリア出来る見込みのない人間には、このゲームに辞退してもらいたいと。そうすれば、残った人間だけでジャンケンをすることになるので、クリア出来る確率も高くなると。
しかしその発言は、もちろん顰蹙(ひんしゅく)を買うことになる。元ボクサーの安里は、明日には全員でゲームクリア出来るためのアイデアを考えるから、ここはぜひ誰一人としてゲーム辞退はするなと言う。
その言葉を信じて、ゲームのオーナーが「ゲームを辞退したい者はハンズアップしろ」と言うも、ゲーム辞退を考えていて佐知川も手を上げずに14人全員で2回目のジャンケンに挑むことになった。
アルフレッドとキャサリンはここである告白をする。実は2人はこの前に開かれたゲームにも参加しており、彼ら以外の参加者は途中でゲーム辞退を希望してハンズアップし、この屋敷から消えたそうだ。そして、2人にはゲームオーナーからとある依頼をされていた。それは実名ではなく偽名を使ってこの後のゲームに参加するようにと。実名を公表したらペナルティを課すと。そしてゲームについてはそれくらいしか知っておらず、ペナルティが何を意味するかも分からないと言うのだった。

夜を迎える。
週刊誌記者の物部とキャサリンは会話をする。物部は既婚者で物部暁美という女性と結婚していた。彼女のことを愛していた。彼は週刊誌記者という職業柄で、新聞では記事に出来ないようなスキャンダルを取材して記事にしていた。ある時、とある男の不倫した女性の中に自分の妻の名前があった。物部は、妻がその男と短い期間付き合って別れたことを聞いたことがあった。だから今も関係が続いている訳ではないと知っていたが、妻の名前を使って記事を書いてしまったのだそう。それから妻は家出をしてしまい戻ってこなかった。物部は、自分の妻と再会して謝るまで死にきれないと吐露するのだった。
元バスケットボール選手の蒜流は、NBAへスカウトされるほど能力のある選手だったが、膝の手術に失敗して復帰出来なくなってしまったという。
バンド「ブリジットジョーンズ」のNAOTOはリズム感を失ってベースが今までのように出来なくなってしまい、ボーカルのDAICHIは喉の病気を患って声が出なくなっていた。
元ボクサーの安里は、試合で対戦相手を死なせてしまった。
皆それぞれ絶望を経験していた。

次の日、安里は皆を助ける手段を考えてくると言いながら、結局何もアイデアは思い浮かばなかったと言う。そんな情けない安里を小馬鹿にしながら外科医の中曽根は、自分はあるアイデアが思いついたと言う。昨日佐知川以外全員が1回目のジャンケンで出したものをもう一度皆で出そうと言う。こう言えば、禁止用語は使っていないし皆同じものを出せるんじゃないかと。
しかし、OLの橋本は昨日自分が何を出したのか覚えていないと言う。他にも記憶力に自信のない人が数名覚えていないと言うのだった。中曽根は、記憶力のない人をゲームから辞退させようとするが反感を買われる。
元バスケットボールプレイヤーの蒜流は、自分が持っていたバスケットボールを使って、これに近いものを皆で出そうと言う。その手があったかと一同は盛り上がり、2回目のジャンケンをするが、皆バスケットボールから連想するものはバラバラで、「グー」を出す人や「パー」を出す人で分かれてしまった。人々が抱くイメージの違いでお互い対立し喧嘩まで始まってしまう。
次にベースのNAOTOが、このベースが何に見えるかと皆に問う。この部分が2つ角みたいなのが付いていてと言うと、一同は「あっ!」と何を指しているか分かったとばかりに声を上げる。そして3回目のジャンケンをする。鷹野以外は全員「チョキ」を出したが、鷹野は違う手を出していた。鷹野は周りから批判される。でも今度は絶対合わせると誓う。
元ボクサーの安里が、これは何に見えるかと問う。これは皆が分かりやすいと言って、鷹野も大丈夫そうだと思ったが、いざ4回目のジャンケンをしてみると、鷹野以外は全員「グー」を出したのに、鷹野だけはまたしても違う手を出した。
実は鷹野は虚言癖の性質を持っていた。自分の今名乗っている名前も違う。学生時代からずっと虚言癖だったために友達が出来なかった。
安里たちは、鷹野の虚言癖に打ち勝って全員が同じ手を出してゲームクリアさせるために策を講じる。

鷹野を別室へ連れ出して13人で作戦を練る。13人にはベースのギターが何に見えるかをジャンケンで出して欲しいと依頼する。そして鷹野に入ってきてもらい、鷹野にはボクサーのグローブを出してこれが何に見えるかを出して欲しいと依頼する。虚言癖ならきっと「グー」ではなく何か別のものを出すだろうと。
そしてジャンケン5回目、これで全員が同じものを出さなかったら失格になる。一か八かでジャンケンをすると、安里の策は功を奏して全員が「チョキ」を出すことに成功させる。
そこへゲームのオーナーが「ステージ1クリア、次はステージ2へ進む」と言う。一同はステージ2の存在を初めて知って動揺する。ステージ2は「かごめかごめ」で、誰か一人が鬼となり後ろの正面の本名を当てないといけない。次の鬼は後ろの正面になった人物で、鬼は2回間違えるとペナルティとなる。5回実施して、2回当てる事ができてゲームクリアとなるというルールである。

ここで、かごめかごめの音楽と共にダンスシーンが入る。

しかし、14人はここで疑問を抱き始める。このゲームのオーナーの声は耳を塞いでも聞こえるということ。そして、アルフレッドはここにいる14人は全員何か大事なことを忘れてしまっているんじゃないかと言う。
鬼は橋本麻由美となり、1回目のかごめかごめを実施する。後ろの正面になった人物は牧村(うろ覚え)だったが、記憶力の弱い橋本はこの屋敷に存在しない人物の名前を言ってしまいハズレとなる。
次に牧村が鬼となり、後ろの正面が経営者の白金だったので「白金明」と答えるが、不正解となってしまう。牧村はたしかにちゃんと彼の名前を当てたはずだったのだがと首を傾げていると、白金は自分の本名は実は「黒金明」なのだと暴露する。なぜ偽名を使ったのかと問い正されると、彼は実は有名企業の社長で、本名を出すと知っている人もいるからとわざと偽名を使っていたのだと言う。
これではゲームクリアする見込みがないじゃないかと皆が呆れ返った時、アルフレッドが俺を見て誰も分からないのかと怒り出す。皆ピンと来ていないようだった。そしてアルフレッドは、次は俺が後ろの正面になるようにかごめかごめをやろうと言い出す。
言われるがままに3回目のかごめかごめをやり、後ろの正面にアルフレッドが来ると、自分から自分の名前は「芹沢修一」だと名乗り出す。しかし、ゲームのオーナーから本名を言うことも禁止されていたはずなのに何もペナルティと言われない。
その「芹沢修一」という名前を聞いて何人かがハッとする。麻薬所持で逮捕され、執行猶予はついたもののマスコミに叩かれて芸能界復帰が出来なくなり自殺したはずだったと。しかし、ここにいるということはどういうことなのかと皆疑問に思う。もしかして、ここに集められた14人に共通することとは、「死」を忘れていた。つまり自殺して生と死をさまよっている人間たちなんじゃないかと悟り始める。
ゲームのオーナーによってゲーム辞退をしたい人と聞かれた時、芹沢はハンズアップする。そして、彼だけゲーム辞退をしていなくなる。

次の鬼はゲームのオーナーから物部が指名される。そしてキャサリンは、今度は自分が後ろの正面になると申し出る。そしてきっと物部なら私の本名が分かるはずと言う。
物部は記憶が蘇ってくる。病院から連絡があって、身内だからという理由で緊急治療室に入った記憶。そして、そこには妻の姿。物部は後ろの正面は「物部暁美」と答える。そして正解し、キャサリンは物部暁美、つまり物部良隆の妻であると分かる。
かごめかごめはあと1回クリア出来ればステージクリアだが、もうそれはどうでも良くて、ここにいる13人たちは自分の過去について思い出し始めていた。外科医の中曽根はただ医者という肩書が欲しくて外科医になっただけで手術の成功率は0%、ひたすらに死者を出し続けて非難されていたこと。そしてバスケットボール選手の蒜流は、中曽根に手術をしてもらったから膝が使えなくなってしまったこと。鷹野は詐欺師であり、彼女の詐欺によって黒金の企業が倒産してしまったこと。そして、そこで勤めていた佐知川も失業したということ。元ボクサーの安里は対戦相手を死なせてしまったが、その対戦相手と付き合っていたのがアイドルの上原真梨華で、本名は鬼怒川冴子。彼氏の死がショックで自死を考えていたこと。そんな病んでいる姿を見ていたマネージャーの牧村はそれが自分のせいだと思っていたこと。そして橋本は「ブリジットジョーンズ」のベースNAOTOのファンであること。しかし橋本は、不倫相手に捨てられてしまったこと。

佐知川は自分が不運なので、再び生きようと決意は出来なかったが、それ以外の12人は全員もう一度人生を歩みたいと決意し、ゲーム辞退、つまりハンズアップして現実世界に戻ることを決意する。このゲームは、ゲームを通して過去の自分の記憶を思い出し、自分に再び生きようと決意させてくれる場所だったのだと気づいた。
12人はハンズアップして屋敷から消える。そして佐知川だけは次のゲーム参加者が来るまで偽名を使って待つように指示される。

アイドルの鬼怒川は、本名でありのままの自分をさらけ出して活動を再会、それを牧村がサポート。外科医の中曽根は真っ先にバスケットボールプレイヤーの蒜流の手術をし、緊急治療室に運ばれてきた佐知川の手術も担当することになる。
「ブリジットジョーンズ」のライブに駆けつける橋本、NAOTOは橋本に気がつく。物部夫婦は幸せな家庭を築いた。
ここで物語は終了する。

前回ボク団の公演で観劇した「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」に続いて観劇したのだけれど、ストーリー構成的にはそちらの方が好きだったかなという印象。「ハンズアップ」は、デスゲームもので面白く出来る要素がもっとある気がするのに十分に脚本をブラッシュアップできていないような気がした。
終わり方はハッピーエンドで感動的で好きだったけど、この類の脚本だともっとシリアスで抉られるシチュエーションを求めてしまう。ちょっと思っていた以上に刺激が少なかったかなという感じ。鷹野の虚言癖についてももっと後半で触れてほしかったし、14人も登場人物がいて全員にスポットを当てようとすると、上演時間が2時間半でも色々と中途半端になってしまった感じが否めないかなと思う。
そう考えると、「今際の国のアリス」みたいなデスゲームものの方が面白く感じてしまう。その理由については考察パートでしっかり書こうと思う。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「耳ガアルナラ蒼二聞ケ」との二本立て公演であるにも関わらず、舞台装置もしっかり用意されており、照明と音響、そして映像もしっかり演出に盛り込まれていた。しかし、以前観劇した「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」よりは、劇場が違うのも影響するのかだいぶ簡素だったかなと感じていた。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
きれいな二段舞台となっていて、上手、下手、中央に上段、下段それぞれにでハケ、つまり合計6つあったと記憶している。上手側、下手側に一つずつ階段があって下段、上段に移動できるようになっている。装飾は、屋敷を思わせる感じで全体的にグレーで、所々に絵画が飾られていたりする。
基本的には下段で物語は進行し、14人だと多いのでバンド2人が上段の下手側、バスケットボール選手が上段の上手側にいることが多かった記憶。また、物部夫婦が海(ではなく川)で2人で会話するシーンは上段で演じられていた。
そこまで作り込まれてはいないが、二段舞台を上手く生かしていた。

次に映像。映像はオープニングで一箇所だけ流れる。
「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」でもそうだったので、きっとボク団特有の演出手法なのだと思うが、オープニングでは前方に半透明のスクリーンが下がってきて、そこにオープニング映像としてキャストの紹介と、ストーリーの序盤のあらすじが流れる。これが非常に格好良かった。2.5次元舞台でも(といっても沢山観ている訳ではないが)そういった演出は割とある気がする。
映像自体もサスペンスを匂わせる編集がされていて好きだった。
また、中盤の「かごめかごめ」が流れる劇中歌は、歌詞が縦文字で舞台装置に映像が映し出されていたのが印象に残る。

次に舞台照明。
基本屋敷の中で起こる会話劇なので、照明が色々切り替わるシーンは少ないが、オープニングや中盤の「かごめかごめ」の音楽が流れるシーンの照明は迫力があって好きだった。結構紫色だったりとダークな照明演出だった記憶がある。
それと、鷹野の虚言癖を説明するシーンだけなぜか結構演出が凝っていて、そこでも音楽と共に照明演出がついていた。

舞台音響は、やはりオープニングと「かごめかごめ」とエンディングの「ブリジットジョーンズ」のバンド演奏。
オープニングは、スピード感のある音楽で映像とリンクしていて、凄く序盤からテンションが上がった。
「かごめかごめ」という童歌を、あんな感じでエンターテインメントっぽくアレンジできてしまうって凄いなと感じた。しかも「かごめかごめ」に合わせて振り付けまで付いているっていうのも見所。音響で一番「おっ!」となったところ。
エンディングのバンド音楽とボーカルによる生歌も非常に良かった。DAICHI役を演じた田中彪さんは歌も非常に上手かった。ラストがハッピーエンドなのであのバンド演奏が心にしみた。ラストは本当に良い終わり方だなと感じた。
それ以外のシーンでも結構劇中でBGMとは流れていた印象。

その他演出について。
やはり一番面白かったのは、ボク団の暫定最終公演ということで、今までボク団とご縁のあった役者がゲスト出演していた点で、私が観劇した回は真凛さんが出演されていたこと。真凛さんは、鷹野の虚言癖を説明するシーンでの学生役で登場していたのが笑えた。こうやって様々な役者に支えられてボク団はあるのだなと考えると劇団って良いなと思えてくる。
あとは、最後まで伏線が回収されきれてなかった(自分の中で)のは、物部良隆とキャサリンの2人の会話で出てきた、海ではなく川という下り。たしかキャサリンはこの川の向こうまで泳いだら的な発言をしていたが、あの真意ってなんだったのだろう。最後まで分からなかった。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ボク団らしく30前後のイケメン・美女が揃った公演だった。特に印象に残ったキャストに着目して見ていく。

まずは個人的に一番お気に入りの、物部良隆役を演じた大神拓哉さん。大神さんはボク団の劇団員の中でも一番好きで、いつも観客を笑わせてくれる存在が印象的。
ただ今回の役だと面白いキャラというよりは、終盤で奥さんを見つけることが出来て感動的で、しかも奥さんのことをずっと愛しているというかなり純粋な役だったので、非常にいつもと違う部分で印象に残って好きだった。ちょっぴりピュアな役をやる大神さんも良かった。

次にキャサリンまたは物部暁美役を演じた元AKB48の片山陽加さん。彼女はボク団の劇団員ではないけれど、「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」にも主役級で出演されていて劇団とゆかりのあるキャストな印象。
改めて彼女の演技を観てみたけれど、非常に落ち着きのあって観ていて癒やされる女優だなと思った。特にキャサリンの正体が物部良隆の妻だと分かった時のシーンはとても好きだった。それは、彼女の演技によるのも大きいなと感じている。
無理のない等身大の演技を他の公演でももっと観てみたいと思った。

外科医の中曽根康人役の友常勇気さんの演技も素晴らしかった。非常に何事も上から目線で、人の命を大事にできない医師として失格でキャラクターとしては全く好きになれないけれど、そんなインパクトのある役をやってのけてしまう友常さんの演技力は素晴らしい。
凄く医者とか弁護士とかの役に似合う役者だと思った。

元ボクサーの安里悠児役を演じた沖野晃司さんも素晴らしかった。あのスポーツ選手らしくストレートな生き方がキャラクターとして好きだった。14人全員のために必死で策を講じたり、中曽根と正反対の役で正義を貫くあたりが格好良く見えた。
あとは対戦相手を殺してしまったという過去を背負うという設定もシリアスで好きだった。

詐欺師の鷹野百合役を演じた緑谷紅遥さんの演技も非常に良かった。「鏡二映ラナイ女記憶二残ラナイ男」でも「六番目の小夜子」でも出演されているのを観ているのだが、今回はボク団の公演ということもあって結構出番があって、しっかりと演技を観られたのは初めてだった気がするが、ぶりっ子が非常にセクシーだった。
特に「虚言癖」って言いながら手を頬に当てて首を傾けるぶりっ子は良かった。あとは振る舞いとか話し方とかもちょっと世の中を舐め腐っている感じの、生意気な美女って感じが凄く好きだった。こんなに上手い女優だったのだなと再認識した。

後は、佐知川幸子役を演じたボク団の花崎那奈さん。花崎さんは今まで女子高生役ばかり観てきていたので、OL役を演じられるのが新鮮だった。でも結構OL役も似合っていて美しい大人な女性になっていていつもとは違う一面を観られて満足だった。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

久保田唱さんは、いつも観客に分かりやすくてハラハラ・ドキドキさせるような脚本を書いて、若年層を中心にファンを獲得していったエンタメ性の高い脚本家・演出家であるが、そんな方向性を持った数少ない劇団が解散するというのは非常に悲しいものである。
ただ、久保田さん自身も劇団員たちも、演劇活動を休止する訳ではないので、これからも彼らの作品をどこかで観劇出来ればと思っている。
ここでは、「ハンズアップ」というデスゲームものを扱った脚本という観点で考察しようと思う。

昨今Netflixドラマでは、デスゲーム・サバイバルゲームをテーマとした作品が大ヒットしている。日本ドラマでいうと「今際の国のアリス」であるし、韓国ドラマでいうと「イカゲーム」である。
デスゲームとは、主人公がとある密室空間に閉じ込められ、何者かゲームのオーナーによって生死をかけたゲームに挑戦させられる作品群のことを指す。今回の「ハンズアップ2022」もそのデスゲームに該当するだろう。
私が普段感じていることは、このデスゲームという作品テイストは面白い作品を生み出しやすい仕組みを作りやすいのではないかということである。なぜなら、デスゲームは主人公が生死を賭けたゲームに参加するのでハラハラ・ドキドキしやすいストーリー展開になりがちで、テンポも速く分かりやすい構成になりやすい。
実際「今際の国のアリス」も「イカゲーム」もそのような展開なので、ぜひご覧になっていない方はNetflixでの視聴をおすすめする(「イカゲーム」は長くて私は挫折したけれど)。
そしてなんと言っても、「今際の国のアリス」と「イカゲーム」は刺激が強く印象に残りやすい描写が多い。これもその2つの作品が人気を集める理由の一つなのだろう。


一方で、今回の「ハンズアップ2022」はというと、非常にテンポも速くて分かりやすい脚本だったということで、観劇した方の満足度も高かったのだろうと思う。
しかし舞台作品なので、映像作品と違って刺激は弱かったかなと思う。なかなか映像作品のような恐怖に貶めるような演出を舞台で出すのは難しい。だからどうしても刺激の強さという観点では、Netflixの作品には及ばないので、結果的にはそちらと比較してしまうと厳しいなといった点が率直な感想である。
またゲームのオーナーの実態を明かしてくれなかったのがちょっと勿体ない。「今際の国のアリス」でも「イカゲーム」でも最終的にゲームを仕込む側も明らかになる。だからこそ謎解き的な意味合いも込められているのだが、「ハンズアップ2022」にはそれがなかったので、面白く出来た要素がもっとあったのではないかと感じてしまった。

しかし「ハンズアップ2022」は、その分登場人物一人一人のキャラクターにフォーカスして人間性・ヒューマンドラマを厚めに描いているという印象がある。「今際の国のアリス」や「イカゲーム」は人が次々に死んでいくので、ぞんざいに扱われる登場人物も沢山いた。けれど、誰一人として死者を出さない「ハンズアップ2022」は、14人の登場人物全員にフォーカスして、彼らの人間性を描きながらストーリーを勧めていく感じが、Netflix製作でない感じというか優しさが感じられて好きだった。

2020年11月には「ハンズアップ」はシアター1010で商業公演として4桁の観客を動員したという。たしかに多くの人々にしっかりと刺さる万人受けする脚本だと思うので、そんな規模で公演が上演され成功しても不思議ではない。
久保田さんの脚本はエンタメ性に富んだ面白い作品が多いので、もっと多くの人に観劇してもらいたいと思っている。


↓企画演劇集団ボクラ団義過去公演


↓久保田唱さん脚本・演出作品


↓花崎那奈さん、緑谷紅遥さん過去出演作品


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