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舞台 「シャンドレ」 観劇レビュー 2022/05/28

【写真引用元】
小松台東Twitterアカウント
https://twitter.com/komatsudai/status/1515070704823463937/photo/1


【写真引用元】
小松台東Twitterアカウント
https://twitter.com/komatsudai/status/1515070704823463937/photo/2


公演タイトル:「シャンドレ」
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
劇団・企画:小松台東
作・演出:松本哲也
出演:松本哲也、今村裕次郎、瓜生和成、森崎健康
公演期間:5/27〜6/5(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:シリアス、会話劇、地方、社会問題、考えさせられる
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


松本哲也さんが作演出を務める劇団「小松台東」の舞台作品を観劇。
昨年(2021年)9月に下北沢の劇場ザ・スズナリで上演された「デンギョー!」以来、8ヶ月ぶり2度目の観劇。

今作は、2020年11月にこまばアゴラ劇場(以下アゴラ)で初演されたものの再演であり、初演時に大変評判が良かったことから、より舞台美術が豪華になって上演されることとなった。

宮崎県のとある小さな電機工業株式会社(以下電工)に務める男たちの群像劇。
「シャンドレ」とはその電工に務める男たちが行きつけるスナックを指す。先輩の町村弘樹(松本哲也)と後輩の郡山隆文(今村裕次郎)は、先輩に連れられて連日のように「シャンドレ」に通っていた。
町村は訳あって妻と別れて独り身だった、そして郡山には妻と2人の子供がいたが、町村に連れ回されるが故に郡山は家族と不仲となっていた。
そのさらに上司にあたる樋口透(瓜生和成)も「シャンドレ」に行きつけていたが、自分が「シャンドレ」のママとやっていたことを世間の狭い地元の人たちは知っていたという導入。

基本的には、町村、郡山、樋口の3人を中心として物語が進んでいくのだが、「小松台東」特有の地方の閉塞感を描くのが非常に上手いと感じた。
以前観劇した「デンギョー!」以上に暗く重たいシーンが続くため、観劇していて非常に気分が落ち込むというか、なんかエネルギーを持っていかれてしまっている感覚に観ていて陥った。

そしてラストまで観劇し終わって感じたことは、独り身中年男の惨めさ。
どことなく映画「タクシードライバー」を想起させる。
男はいい年になって家族を失ってしまったりと孤独になると、「シャンドレ」のようなスナックに入り浸れて、酒に逃げて現実逃避して、その結果自分だけでなく周囲の人々も巻き添えにしてしまう最悪の結果に陥ってしまう可能性があると知ると非常に怖くなってくる。
家族は大切にしようと思うし、酒で身を滅ぼさないように気をつけようと戒めにもなった。

ラストの描き方は秀逸だし、舞台照明による光と影の観せ方などセンスを感じられて素晴らしかったのだが、これだったら映画で観た方が物語として入り込みやすかったのかなと思った。
というのは、舞台美術が中途半端に具象だったため、このシーンが具体的にどんな空間で行われているのかというのが、若干イメージ付きづらい部分があったからである。
きっとアゴラで初演された時の方が良かったのだろうと思った。
この作品は下手に舞台美術を豪華にして具象化するよりは、余白を残して解釈を委ねる形で上演した方がしっくりいったのではないかと思えた。

特に地方で働く中年男性、サラリーマンには刺さる内容だと思うので、観て欲しいと思った。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/479453/1829785


【鑑賞動機】

「小松台東」の舞台作品は前回「デンギョー!」を観劇して、非常に今の日本社会のリアルを映し出していて興味深い内容だったので、また次回も観劇したいと思っていたこと。それに加えて、今作「シャンドレ」は、2020年11月に上演されていたものの再演であり、非常に当時Twitter上でも評判が良かったので、どんな内容なのだろうかと興味を持ったので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

朝、町村弘樹(松本哲也)は作業服のまま眠っていて起きた。どうやら昨晩泥酔するほど呑んでいたらしく、昨日の記憶がまるでないようだった。なぜ作業服に血がついているのか、なぜ自分の体がこんなに臭いのか分からない様子で目を覚ましていた。

電工の事務所、作業服の郡山隆文(今村裕次郎)は午前の仕事を終えて昼飯として弁当を食べようとしていた。その事務所にはスーツ姿の上司である樋口透(瓜生和成)もいた。2人は会話をする。
そこへ樋口の部下であり、郡山の先輩にあたる町村がやってきて、郡山に対して色々ちょっかいを出したり、からかったりしていた。郡山は先に事務所を後にする。
町村と樋口の間で会話が始まる。樋口は町村に対して、町村がよく郡山を連れ出して「シャンドレ」というスナックに行きつけているようだが、町村は妻と別れて独り身で寂しいかもしれないが、郡山には妻と2人の子供がいるからやたらと「シャンドレ」に連れ出すなと忠告する。しかし町村は、郡山自身も「シャンドレ」でキャバと会いに行くことを楽しんでいるようだし、お金は皆自分が出しているから問題ないと言い張る。
そして、町村が「シャンドレ」のママの話をすると、樋口は少し不機嫌な態度を取って、ママには手を出すなと厳しく忠告する。

樋口はそのままとある喫茶店に移動する。そこで近藤(森崎健康)という男と会う。樋口は近藤に呼び出されたようだった。
近藤は、随分と暴力団のボスのような格好をしている。近藤は樋口に対して、「シャンドレ」のママと密かにやっていただろうと追及される。ママには荒木真一郎という高校生の息子がいて、彼は途中で高校を中退してしまったのだが、その原因として樋口がママと密かにやっていたことがあるんじゃないかと言う。中学生、高校生といったら一番性に興味を抱く年頃、そんな年頃の時に母が他の男とやっていたというのを知ったらどう思うかと。
そこへ樋口の高校生の息子である樋口正徳(松本哲也)がやってくる。樋口はびっくりするが、近藤は親子水入らずの時間を邪魔するのは良くないと、正徳に対しては優しく色々と話しかける。そして制服を見てどこの高校に通っているかを判断する。
正徳はドリンクバーを取りに行く。その間に近藤は、正徳が通っている高校は「シャンドレ」のママの息子・真一郎が通っていた高校と同じだと言う。
正徳がドリンクバーを持って帰ってくると、近藤は店を後にする。樋口と正徳は2人で会話をする(どんな内容だったかは追え切れず)。

17時半、町村と郡山は郡山の運転で2人で車に乗っている。今日の現場が全て終了し、町村はラジオから流れる歌謡曲に沿って呑気に歌を歌っていた。
町村は、この後どうするかと郡山に振る。今日も「シャンドレ」に行きたいが、20時開店だからそれまで時間がある様子である。町村は20時まで「シャンドレ」の店の前で待とうと言う。しかし郡山は、「シャンドレ」に行く前に一度帰宅したいと言う。その理由は、子供が発熱して妻が看病しているからだと言う。そして作業服を脱いで私服に着替えて店に向かいたいと。
しかし町村は、作業服で「シャンドレ」に行ってこそだろうと、私服に着替えてくることに反対する。
そうこうしているうちに、コンビニに到着する。コンビニの外には、ヒョウ柄のジャケットを着た男がいた。町村は、その男はママの息子の荒木真一郎じゃないかと言う。
町村と郡山が車を降りてコンビニで買い物している間、荒木真一郎(森崎健康)は、コンビニのベンチで突っ伏している中年男(瓜生和成)に向かって、彼を気遣うような言葉をかけていた。
町村と郡山は、コンビニで何か物を買うと、郡山がやっぱり今日は「シャンドレ」には行かず帰っても良いかと町村に聞いた。町村は許さなかった。

スナック「シャンドレ」にて、町村と郡山は酒を呑みながらカラオケをしていた。町村は熱唱していたが、郡山はずっと不機嫌なまま下を向いていた。
町村はリンカちゃんというスナックのキャバと絡みながら、ずっと郡山に向かってこの時間はもっと楽しもうぜと浮かれていた。その後、町村は郡山に家族に電話したらいいとちょっかいを出したりしていた。
耐え兼ねた郡山はカラオケで今の自分の心境を吐露し、怒って「シャンドレ」を後にしてしまった。

樋口は歩いていると、ヒョウ柄のジャケットを着た青年とすれ違う。樋口は、荒木真一郎君?と尋ねる。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/479453/1829781



スナック「シャンドレ」には樋口が来ていた。隣には泥酔した警察官がいた。樋口は泥酔して倒れた警察官を世話し、彼を帰した。どうやら明日フルマラソンに参加するらしい。
その後町村がやってきた。町村も結構泥酔している様子である。町村は高くて美味しい酒(ウイスキーだろうか)を呑みながら酒に入り浸っている感じだった。
樋口は、郡山はどうしたのかと町村に尋ねると、郡山は怒って帰ってしまったと答える。樋口はそういう町村の強引な後輩への巻き込み、それから酒癖を注意する。
そして町村が泥酔をすると記憶すらも飛ばしてしまうことに対しても言及した。樋口は町村に、近藤という男を知っているか?と問いかける。町村は知らないと答える。樋口は、きっと町村は泥酔してこの店で近藤と会ったことも忘れているのだろうと言う。そしてその時、町村が近藤に対して、樋口がママとやっているということをリークさせたことも。
町村は泥酔しながらぼやき始める。樋口は良いよなと。朝は息子を学校まで送って、仕事は特に何もせず、夜になったら「シャンドレ」へお金を落としていく。町村自身は、特に守る家族もなく独り身、そして自分の立場だと一向に樋口のようなポジションにはつけない。昼間はずっと現場を回っているだけ。「シャンドレ」に入り浸らないとやっていけないのだと。

深夜、泥酔して千鳥足になって今すぐ倒れそうな歩き方をする町村の元へ、私服姿の郡山が棒のようなものを持ってやってくる。
郡山は、妻と子供は実家に行ってしまったこと。そして実家に向かっても彼らは郡山に顔を見せてくれなかったことを言う。全部町村のせいだと言う。郡山は、以前妻に町村さんはどんな人と聞かれたことがあったと言う。その時郡山は町村のことを非常に良い人だと言ったのだと言う。郡山は町村を良い人だと思いたかったのだと。会社にいる先輩として良い人だと信じたかったのだと言う。
カッとなった町村はいきなりカッターナイフを取り出し、郡山を切りつける瞬間で効果音と共に暗転。

町村は自宅で泥酔したまま眠っていた。町村は二日酔いのような状態で起きる。作業服には血が付いていた。外ではパトカーのサイレンがけたたましく鳴り響いていた。ここで物語は終了。

前半部分は致し方ない点もあるかもしれないが、登場人物と物語がどう進展していくか読み込めていなかったので、会話がずっと続くと退屈に感じてしまった箇所もあったが、後半、特に町村と郡山がコンビニに寄ってからクライマックスに至るまでのくだりは素晴らしかった。
非常にサラリーマンとして働く男性にとって、かなりリアルな内容を含む脚本だったため刺さる人は多いと思う。特に地方に住むという狭いコミュニティだからこそ生じる人間関係の面倒臭さ、上司と部下という関係とプライベートにまで及ぼす影響、それから酒による失敗。色々とリアルな要素が満載で、だからこそ私は教訓としてこの作品を心の内に留めておきたいと思えた。
決して楽しい、面白い舞台ではないのだけれど、非常に良い余韻を残してくれる重厚な舞台作品だった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/479453/1829784


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台美術は、初演時よりも豪華とは記載したものの、派手で大きな舞台装置が仕込まれている訳ではなく、一つ一つの美術が洗練されていてクールといった感じ。無駄なものは削ぎ落とされているからこそ重厚な印象を受けた。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番でみていく。

まずは舞台装置から。
ざっくり言うと、かなり舞台上に存在する装置たちはシーンによって激しく入れ替わる。大きく分けると、何も舞台装置がセットされていない素舞台、3分割出来るように作られた細長い机と背後に1枚パネルが配置された舞台、そして終盤だけ使われる町村の一人暮らしアパートの一室の舞台装置の3つである。
素舞台は良いとして、フライヤーにも登場する細長い机だが、こちらに関しては初演時にも舞台上に登場した大道具かと思われる。今作では、その長机が3分割できるように作られており、その真中部分に相当する机は、ハンドルを付けて車内を表現する演出としても使われた。それ以外に関しては、3分割せず机を横に3つ並べて長机とし、序盤の事務所のシーンや喫茶店のシーン、「シャンドレ」のカウンターとして使われた。この長机の質感が非常に恍惚でエレガントに感じた。照明効果も相まってであろう。そして、その背後にセットされていた黒いパネルも、非常にフライヤーの黒とも合っていた上、凄く重厚な印象を与えていたように感じた。
そしてもう一つが終盤のみに登場する町村のアパートの一室の舞台セット。おそらくこの装置は、初演時には登場せず今作で初めて登場したのだと思われる。最後のたった数分のためにこれだけクオリティの高い一室を再現してしまったのかと考えるとびっくりする。そしてそれってどんな演出意図があったのだろうと考えてしまう。こんなクオリティの高い部屋を用意する必要があったのかと。別になくても最後のシーンは十分主張したいことは伝わったのにと感じる。

次に舞台照明。結論から言うと非常に格好良かった。
今回の作品の舞台照明のプランニングは、光と影のバランスと客席からの観せ方までばっちり練られていて素晴らしかった。長机の背後に置かれていた黒い一枚のパネルに差し込む光と影の格好良さ。それから、役者陣に良い感じの光量で、良い感じの角度で当たる照明が、非常に役者たちを格好良く観せていた気がする。特にスーツ姿の樋口なんかは照明の当て方によって、その雰囲気オーラがだいぶ重厚に見えてくるから面白い。素晴らしかった。
また今作では特に終盤で夜のシーンが登場するが、あの薄青い感じの照明も印象に残った。おそらく月明りを表しているのだろうと思うが、これがまた役者たちをクールで格好良く感じさせてくれる。
「シャンドレ」でのカラオケシーンでのミラーボールを表す照明も雰囲気に合っていた。これは自分だけかもしれないが、あのミラーボールの感じとあの歌謡曲のカラオケ熱唱が入ると、非常に地方の閉塞感を感じさせてくれる。全体的に寂れたような感じと、未来に希望がなくただただ今を虚しく楽しむ感じ、ちょっと観ていて私もテンションが下がった。

そして舞台音響。今作の舞台音響は選曲のチョイスの素晴らしさといった点で優れていると感じた。
まず暗転中に流れる、明るく呑気なテーマ曲(歌詞はない)が良い。ずっと重厚で暗い会話劇とは相反して、だけれどもしっかりと今作にハマったテーマ曲だった。シリアスなのに音楽だけは明るくてそれがしっくりくる作品てしばしば見られるが、今作はまさにそれだった。
あとは、町村や郡山が熱唱する歌謡曲のチョイスが本当に素晴らしい。熱唱する際の歌声も相まってなのだが、本当にその辺の会社員がストレス発散でカラオケで歌っているあの感じを上手く作り出している。彼らが歌いそうな曲をチョイスしている。そもそも松本さんも今村さんも歌はそこまで上手い訳ではないと想像しているのだが、だからこそ出せる味があるってのが良かった。
あとは効果音でいうと、終盤のバイクが通り過ぎる音とパトカーのサイレンが強烈だった。バイクを通り過ぎる音に乗せて町村が郡山に切りかかるのだが、あのバイクの音と何かをチェーンソーのようなもので切り裂く感じが重なって感じて、痛々しくインパクトのある演出になっていて素晴らしかった。そしてパトカーのサイレンも、郡山を殺してその犯人探しで町村の元にやってくる感じを想起させて印象に残った。酒って本当に怖いなと感じさせてくれる演出。
その他の効果音では、テレビから流れるニュースの声などが絶妙で好きだった。自然災害のことについても触れていて、今の日本社会の問題をしっかり反映している感じも印象に残る。コンビニのアイドリングストップを訴える音声も同じく。

最後にその他演出について。
今作は、アゴラで小規模かつおそらく低予算で創作された初演版「シャンドレ」を、より舞台美術のクオリティをあげて再演版「シャンドレ」としてブラッシュアップした公演だと捉えているが、その結果具象になり過ぎたがために、演劇では表現しきれない映画でないと厳しい領域まで踏み込んでしまったせいで、逆にイメージしずらくなったシーンが何箇所かあったかなと思う。
例えば、樋口が事務所から喫茶店へ移動した際、よく分からない効果音だけ流れてどこに移動したのか分からなかった。分からないという方が気になってしまってこれは具象化し過ぎたのが要因かなと思う。また、町村と郡山が車から降りてコンビニに向かった時に、ハンドルだけは用意されていて、車の扉を開閉するのはエアーで、それが結構リアリティがなかったのも気になった。さらに、コンビニから出てきた?あたりのシーンでも彼らは一体どこにいるのだろうと感じてしまうシーンがあったので、そちらに気が向いてしまって、会話に没頭できなかった。
あとは登場人物が無駄に多すぎやしないかなと思う。なんのために登場させるのか、そしてリンカちゃんやママなどを登場させない意図もよく汲み取れなかった。
ただ全編宮崎弁というのは小松台東の公演らしくて好きだった。「デンギョー!」を拝見した時より宮崎弁だということをそこまで意識せずに観劇できていたような気がする。方言を使う舞台に慣れてきたためであろうか。方言がきつくて何言っているか分からないみたいなくだりがなかった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/479453/1829782



【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作に出演する俳優は男性4人のみだが、どの方も非常にリアルな演技をされていてとてもハマっていたと感じた。
4人全員についてふれていきたい。

まずは、町村弘樹役を演じた小松台東の主宰でもあり、今作の作演出も務めている松本哲也さん。松本さんの演技を拝見するのは、同劇団の「デンギョー!」以来2度目であるが、今作での役柄が秀逸過ぎて正直松本さんのイメージは泥酔した男のイメージで上書きされた。
兎にも角にも、あの泥酔しながらの演技が本当に素晴らしい。千鳥足になってふらつきながら、そして話し方もまるで寝言を言っているかのように覚束ない感じが非常に上手かった。
また泥酔していないシーンにおいても、郡山をからかったり呑気に歌を歌っている感じが田舎の男らしくて好きだった。
もし自分だったら、あんな上司がいたら相当ストレスを抱えてしまうだろう。だから郡山の気持ちには凄く共感出来てしまうのだけれど。
けれど、妻とも離婚してしまって男独り身で、ずっとこのままいつ潰れるか分からない電工に勤め続けるのは正直同情してしまう、それはきつい。でもそんな人は日本中に沢山いるから世知辛い。色々考えさせられて苦しくなってしまう素晴らしい役・演技だった。

次に、樋口透役を演じた小松台東所属の瓜生和成さん。瓜生さんの演技も「デンギョー!」以来2度目となる。瓜生さんの役に関しては、「デンギョー!」で演じられていた役とさほど変わらない、スーツ姿の上司的な立場なのであまり印象は変わらず、普通に素晴らしい演技だった。
樋口のずっしりとおとなしく構えているあの佇まいが良い。特にゆっくりと酒を正面を向いて呑む感じが好き。息子もいてある程度お金があって、会社の中でも重要なポジションにいられて、だからこそ感じられる安定感。町村と対照的だからこそ非常に抉られる。
今度は瓜生さんのもっと違う側面を演技で観てみたい。

郡山隆文役を演じた小松台東所属の今村裕次郎さんも素晴らしかった。彼の演技も「デンギョー!」以来2度目の拝見となる。
郡山の立場にはずっと共感していられたので、観ていて一番感情移入出来た役だった。妻と子供がいるのになかなか家族を顧みることが出来ずに会社の先輩に振り回される。絶対そんな社会人生活送りたくないと個人的には思うから、彼が「シャンドレ」で怒り出すのもよく分かる。
特にグッと来たのがやはり最後の方のシーンで、私服姿で酔っ払った町村の元へやってくるシーン。本当は町村のことを良く言いたいというのが泣けてくる。凄く優しい方なのだなと。だからこそ振り回されてしまうのだろうが。
それとカラオケの熱唱も凄く良かった。それまでずっと町村が歌っていたので、郡山が熱唱したのは凄く新鮮に感じられて良かった。

最後は、近藤、荒木真一郎役などを演じたKAKUTA所属の森崎健康さん。森崎さんの演技は、2020年2月に上演された「往転」以来2度目の演技拝見となる。
まず近藤の役については、非常に個人的には好きだった。あんな感じの悪い調子の良い男っていそうだし、特に高校生の樋口正徳に絡んでいくあたりが凄く良かった。テンポ良く学年や何しているかを色々尋ねる感じは本当に良かった。最後ハケる時に舌をべーと出すのも印象に残った。
荒木真一郎役に関しては、台詞が少なく、でも凄く存在感があって、グレてしまったけれどどこか優しさを感じさせる印象が好きだった。森崎さんの演技の振れ幅の広さを感じさせてくれた。
今度はKAKUTAで森崎さんの演技を久々に観たいとも思った。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/479453/1829783



【舞台の考察】(※ネタバレあり)

2020年11月に上演された「シャンドレ」初演版を観劇していないので、ここではシンプルにこの作品の内容について考察していきたいと思う。

「デンギョー!」を観劇したときにも感じたが、小松台東という劇団は今の地方の田舎が抱える閉塞感を上手く描き出していると感じる。例えば田舎はコミュニティが狭いので、ずっと同じ人間と付き合っていかなければならなかったり、悪い噂はすぐに広まってしまう。娯楽が数えるほどしかないので、都会のように遊べないのもそうかもしれない。
それに加えて、年功序列だったり、斜陽産業という日本社会の動向に左右されて衰退していく閉塞感も上手く描かれている。その点が多くの観客の共感を呼んで人気があるのだと感じている。
今作でいうと、例えば地方が抱える閉塞感という点でいうと、皆会社の社員は同じスナックに行きつける。おそらく「シャンドレ」しかないからそこに皆集まってくるのだろう。樋口が「シャンドレ」のママとやっているということも、すぐに噂されてしまう。高校の名前を出してどうこう言うくだりも地方だからこそ通じる内容かもしれない(実際「デンギョー!」でも高校の名前を出して会話が弾むシーンがあった気がする)。
また町村たちが勤める電工も、地方の人口減少に伴ってどんどん衰退している様子も会話の中から汲み取れる。今の会社が倒産したらといったような会話が劇中に登場するからである。人が減って、なんにも明るい未来が見えてこない社会の中で働き続ける辛さが上手く表現されているからこそ、私は観劇していてエネルギーを皆持っていかれるような無気力状態になったのかもしれない。

「デンギョー!」と比較して、今作で非常に新鮮なテーマだと感じられたことは、独り身中年男性が感じる孤独とそれによって引き起こされる恐怖だと思う。ここで私は映画「タクシードライバー」を想起した。
アメリカ映画である「タクシードライバー」は、ベトナム戦争から戻ってきた独り身男性を描いた物語である。この映画が公開された1970年代のアメリカというのはベトナム戦争という不毛な戦争を終えて、何も生きがいを感じない希望のない男性を大量に出してしまったアメリカの負の期間でもある。主人公トラビスは、孤独と戦いながらタクシードライバーを続けるが、拳銃を仕入れてから射撃に目覚めてしまいやがて人殺しを犯してしまうようになる。
まさに今作でいう町村がトラビスに近い状況のように思えた。町村は最愛の妻と別れ独り身となってしまった。都合の良い後輩である郡山という仲間を作って、「シャンドレ」に入り浸ることによって、そんな寂しさを払拭しようとしていた。酒に逃げられればその時だけは現実を忘れることが出来る。記憶を飛ばして爆睡することが日課のようになっていた。

ただ厄介なのは、町村の酒癖の悪さは自分だけでなく他の人をどんどん巻き込んでいくことである。
きっと郡山は妻と子供がいて羨ましくて町村はこちら側に引きずり下ろしたかったのかもしれないが、郡山をまず巻き込んでいる。それに加え、上司の樋口にも迷惑をかけている。樋口がママとやっているという噂を泥酔した状態で広めてしまっていた。
そして町村は最後に郡山を殺すという取り返しのつかない失敗をする。このラストのシーンを観劇して、酒に溺れることだけは絶対にしてはいけないと自分も戒めることが出来た。凄く怖く感じた。自分も人生転落して酒に溺れてしまったら、こんな取り返しのつかないことを起こさないとも限らない。
誰にでも起こりうる殺人がそこにはあった。

だからこそ映画「タクシードライバー」を想起させられたのである。トラビスも決して悪い人間ではなかった。社会情勢や自分を取り巻く環境が最悪だったことによって、彼は殺人を犯してしまったのだ。
孤独な中年男性は本当に危険である。だからこそ、家庭を大事にしていきたいと思うし、酒には気をつけようと思うしと、色々自分ごとに置き換えて戒めを与えてくれたという点に関して、この作品に感謝しなければと私は感じた。




↓小松台東過去公演


↓森崎健康さん過去出演作品


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