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舞台 「デンギョー!」 観劇レビュー 2021/09/04

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【写真引用元】
小松台東Twitter
https://twitter.com/komatsudai/status/1422034920872968192


公演タイトル:「デンギョー!」
劇場:ザ・スズナリ
劇団:小松台東
作・演出:松本哲也
出演:五十嵐明、尾方宣久、佐藤達、吉田電話、関口アナン、依田啓嗣、土屋翔、小暮智美、木下愛華、瓜生和成、今村裕次郎、松本哲也
公演期間:9/1〜9/7(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:地方、会話劇、社会問題、考えさせられる
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


以前から口コミ等が評判が良くて気になっていた劇団である小松台東の舞台作品を初観劇。
今作は、2013年に当劇団によって初演されたものの再演である。

物語は、宮崎県内にある宮崎電業という中小企業を舞台としたもの。
執行役員に都内で仕事をずっとしてきた生真面目な男・阿部光男(尾方宣久)が赴任してくるが、現場にずっといた地方の男たちとはまるで気が合わない。
それでも誠実な阿部は、自分なりに必死で現場の従業員たちと仲良くなろうとコミュニケーションを図る。

劇団MONOの尾方さん演じる阿部という男が個人的には凄く魅力的に感じた。
自分だったら絶対に価値観の全く違う面々となんて仕事を一緒に出来ないなと思ってしまう。
常にポジティブで、会社のことを第一に考えて行動しようとする姿に感動した。

その一方で、田舎と都会の価値観の違いだったり、経営者・営業部長と従業員の立場の違いによる衝突を所々感じさせる部分に、日本の社会問題が反映されていて心に突き刺さるものがあった。
特に印象に残っているのは、阿部はなるべく業務を効率的に回していこうと無駄を無くす努力をしようとするが、その無駄が従業員にとっては仕事をしていく上で欠かせないものだったり(例えばお菓子を食べる時間とか)する辺りが、とてももどかしさを感じた。

そしてそんな作風を、まるで観客がその現場にいるかのように日常に近い形で演出されている点が素晴らしい。
吉田電話さん演じる知的障害を持った岩切の演技や、全編宮崎弁で繰り広げられる会話、詰所の扉の向こうの緑に日差しが差し込んでいるかのような舞台美術のクオリティ。全てが限りなくリアリティに近くて感動した。

来年も当劇団の代表作の再演があるようだが、また観に行きたいと思えた劇団だった。
多くの人におすすめしたい。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/443494/1655884


【鑑賞動機】

以前から気になっていた劇団だったから。2021年5月に三鷹市芸術文化センター星のホールで上演された「てげ最悪な男へ」や、2020年11月にこまばアゴラ劇場で上演された「シャンドレ」など、評判の良い作品が過去多かったので注目している劇団だった。
今作は2013年に初演されたものの再演ということもあり観劇することにした。2021年4月に上演されたiakuの「逢いにいくの、雨だけど」に出演されていた劇団MONOの尾方宣久さんが出演されているという点も観劇の決めて。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台は、宮崎県内にある「宮崎電業」という小さな会社。営業部長の鈴木達央(瓜生和成)は、現場で働く従業員たちを呼び集めて、今日から執行役員として働くことになった阿部光男(尾方宣久)を紹介した。阿部は地元が宮崎ではあったものの今まで都内で働いており、そのスーツ姿で生真面目な性格に従業員たちは価値観の違いや距離感を覚えた。従業員のうちの一人である関和也(土屋翔)は、地元が非常に近いことで最初は話が盛り上がったが、高校どこ?の話で阿部が進学校に進学していたことで関も「頭ええんだ。。。」と呟き距離を感じてしまった。
阿部が「宮崎電業」に赴任した理由は、社長が急遽仕事から離れることになって森が社長の代理を務めることになったが、その森が傾きかけている「宮崎電業」の経営を立て直すためであった。
「宮崎電業」の従業員たちは皆、社長を慕ってこの会社で働いていた。しかし、社長が突然「宮崎電業」から離れたことによって職場に対する不満やストレスを抱え始めていたようだった。
しかし、社長が「宮崎電業」を離れた正確な理由は従業員たちには伝えられていなかった。社長は病にかかって入院しており、医師からは余命3ヶ月と宣告されていた。営業部長の鈴木と執行役員の阿部はその事実を知っていた。

詰所でのある日の夕方、事務員の壱岐幸恵(木下愛華)は定時まで雑誌を読みながら時間を潰していた。ソファーでは従業員である安田学(松本哲也)の妻である事務員の安田小春(小暮智美)が寝そべっていた。
そこへ阿部がやってくる。阿部は壱岐と仲良くなろうとコミュニケーションを取ろうとするが、彼女はその生真面目な性格と顔は悪くないのに45歳になっても独身である阿部を受け入れられず距離を置こうとする。小春も仕事中食べる菓子の量を阿部に忠告され、息苦しさを感じる。
そこへ従業員たちが詰所へ入ってくる。彼らは社長に恩を感じて仕事を頑張ってきたが、社長が不在となった今となってしまうとどこか活気がないような感じである上、従業員同士でも仲違いを始めていたようであった。
30歳で結婚し家を建てた従業員の戸高大輔(関口アナン)は、なかなか阿部の言うことを聞かない他の従業員たちに対してキレだし、取っ組み合いが始まってしまう。
鈴木や小春たちが駆けつけて事態はなんとか終息する。
そこへ、米良産業の電材屋である綟川剛(依田啓嗣)がやってくる。彼は「宮崎電業」にはいつもお世話になっていると、ペコペコと従業員や部長たちに挨拶をする。
鈴木部長の掛け声で、その日は皆で飲みに行くことになる。

朝の詰所、鈴木部長は一人でソファーで眠っていた。昨日の夜酔いつぶれて寝てしまったのだろうか。
そこへ綟川がやってくる。綟川は、自分が一番最初に担当となった先が「宮崎電業」だったと告げて、恩を感じていると仕切に鈴木部長に告げていた。
従業員たちが出勤してくる。事務員たちも出勤してくる。話は壱岐がなぜ「宮崎電業」に務めるようになったかについての流れになる。壱岐の実家も店を営んでいた。しかし、父親はおらず母親と貧しい生活をしていた。社長はその店の常連だった。壱岐を哀れに思った社長が、うちで稼いで母親を助けなさいと雇ったそうである。

ある日、従業員の前に鈴木と阿部が二人揃って二つ報告があると言ってやってくる。一つ目は鈴木がフィリピン人と再婚したという、従業員にとってはどうでも良い話だったが、阿部から告げられるもう一つの報告が従業員たちを震撼させた。それは、下請会社の田原電気の田原秀樹(佐藤達)を解雇にするという決断だった。「宮崎電業」の経営も傾き始めていたので、コストを削れる所は削っていかないといけないという苦渋の決断だった。
従業員たちは反対した。田原は「宮崎電業」で今まで頑張ってきていたし、仕事も出来ると。解雇にするというのはあまりにも酷なことだと。
色々な会話が詰所で繰り広げられ、関が学生時代にやっていた柔道を従業員の前で披露していた時、社長が亡くなったという訃報が届く。暗転する。

従業員たちは、皆作業服でしんみりした面持ちだった。鈴木と阿部がやってきて、彼らは喪服であったことから社長の葬儀の後であることが分かる。
鈴木は従業員たちに、作業服で葬儀に出席する奴がどこにおるかと怒る。しかし彼らは、この作業服こそが俺たちの正装なんだと主張する。従業員たちは社長が病気にかかって入院しているなんて聞かされてもいなかった。おそらく社長が自分が弱っている姿を従業員たちに見られたくないからだったのだろう。しかし、営業部長や執行役員たちがこの事実を知っていて隠していたことに憤りを感じていた。
しかし鈴木は切り返す。そこまで社長を慕っていたのならば、社長の家に行って今どんな様子なのかと聞きに行くことだって出来たではないかと。それをしなかったのだから、反感を買われるのは筋違いだと主張する。
そして鈴木は、自分は「桜電工会」へ席を移すことにしたと告げる。従業員たちは驚く。鈴木は以前から「桜電工会」からの誘いを受けていたが断っていた。しかし社長が亡くなったことによって気が変わってしまったと。「桜電工会」の方が「宮崎電業」よりも勢いがあるし将来性を感じるからだと。
知的障害のある岩切修(吉田電話)は、「桜電工会なんて行かない」と叫び続ける。そして、「鈴木部長も桜電工会なんて行かない」と叫ぶ。
事務員の小春と壱岐が喪服姿で詰所へ入ってくる。壱岐はショックで何も食べる気力がなかった。小春が壱岐に声をかける。「何事も一人で乗り切ろうと思わんくて良い、相手を作ったらええ、こういう時に頼れるような男性を探すとええ、あたしも若い頃そうやった」と言う。未婚の従業員である長友浩二(今村裕次郎)は壱岐に抱きつく(しかし、壱岐は逃げることはしなかったが、抱きしめることもしなかった)。

朝、鈴木はいなくなったが、執行役員阿部の元で仕事を始める従業員たち。机の真ん中にラジカセが置かれ、ラジオ体操が流れる。従業員たちは事務員たちも含めて机を囲んで丸くなり、ラジオ体操を始める。
岩切は机を周回しながらラジオ体操をする。ここで物語は終了。

日常会話劇ではあるが、執行役員の阿部が赴任してくる所から始まり、社長が亡くなって鈴木が去って阿部が管轄する新体制になって終わるという起承転結型のストーリーにはなっている。
上手く社会問題を取り入れつつ、日本の田舎ではどこにでもありそうな中小企業の日常を切り取った作品として、そのリアリティ性をとことんクオリティとして突き詰めた作品に感じた。
執行役員の阿部の業務を効率化しようという正論と、従業員たちの和気あいあいと仕事をしたいという意志は対立し、それによって経営者と従業員とで確執が生まれてしまう。また、そういった日々の従業員たちの上に対するストレスが積り積もって、社長の入院を知らなかったということで怒りが爆発してしまう。経営者と従業員はお互い分かり合えないと言われる真理が、具体的になって突きつけられている感じに心を痛めつけられた。
ただ、最後はしっかりと「宮崎電業」の職員全員が一致団結したかのようにラジオ体操をして切り替わっていくあたりに、希望を見いだせたので凄く良い終わり方に感じた。この先どうなっていくかも気になるが。
割と王道を行ったストーリー展開で非常に楽しめる脚本だったと思う。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/443494/1655885


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台美術のクオリティは非常に高くて、豪華というよりはリアリティに近いというか現実の世界がすぐそこにあるといった再現性の高さに驚いた。
舞台装置、照明、音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。舞台装置も例外なく本物の詰所がそこに存在すると言っても言い過ぎではないくらい再現性の高い造りだった。
ステージいっぱいが「宮崎電業」の詰所一室となっており、下手奥側に細い通路のようなものがあって、そこから扉があって詰所に入れるようになっている。基本的に、鈴木や阿部といった経営陣たちが入室する際に使われる扉である。
詰所中央には大きな机といくつかの椅子が設置されており、基本的に何人かの従業員がその椅子に座っている。上手側奥にはおそらく現場から詰所に来る際に一番近い引き戸があり、従業員たちが基本的にはそこから詰所へ入ってくる。その引き戸の奥には緑が置かれていて外を表していた。照明でも触れるが、この緑と日光の差す加減が絶妙で素晴らしい。本物の外に見える。
詰所の上手側には、ロッカーとソファーが設置されていて小春が寝そべるシーンだったり、鈴木が酔いつぶれて寝てしまったソファーもこれである。
全体的にクオリティが高いというのもそうなのだが、実際に地方の中小企業の現場で確かにありそうという雰囲気が非常に漂ってきて好きだった。自分自身も田舎出身で実家が材木屋で事務所を昔構えていたこともあるので、非常に懐かしい感じにさせられた。
作業服だったり、知的障害の岩切の風貌も実際にいそうだというくらい現実に似せていて非常にクオリティ高く感じられた。

次に照明。凄く今作品の照明も好きだった。
イメージ通り、特に派手な照明演出がある訳ではないのだが、ここぞというシーンでの照明の使い方が非常に上手い。
例えば、客入れ時もまるで劇が始まっているかのように会話が舞台上で繰り広げられているが、徐々に客明かりがフェードアウトしていって、舞台照明の方が強くなるようにスイッチングされている照明演出が凄く良かった。この舞台はあくまで日常の延長線上にあるということを明示しているんだなと。いつの間にか舞台にのめり込んでいる自分がいて、非常に上手い演出だと思った。
ラストの照明も効果的である。みんなで円になってラジオ体操をしているのだが、徐々に舞台照明が暗くなっていく。一方、中央の机にただ一人座る岩切にだけスポットが当たるシーンは凄く意味深な照明演出であった。ちょっとここは解釈が難しい。ポジティブにも捉えられるしネガティブにも捉えられる、というか照明効果だけを切り取ったらネガティブ要素が強いのか。みんなで円になってラジオ体操というシーンに関しては、これから「宮崎電業」を一から立て直していこう、一致団結していこうという表現の表れに思えるが、そこにはどこか活気がないようにも感じられて、そして以前いた営業部長の鈴木はいない訳で、そして経営は傾きかけていることには変わりない訳で、現実の闇みたいなものも感じられる照明効果になっている点が非常に興味深かった。
また、上手奥の緑に当たる日光の照明や、鈴木がソファーで酔いつぶれて寝落ちした朝のシーンの朝日を照明で作る感じなんかも非常にクオリティ高かった。

次は音響。
何回か暗転するシーンがあって、その度に陽気なギター音楽が流れる。田舎っぽさを象徴するような選曲で好きだった。
個人的には、ラストのラジオ体操の音楽をラジカセからしっかり流していたことにリアリティを感じられて好きだった。ラジオなので少し音質は劣るのだが、そこがまた味を出していて良い。しっかりと中央のラジカセから音楽が流れているという点でも物凄く細かいことなのかもしれないが、こだわりを感じられて好きだった。

最後にその他の演出箇所で、印象に残った点を挙げておく。
まず全ての台詞が宮崎弁というのが非常に良い。私自身は宮崎の人間でないので宮崎弁はよく分からないが、それだけで地方っぽさというのが十分伝わるし、途中で何言ってるか分からない箇所もあったのだが、それはそれで良いと感じさせてくれる。程よい感じの方言だと感じた。
会話の内容自体も凄くイメージしやすくリアリティのあるものが多かった。最初のシーンの実家が凄く近くて分からない地名で盛り上がる感じ、「パチンコ」の「パ」が抜けて「チンコ」の例えで会社の傾き加減を説明するシーンなど非常に地方・田舎を想起させる感じが良かった。タバコを吸うシーンあったり、アダルトの話をもっとしても良かったかなと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/443494/1655887


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

思った以上にキャスト人数が多くて驚いたが、どのキャストも演技が上手かった印象。特に記憶に残ったキャストのみ記載しておく。

まずは、執行役員の阿部光男役を演じていた劇団MONOの尾方宣久さん。彼の演技は2021年4月に上演されたiakuの「逢いにいくの、雨だけど」で初めて拝見した。その時から素晴らしいキャストさんだと思っていたが、今作を観て改めて彼の演技に男ながら惹かれてしまった。
尾方さんのあのピュアな感じの演技が本当にはまり役で素晴らしかった。「逢いにいくの、雨だけど」でもやはりピュアな男性役を演じていたが、このキャストさんはそういう役を誰よりも完璧に演じきれてしまう力を持っている。ピュアな人間って個人的にはあまり惹かれない方だと思っていたが、彼の演技には惹かれてしまう。そのくらい素晴らしい。
都会から地方に赴任してきて、業務効率化といって無駄を削除していこうとするが、全く悪い人間に見えてこない。むしろ正義だと感じられてしまう。それをピュアなことに、人を苦しめているとも思わず何の悪気もなく言ってくるから憎めないのだろうな。素晴らしいと思った。

次に、営業部長鈴木達郎役を演じた劇団小松台東の瓜生和成さん。彼の演技を拝見するのは初めて。昔は柄の悪いやんちゃな野郎が出世して偉くなったんだろうなというような役、人を扱うのも雑だしすぐ再婚するし、これは慕われないなというキャラクター設定。そういう荒くれ役を上手く演じきっていて素晴らしいと思った。
社長の葬儀後の、「桜電工会」へ転職するという決断も凄い。自分は絶対そんなこと言い出せないし、決断できないなと思ってしまう。ある意味かっこよく感じてしまうのか、いややっぱそんな奴だったと思ってしまう気持ちの方が強い気がする。

知的障害を持つ岩切修役を演じた吉田電話さんの、役になりきっている感が素晴らしかった。これこそリアリティの極みだと思う。
実際に、社長のご厚意でそういった知的障害者を雇う現場ってありそうだし、何よりも姿から行動まで全てがリアルで、実際よく分からないビニール袋とか下げてそうだし、フラフラ歩き回ってそうだし、いきなり笑いだしたり拍手しだしたりって物凄く知的障害者にありがちな行動だと思う。
そこを何の違和感もなく演じ切ってしまう吉田さんは素晴らしいと思った。今度は、吉田さんの普通の演技を観てみたい。

30歳で結婚して、戸建ての家も建てたという堅実な戸高大輔役を演じた関口アナンさんの演技も好きだった。長年「宮崎電業」に務めているのに、周囲に染まらず堅実に人生を歩んでいる戸高というキャラクター性にも惹かれたし、正義感むき出しな感じも好き。こりゃすぐ他の従業員と対立しちゃうよって言った感じ。
そういった役を上手く演じきっていたと思う。非常に魅力的に感じさせる従業員のうちの一人だった。

一番新入りの従業員である関和也役を演じた劇団かもめんたるの土屋翔さんも良かった。彼の演技は2020年12月の劇団かもめんたるの公演「HOT」以来2度目。
一番印象に残っているのは、柔道のシーン。一人で柔道のシーンをパフォーマンスしている姿が笑える。そしてそんなタイミングの最中に社長の訃報が入ってくるのも笑える(いや笑えない)。

事務員の壱岐幸恵役を演じた木下愛華さんも非常に魅力的なキャストさんだった。
男の中に囲まれた唯一の若い女性だから、男性だとなんか魅力を感じてしまう。結婚とかも興味なさそうで男を下に見てそうな強い感じの女性だが、社長に気に入られて雇われたこと、母親を助けたいという意志とか聞いていると涙が出てきてしまう。
そんでもって、葬儀の後は非常に社長の死を悲しんでいて、女性的な弱さみたいなものを感じさせるギャップも良かった。男だったら俺が守ってやる!みたいな気持ちにさせられてしまう。よいシチュエーションだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/443494/1655886


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

この作品は、「宮崎電業」というとある地方の田舎の小さな会社を舞台として、具象的に日常の人間模様を切り取って描くことによって、日本社会に内在する社会問題を上手く訴えかけている作品に感じられた。
私がこの作品から読み取った社会問題は、地方と都会の分断と経営者と従業員の分断である。今回の考察はその二つについて触れていく。

まず地方と都会の分断と言って想起されるのは、地方はどこへ行くにも自動車を使わなければいけないし情報が回るのも遅いしで、都会の方が圧倒的に便利で情報も早いという間隔かもしれないが、そうではなくて大人になって地方で暮らす人間の価値観と、都会に住む人間の価値観の違いについて書いていきたい。
私も田舎出身なので分かるが、高校卒業後に大学進学で東京に出る人と、そのまま就職して地方に残る人とでなんとなくの分断があると思っている。
最初は、単純な進路選択の違いくらいでしかないのだけど、やっぱり住めば都という言葉もあるくらい、長年暮らしている土地の価値観に寄っていってしまうもんなのではないかと思う。今作でも、執行役員の阿部の価値観と従業員の価値観とではだいぶ温度差があった。
おそらく阿部は、45歳まで都内でスピード感のある職場で仕事を頑張ってきて、結婚なんて考える余裕もなくて、のんびり休憩できる温和な環境でもなくて、ガツガツと仕事に邁進してきたんだと思う。都会ではごくごく普通のワークスタイルである。
一方、地方は20代で結婚するのが当たり前、仕事は家族を養うためにするようなもの。穏やかな空気感と同じ職場の人間関係を尊重しながら仲良くやっていくことが一般的だと思う。そして何よりご縁が大事。社長とのご縁、従業員とのご縁。
そういった都会と田舎での働き方の違いが、執行役員の阿部と従業員たちをまず分断していたと見ている。
この分断ていうのは、社会によって作り出された分断のような感じがして、個人的には他人事には捉えきれなかった。自分だってきっと田舎に戻れば、阿部と同じような境遇になるんだろうなと感じてしまう。そういった苦しさがこの作品では上手く表現されている。

もう一つは、経営者と従業員の分断である。こっちは世間一般的に言われている会社内における立場上の違いによる仲違いと近しいと思っている。
営業部長の鈴木と執行役員の阿部は、完全に従業員たちの反感を買うような形となっていた。阿部は彼のキャラクター上取っ組み合いにはならなかったが、鈴木と従業員たちは取っ組み合いになっていた。
ここでポイントなのが、従業員たちは皆社長に気に入られ可愛がって貰っていたことである。その恩に報いるために働き続けていたのだろう。
ところがリーダーが変わってしまったことによって会社の方針も変わっていき、従業員たちがついてこなくなってしまったのである。
経営者は会社の業績を気にしなければいけない。一方で、従業員は会社の業績も大事だが労働環境だったり待遇だったりを真っ先に考えてしまうものである。そういった優先するものの視点の違いから経営者と従業員は分断されるというのを、わかりやすく作品内で明示しているように感じた。
そしてこういう分断を生んでしまっているのも社会という存在そのもののせいでもある。

これらの社会問題を上手く観客に想起させながら、とある地方の小さい会社の現場を舞台に作品をリアルに作り上げるっていうのは凄く面白いし、とても普段得られない間隔を提供された感じがした。


↓尾方宣久さん過去出演作品


↓土屋翔さん過去出演作品


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