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舞台 「HOT」 観劇レビュー 2020/12/05

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公演タイトル:「HOT」
劇団:劇団かもめんたる
劇場:東京芸術劇場 シアターウエスト
作・演出:岩崎う大(かもめんたる)
出演:岩崎う大、槙尾ユウスケ、小椋大輔、もりももこ、船越真美子、土屋翔、長田奈麻、ラサール石井、寺田真珠
公演期間:12/2〜12/7(東京)
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆


お笑いコンビかもめんたるの岩崎う大さん、槙尾ユウスケさんの劇団である「劇団かもめんたる」の公演を初観劇。
「祭り」をテーマに繰り広げられる、地方に根付く祭りを回って研究する2人と地元民が対立するドタバタコメディ、演出・脚本は岸田國士戯曲賞ノミネートのかもめんたるの岩崎う大さん。
流石はかもめんたるのお二方で彼らが舞台の雰囲気を作っていた印象。う大さん演じる祭り研究家の、厳しく注文をつけてくるもののちょっと脱力感あって突っ込みどころ満載な演技は凄く観ていて面白かったし、神主の息子を演じた槙尾さんの度直球な感情を剥き出しにする面倒臭い役柄も非常に面白かった。そしてラサール石井さんの神主としての風格がとても見応えあった。
基本ゲラゲラ笑えるコメディなのだが、時々ドラマ的要素を感じられる節があって、例えば神主と娘のシーンがハートフルだったり、研究家たちが祭りに対して色々と調査を進めていくシーンがサスペンスっぽくて、コントというよりは喜劇の醍醐味を味わっている感じがあってとても楽しい芝居だった。
東洋を思わせるような独特な舞台セットや、オレンジを主として明るめの照明が世界観を上手く作っていて見応えがあった。
ストーリーに関しては、「祭り」とは一体何のために行われるのか、これからどうあるべきなのかという真面目な問いを観客に投げかけてくるような興味深い作品だった。
大満足の90分間で安心して万人にオススメできる作品。

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【鑑賞動機】

20年3月に上演された玉田企画の「今が、オールタイムベスト」で岩崎う大さんの芝居が面白くて興味を持ち、尚且つキングオブコントでも優勝経験があったり、岸田國士戯曲賞でもノミネートされる多方面で実績のある方だったので、気になって観劇しようと思った。劇団かもめんたるの公演は初観劇。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

とある地方の町で毎年行われる「かまりの巨人祭り」という祭りがもうじき行われようとしていた。そこへ、地方各地の祭りを回ってその祭りの由縁やルーツを調査する男(岩崎う大)と女(森桃子)がやってくる。
地元の住民たちは、「かまりの巨人祭り」とはどんなものなのかを祭り研究家たちに見せるべく、かまり神社の神主(ラサール石井)が巨大な行司を思わせるような衣服をまとって踊り出す。そして、祭りでは神主が酒を飲んで顔を赤るのが醍醐味なのだと説明する。
しかしこれを見た祭り研究家の男が、あまりにもくだらない儀式だと激怒。もっとしっかりやれと地元民に叱咤する。
その日の夜、祭り研究家の男は、この「かまりの巨人祭り」が50年前に「かまりの大きな人祭り」と呼ばれていたものが呼称変更になったことに疑問を抱き、もしかして元々は「かまり」とは男性器を指していて、あまりにも下品な祭りだったため万人ウケするように変更されたのではないかと推察する。その真偽を確かめるために、次の日は男性器の象徴として境内に祀られている、巨大な細長い石仏を調査しに行くことになる。

かまり神社の境内にある巨大な細長い石仏を見にきた祭り研究家の男と女は、神主の娘(寺田真珠)に出会う。しかし彼女は本当の神主の娘ではなく、幼い時に神主に拾われて養子となったため神主とは血が繋がっていないという。それでも彼女は神主に可愛がられたので、凄く神主のことを好いているようだ。
地元の人々の話に、祀られている巨大な細長い石仏の先端には「傘」と呼ばれる蓋があったと聞いたことから、この「かまり」の正体が間違いなく男性器であると確信に変わってきた。境内に男性器が存在するなら、この町のどこかに女性器を象徴する穴が存在するはずだと思った祭り研究家たちは、地元民を集めてみんなで女性器と考えられうる穴を探し始める。

町中にある穴を探し回る一行だったが、防空壕として使われた穴だったりとなかなか女性器と思われる穴を見つけられずにいた。女性器の象徴となる穴を探していた地元の男(小椋大輔)は、同じく穴を探していた友人からマンホールがそうではないかと電話がかかってくる始末。穴探しは難航していた。
夜、地元民と祭り研究家たちは飲み明かしていた。酒に酔っぱらった神主の息子(槙尾ユウスケ)は、自分はこの飲みの席にいるさおり(船越真美子)と付き合っていると暴露してしまう。どうやら神主の息子は、さおりの滑舌が悪いという短所までも可愛いと認めるくらい溺愛していた。
そして息子はもう一つ、彼の母親は自分が19の時に亡くしていることもカミングアウトする。
その日の夜、神主と娘は飲みの場へは行かず家で二人で過ごしていた。神主がまるで自分の血の繋がりのある娘のように可愛がっていた。

次の日、祭り研究家たちは神主に、50年前に「かまりの巨人祭り」が「かまりの大きな人祭り」と呼ばれていた時代のことを問いただす。神主は50年前の「かまりの大きな人祭り」は、境内に祀られている巨大な細長い石仏を、近所のかまり沼に何度も突き刺す儀式だったことを暴露する。それによって町の子孫繁栄を祈願した祭りだったのだと。これによって、祭り研究家たちが探し求めていた穴がかまり沼であったことが分かる。
時代に即して儀式内容が変更された祭りを元に戻すことを目的としている祭り研究家たちは、50年前に戻って男性器の象徴である境内の細長い石仏をかまり沼に突き刺す儀式を復活させようと地元民を説得する。しかし、地元に住む女性(長田奈麻)は自分が幼い頃から楽しみにしていた愛着のある祭りが、そんな下品な行為を象徴するものだったという事実が受け入れられず、祭り研究家たちに食ってかかる。また、神主の息子も母親が最期にかまり沼に身を投げて命を落としているため、その儀式を行うことに反対した。
神主自身も、50年前に自分が若かった頃、石仏を沼に突き刺す儀式を行って、あたかも自分が性行為好きであることを見せびらかすような儀式に嫌気が指し、実際自分の妻もそれが嫌で沼に身を投げてしまったため、自らその儀式を抹消したのだと言う。

さおりは自分の好きな相手が、「かまりの大きな人祭り」として儀式を行って欲しくなくて沼へ身を投げようとする。それを止めに来た一行。
そこへ神主がもう一つ真実を暴露する。50年前の儀式で石仏を沼に突き刺す行為とは別に、神主自身が女性と性行為を実際に行うという行為も儀式の一貫に含まれていたのだと。それは妻とは別の女性であり、その性行為によって産まれたのが形式上養子として引き取った娘であったのだと。すなわち、娘とは血が繋がっていたのだと暴露する。
息子は彼女に対して「半分血が繋がってたー」と言う。
娘は、ここまで神主が自分に優しく接してくれた理由が分かると共に、本当の父親であることを知ってほっこりした場面で物語は終了。

文章で書くと非常にセクシュアルな作品のように感じるが、舞台としてアダルトな感じは全くない作品だった点がなんとも不思議。こういった題材を嫌らしさを全く感じさせずに作品にしてしまう、う大さんは凄いと思った。
またコメディタッチな作品でありながら、現存する「祭り」としての意味を改めて考えさせられる良いきっかけにもなった。地元で祭りはよく行われているけれど、本来はどういった意味があったのだろうか、なんて考えたこれを観た観客も多くいたはず。そういうストーリーとして厚みのある作品という意味でもとても素晴らしい舞台だった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

私がこの舞台で目を引いたのは、舞台装置と照明だったのでそちらについて詳しく書いていく。

まずは舞台装置だが、とくに大きな仕掛けとかがある訳ではなかったが、デザインがとても良い世界観を作り出していて好きだった。
まず舞台の両サイドには大きなパネルが立っているのだが、シンメトリーになっている訳ではなく下手側のパネルの方が大きかった印象。デザインはまるで東洋を彷彿させるようなもので、詳しくは舞台写真を見てイメージして頂きたい。説明が難しい。
上手側に天井から吊り下げられていた雲をモチーフにしたオブジェも印象的で、こちらも東洋らしさを感じるデザインが好きだった。
それから、唯一具象的に登場する舞台装置である、境内に設置されていた男性器を象徴する石仏は、形状は縦に細長く先が尖っている点も良いのだが、しっかりとしめ縄が飾られている点もデザインとして良かった。存在感がある。
また、家の玄関になったり、横にして洞穴のように使用できるアーチのような舞台装置も印象に残った。こちらのアーチ部分の装飾も東洋っぽいデザインである。

そして照明が凄く素敵だった。
全体的に印象に残ったのは、オレンジ色の夕方を想起させる照明。舞台装置のデザインに明るみのある色の照明がとても似合っていて好きだった。
また、カーテンコール時に背後のスクリーンに登場する「HOT」という文字も好きだった。
雨が降り頻るシーンの雨のプロジェクションマッピング的な演出も印象に残った。

音楽は客入れ時のインディーズ感あるBGMが好き、コメディがはじまるぞっという感じが伝わってきてワクワクを倍増してくれた。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

個性豊かな役者9人だったと思うが、その中でも特に印象に残った役者を数人書き記しておく。

まずは、今作品の演出・脚本を務めながら祭り研究家の男性を演じていた、かもめんたるの岩崎う大さん。以前玉田企画の「今が、オールタイムベスト」でも演技を拝見しているが、今作品ではより存在感があってかなりやばい奴を演じていた印象笑
あの手厳しめな性格をしていて突っ込みどころ満載な脱力感が好き。特に序盤の舞台の雰囲気作りはう大さんがほぼ一人でやっていたという印象。「プライドは溶かして流して」や「死んじゃう」のような印象に残る台詞もちらほらあり、彼の演技による「かまりの巨人祭り」へのダメ出しが一気に雰囲気を作ってくれていて凄く良かった。
それと衣装が凄く似合っている。髭を生やして、セーターの上にネクタイして帽子を持っている姿が凄くお洒落に見えた。

次は、岩崎う大さんの相方で神主の息子を演じていた槙尾ユウスケさん。槙尾さんの演技は初めて拝見したが、物凄くお笑い芸人らしさを感じさせる安心感のある演技が印象的だった。凄くロバートの秋山さんにキャラクターが似ていた。
あの感情の赴くままに心の声を叫ぶ感じが良くて、死んだ母親に彼女ができたことを報告して彼女の良さを叫ぶあたりは凄く好き。それから、飲み会での顔を赤たり白くしたりする演出と共に、酔っぱらった様子で自分のことをどんどん暴露していく演技も好きだった。

神主を演じたラサール石井さんは、年配である分風格があって落ち着いた演技が印象的だった。
印象に残っている演技は2パターンあって、一つ目は序盤のう大さんに手厳しく指示されながら体を張って巨人祭りを稽古していたシーン。無理をしてむせ返るシーンが印象的。「死んじゃう」というう大さんの台詞も相まって面白かった。
もう一つは、娘とのやり取りが物凄くほっこりする点。娘に肩を叩いてもらいながら、優しい子だなと呟く親子関係に物凄くグッと来た。終盤までの展開を知っていると、涙が出てきそうなほどほっこりとしたシーンであったんだなと思えてくる、あのシーンだけもう一度見たくなる。

女性陣の活躍も素晴らしい。
長田奈麻さんと森桃子さんは共に初めて演技を拝見したが、どちらの女性もひょうきんでパワフルなこと。凄くコメディ芝居に向いているし安定感があった。
サンミュージック繋がりで初めて劇団かもめんたるの公演へ客演した、神主の娘を演じた寺田真珠さんも素敵だった。凄く透明感があっておしとやかな女性かと思いきや、バカ殿様に出演していた優香さんと同じ系統なんだろうか、馬鹿っぽく演技をする点が凄くギャップがあって良かった。
これからの女優としてのご活躍を期待したい。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

最近の観劇ジャンルは、抽象的だったり哲学的だったりシリアスな作品ばかりだったので、久々に純粋なコメディ舞台を観劇した運びとなった。
コメディを観て思ったのは、コントと違って役作りがしっかりなされている印象があった。う大さんの手厳しい祭り研究家のキャラクターだったり、槙尾さんのダメ息子っぷりだったり、さおりちゃんの滑舌は悪いけど凄く良い子だったりと。凄く役者を一人一人観ていて、自然とキャラクター的に好きになれるような人物設定になっていて、しっかりキャラクターとして確立されているあたりが演劇だと感じた。
もう一つは、笑いだけでなく感動やハラハラドキドキ感を感じさせてくれるストーリーだった点である。勿論笑えるシーンが多かったという印象だが、ストーリーとしてしっかりしていて、ラストの神主と娘の関係性だったり、徐々に「かまりの大きな人祭り」の正体が分かっていったりと、ストーリーだけでも十分楽しめる箇所にも、コメディの良さってあるんだなと感じた。

そして更に笑いだけでなく興味深い点としては、そもそも「祭り」とは何のためにあるのかという問いかけも観客側に向けられていることだろう。
普段何気なく祭りとは特別な1日という感じがして、みんなではしゃぎ回るみたいな風潮があるが、元々祭りには表と裏があって、その裏側には儀式としての意味合いが存在している場合が少なくないだろう。
例えばこれからやってくるクリスマス、こちらも元々はキリストの生誕を祝う儀式的な意味合いが存在しただろう。しかし、近代にディケンズのクリスマス・キャロルなどによって一般的にみんなで賑わうパーティー的な要素が強まって、現在のようなものに形を変えていったのだろう。
クリスマスだけでなく、身近にある祭りもそうやって本来あった意味合いを失って形を変えて現在に伝わっている場合も多いはず。以前烏丸ストロークロックの舞台「まほろばの景2020」で触れた神楽も、地方によって裏側の儀式的な意味合いは異なっていたが、時代と共に変化して今の形になったことも触れられていた。

今作品で挙げられていた男性器を祭ることはかなり例外かもしれないが、実際に田縣神社という男性器を祀る神社も存在する訳で、今作品に登場することはあり得なくもない話である。
重要なのは、普段何気なく触れている事柄にも元々の意味や裏話が存在するといったこと。そこを大切にすることによって、守られる伝統もあるってことは頭の片隅に置いておいた方がよいということを、この作品を通して実感した。

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【写真引用元】

劇団かもめんたる公式Twitter
https://twitter.com/gekidankamo1
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/news/407206

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